A-1
目覚めたとき、目には一面に広がる空が映っていた。体を起こすと、次に映ったのは海。
いったいここはどこだろう。
昨日は確か、残業してから帰ってきて…フラフラとしながらも風呂に入り、髪も乾かぬままベッドへ入ったはず。しかしここは自宅ではない。
一つだけわかることは、ここは知っている世界ではないということ。さっきから浮かんでいる雲は立方体を組み合わせたような形をしているし、浜辺は不自然に分かれている。
「そうか夢か。」
ならば早く目を覚まそうと頬をつねる。目を開けてみても光景は変わらない。しかも痛い。痛みが足りないのかと、さらに力を込めてみるが、やっぱり変わらない。
これ以上はやめよう。まるでMみたいじゃないか。
自分の置かれた状況がよくわからないまま時間が流れた。四角い太陽は少しだけ高くなっている。
とりあえず立ち上がる。とりあえず背伸びする。
後ろを見ると森だった。木はやっぱり四角い。人を探すため、その周りを歩く。中にはどんな動物がいるかわからないし危険だ。虫も苦手だし。
誰かいてくれたらいいのに、と声に出してみる。何を言っても、波の音と足音が交差するばかり。風は頬を撫でてどこへ行くのか。
さて、どうしたものか、と頭を抱えていると、森の中から何やら変な音が。どうやら人の声だ。それはどんどんと近くなっている。走っているのか、テンポの速い足音のようなものも聞こえてきた。
「誰かいないのおおおおおおおおおおお!?」
叫びながら飛び出して来たのは茶髪のイケメンだった。
この世界で初めて見る四角でないもの。
それは僕を確認すると嬉しそうに笑った。
「あー!!!人だあああああああああああああ!!」
正面衝突。
巻き込まれた。
人身事故。
二人して数メートル転がって浜辺でストップ。
人同士でも死にかけるんだなって他人事のように思った。
「ねえねえあんた誰!?どこから来たの!?てかここどこ!?」
「あのっ、」
「あ、ごめんごめん。」
質問攻めしちゃダメだよね、笑いながら言うその人はやっぱり人の形をしていた。顔や腕についた砂を払いながらニコニコと笑顔を向ける。
「俺以外の四角くない人に会うのって初めてだから!」
心底嬉しそうに笑う。その表情は太陽に似ている、と思った。もちろん元の世界の、自然なやつ。
「あんた、名前は?俺、B!」
「え…と、A…です。」
「ねえ、ここって、異世界かなっ!?」
この人は、僕がずっとわからずにいた答えを簡単に導いてしまった。
どうやら本当に異世界に来てしまったんだ。
太陽はすでに空のてっぺんに居座っていた。