D-3
話し合いは進まなかった。みんなずっと黙ったままで、何の意見も出ない。
(それもそうだ。)
おれは早々に考えることをやめた。無意味だと思ったから。
招かれた理由なんて、招いた奴にしかわからないだろうに。
それでも3人は必死に考えているようだ。
静かで重い、この空気には耐えられない。
「ちょっとでてもいい?きぶんてんかんしたい。」
「どした?大丈夫?」
「うん。ごめんね。」
心配してくれたBに笑顔を見せて外に出る。
話始めたのは昼すぎだったけど、もう夕方になっていた。そんなに時間が経っていたとは思わなかった。体感時間って、案外当てにならないものなんだな。
伸びをして、それから深呼吸して。
クツを脱いで、クツシタも脱ぐ。
ゆっくり、ゆっくり、マイペースに。
海に足をつけると、冷たい水がまとわりついた。
「……つめたい。」
しばらくボーっとしていると、後ろからAが来た。
おれと同じようにして海に入る。
「何してんの?」
「とくになにも。」
「海好きなの?」
「きらい。」
首を傾げられた。それもそうだ。嫌いならわざわざ入る必要もないから。
「そんなにこのせかいからでたいかな。」
「え?」
「おれはこのせかいきらいじゃないよ。」
元の世界に戻るくらいなら、この世界で暮らしていきたい。
作業が好きだから飽きない。猫も豚もかわいいし、敵は厄介だけど気にならない。
むしろこの世界を気に入ってるのかもね。
しばらくAと話していると、BとCもやってきた。
「無理だわ。」
「考えてもわかんないよー。」
2人も海に入った。4人並んで四角い水平線を眺める。
今にも沈みそうな太陽が眩しい。赤い空と青い空が混じってきれいだ。
「Dはこの世界気に入ってるんだね。」
「うん。」
「僕も嫌いじゃないけどさ。」
「うん。」
「ただ元の世界に妹がいてさ。」
「うん、」
「やっぱ顔見れないのは嫌だな。」
Aがケータイで写真を見せてくれた。
「俺も弟達がなー。」
「オレも姉貴が様子見に来るんだよ。」
おまえは?と3人が声を揃えて言う。おれの方を向いて目を輝かせてくるので言わざるを得ない。
「おれは…ねこが3びきいる、かな。」
「「えー。」」
「人間じゃねえのかよ。」
だって親とも兄弟とも一緒に住んでないし。恋人もいない。
でも大好きな猫はいる。かわいいあいつらと一緒に昼寝できないのは寂しい。
やっぱりこの世界じゃダメかな。
「かえりたいね、あのせかいに。」
ポツリとつぶやいたその時だった。
どこからか女の子の声が聞こえた。
「やっぱりダメ。」
「あ、この子!」
Bが叫んだと同時に空が崩れ始めた。