C-4
セピア色の視界は、女のものではない。
おそらく誰のものでもないのだが、えらく不安定だ。
まるで炎のように揺らめく。
ここは中庭だろうか。
「お待たせしました。」
優しい声が聞こえ、女が振り向く。
長い髪を後ろで結んだ男が女を見ていた。
あれ、Bじゃね?
「あの…突然すみません。これを渡したくて。」
女が男の手に何かを乗せた。
キラキラと光って見づらいが、宝石の類だろうか。
「これは?」
「何か、手向けにならないかと…。」
女が少し目を伏せながら言う。
ああ、別れ際にありがちの、と考えていると、男が女の手を握り、寂しげに微笑んだ。
「あなたに似合っていると思っていたのですが…。」
「え?」
「白くて、綺麗で、温かいあなたの手に。」
恥ずかしげに頬を染め俯く女は心なしか嬉しそうだ。
ありがとうございます、と微笑んだ。
そこで場面が儀式へと変わる。
炎が油の染み込んだ服へと燃え移り、女が絶叫する。
誰に向かってかはわからないが、必死に手を伸ばし助けを求めているようだ。
微かに聞こえる声が、痛々しく木霊する。
女の視点に切り替わった。
伸ばした手が視界に入っている。
燃え盛る炎は容赦なく女の体を包み込み、あの男に褒められた手さえ優しく、酷く飲み込んでいく。
「ああ…。」
漏れた声はすでに限界かと思われるが、それでも女は言葉を紡いだ。
手が…と虚ろな意識でさっきオレ達に見せた男との逢瀬を思い出しているのだろうか。
助けて…と弱弱しく呟いた時、
「美雪。」
Bが映像に割り込んだ。
同時に視界が元に戻る。
「キレイだよ。」
しっかりと手を握って優しく微笑む。
まるであの男のように。
「白くて、キレイで、温かい。」
女の人の手だよ、とBが目を細めると、燃え盛っていた炎が消えた。
美雪が大粒の涙を流す。
「指輪…持っていてくれたんですね…。」
ありがとう、と美しい笑みを見せたその顔が、体が、段々薄くなっていく。
漂っていた熱気が消え、冷え込んだ空気が舞い降りてきた。
「終わった…。」
Aが呟いた。
「あ、ゆき。」
今まで気づかなかったが、ここには天井がないらしい。
さっきまでは熱のおかげで溶けていた雪も底まで降りてこられるようになったのだろう。
ため息をつきながら下を見ると、地面から雪のような白いものが浮かんできた。
空へと舞い上がるそれは、雪と混ざって、降っているのか昇っているのかわからない。
「…オレ、写真撮るの好きなんだけどさ、」
「うん。」
Dが反応する。
「違うんだよな。」
「うん。」
違う。
オレが撮りたいのはこんなのじゃない。
「こんな悲劇が撮りたいわけじゃないんだ。」
その言葉に反応するように、景色に切れ目が入った。




