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応答せよ、白石さん

作者: 瀬川潮

「こちら白石。感度良好だ。どうぞ」

 あまり知られてないが、警察組織には「迷宮入口課」というのがある。組織図には載らないはぐれ部門だ。

「こちらも感度良好。どうぞ」

 当然、そういった課にははぐれそうな刑事が回されるわけで。

「用件は何だ。どうぞ」

 某県警の迷宮入口課の課長、高橋名人は引き続きため息交じりににそうつぶやいて写真を取り上げる。ちなみに名前は「たかはしめいと」と読み、特に何かの名人というわけではない。格子柄好きで、ネクタイも青色系のチェックだ。

「お前、白いのか。どうぞ」

「いや、黄色だ。どうぞ」

「ならばお前、石か。どうぞ」

「そんなわけないだろ、どうぞ」

「じゃあ白石ってどういう意味だ。どうぞ」

「三重に偉大なヘルメスという意味だ。どうぞ」

「アホ言いなさんな。どうぞ」

「アホとは何だ、アホウ。どうぞ」

 次々写真を取り上げて読む高橋。すでに彼自身ノってきたのか、口調を微妙に変えて一人漫才状態だ。

「盛り上がっているところスイマセン」

 デスクでふんぞりかえる高橋の前に、一人の女性が立った。同課の新人、引田天孔だ。ここに回されたということは当然彼女もはぐれそうな刑事で、はぐれるどころかよく姿をくらます。

「一連の事件に関係するかと思われる、新たな事件です」

 引田はそう言って一枚の写真を差し出した。

「……『アホウはそっちだ、アホウ。どうぞ』」

 今までと同じように読み上げる高橋。さすがに呆れ顔をしている。

「当然、今までの十二件の死亡事件と同じように今回の事件も、前の十二件の死亡事件との関連はまったくありません」

 きっぱりと引田は付け加えた。さすが迷宮入口課に回されてくる事件ではある。

「同じなのは、この『白石さん』がらみでやり取りしているようなダイイング・メッセージだけか」

「あと、いずれも死因が原因不明の心臓発作というのが一緒ですよ」

「心臓発作で死んだ者がダイイング・メッセージを残せるんかいとかいう突っ込みどころはあるが、ゆえに他殺で殺人事件の可能性がある、か」

 またため息をついて高橋は頭をかいた。

「ところで課長」

「何だね」

「我々は、この事件をどうすればいいのでしょう。犯人逮捕ですか、解決ですか、解明ですか?」

 引田が聞いた。

「当然、迷宮入りさせることが我々の使命だ」

 高橋の言葉に、引田は「そうですか、難しい部署ですね」と答えた。ちなみに、引田ははぐれそうではあるが優秀な刑事である。

「ああ。難しい。世の中、解明してはならん事件というのは意外と多いからなぁ」

「迷宮入りさせるのが目的だとしたら今回の件、このまま放っておいてもだらだら続くので長引きますよ。何とか流れを止めないと」

「分かっている。すでに手は打ってあるんだが……」

 そこまで言ったところで、デスクの電話が鳴った。高橋は応対したあと、にやっと笑った。

「来た。心臓発作で死人が出たよ。すぐに現場に行くぞ」

 二人は急いで部屋を出た。


「間違いなく、心臓発作での死亡です」

 現場の職員が高橋に説明した。彼の背後には死体があり、突然吐血した。

「まずい。ダイイング・メッセージを書くぞ!」

 まず原因不明の心臓発作で死んでから突然血を吐き、その血でダイイング・メッセージを自ら書くことは、防犯カメラが偶然記録していたケースがあったので理解している。

 高橋は動きかけた死体の腕をがっと掴んで止めると、自らその腕を動かしてダイイング・メッセージを書いた。

「ふう。これでもう、『応答せよ、白石さん』で始まった一連の事件は止まるよ」

 満足そうに言う高橋。

 足元には「ええ加減にしなさい。どうぞ」と書かれたダイイング・メッセージと死体が転がっている。

 こうしてまた、迷宮入口課の活躍で迷宮入りした事件が一つ、増えた。



   おしまい

 ふらっと、瀨川です。


 他サイトの同タイトル企画に出展した旧作品です。

 けいさつによるげんばでおこなわれるごうほうてきにんむすいこうのやみのぶぶんをおたのしみください(

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