C-1
気持ち悪いと思った。
起きたら断崖絶壁。しかも一面真四角。
これは何だ。オレはホテルに泊まってたはずだ。久しぶりに一人で羽を伸ばせると、少し遅めにチェックインして風呂入ってゆっくり寝たらこれだ。
このホテルにはワープ機能でもついているのか、クソが。
とにかく情報収集をしよう。これは異常事態だ。
歩いていれば誰かしらに会えるだろう。人間という保証は全くないが。
そうして改めて見た景色はやはり気持ち悪かった。
太陽、雲、海、木、地面、全て四角。水面に映ったオレだけが丸い。
明らかに異常なのはむしろオレの方だ。なぜこんな孤独感を感じなければいけないのか。誰か理由を教えてくれ。
ぼんやりとしながら歩いていたら足を踏み外した。いつの間にか崖っぷちを歩いていたらしい。遠近感がよくわからないのはダメだな。
そのまま落ちた。空中で体が横になる。
あー、きれいだなー、とか考えてみる。こんな世界でも空だけはきれいだ。よく見るとそれも四角い。大きな立方体の箱に立方体のブロックを積み上げたような、そんな世界だと死ぬ間際に理解する。
体が地面と衝突した。
…と思った。
目の前には、場所こそ違えど真四角の世界が広がっている。
オレは死んだんじゃないのか?
なぜベッドに腰かけている?
ケータイで知恵袋サイトを開いて検索する。どうやらリスポーンというシステムらしい。よくわからん。
ゲームの話だが、ここはそうなのだろうか。
だが別にゲームをやり込んでいるわけではないし、やはりここに招かれた理由がわからない。
考え込んで気付かなかったが、見渡してみるとすぐ近くにもう3つベッドがあった。これがリスポーン地点なら、あと3人は人間がいるってことか。
近づいてみると、早速四角くない奴がいた。
ベッドにもたれかかり、調度良い気温と日差しと風の中、気持ちよさそうに寝ている。
膝の中の猫は四角で、こちらを見てニャーと鳴いた。不自然な目がなんとも気持ち悪い。こっちみんな。
また猫が鳴く。その声に反応して男が起きた。眠そうな目をこすりながら見上げてくる。何だこのアホ面。
「おい。」
俺を確認しても反応せず、また寝ようとしやがるから声をかける。
「ここどこだ。」
「……しらない。」
呂律の回っていないながらもしっかりと返事してくれた。こいつは喋れる奴だ。
「…あんただれ?」
「オレはC。あんたは?」
「D。よろしく。」
立ち上がって背伸びする。案外背が低い。オレはだいたい175㎝だから、160代くらいか。
無表情なままこちらを見て、もう一度確認すると、
「あぁ、しかくじゃない。」
「遅ぇよ。」
こいつ、危機感というものがあるのだろうか。
気持ち悪い猫と戯れているのを見る限りではそんなものがないようだが。
少し不安になってきたが、なるべく同じ生物同士近くにいた方がいいだろう。
どれくらいの時間が過ぎたのか、太陽が少し高くなっていた。