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嫌な再開

町中で、二人の人間が再会を果たした。

一人はその再会を全力で喜び、込み上げてくる興奮を隠しきれずに

嬉しそうにもう一人に話しかけている。

一方、話しかけられているもう一人の人間は、

この再会をあまり喜んではいなかった。


「にしても本当に久しぶりだね!中学以来じゃないか!」


満面の笑みで話すのは羽野山諦等。

年も中学でのクラスも2年生からずっと一緒だった。

質問したいことはいくつかあるが、まずはこっちが質問に答えなくてはならなそうだ。


「にしても酷いよね。卒業とほぼ同時にどこへ引っ越すのかも誰にも言わずにどこかへ引っ越しちゃうし、おまけにこっちから連絡もできないようにしちゃうしさ。僕くらいには教えてくれても良かったんじゃない?」


「何を勘違いしているかは知らないけど、僕は諦等のことをそこまで信用できる人間だとは思ってないよ」


「ひっどいなぁ〜。これでも心配してたんだよ?」


心配などまるでしてないかのような素振りを見せる。


(諦等は何も変わってないな)


本当に変わっていない

誰にでも馴れ馴れしく、フレンドリーで

初対面の人間からしてみれば気味が悪いとも言える。

もっとも、中学時代は彼が一番近くにいた知人と言えるのだが。


(まあ、好きではないな。断言できる)


心の中でキッパリとそう言い切りる。

そして、分かりきった質問を目の前の人物にした


「まさか挨拶しにここまで来たの?偶然ってわけでもないんでしょ」


目の前の人物は依然として余裕のある表情で質問に答えてくる。


「まあね。けどねそれは今回だけだよ?

犬を見つけたのは本当に偶然だったんだ。

一週間前にここらへんに用があって来たんだ。

そしたらさー。たまったま見つけちゃったんだよ」


今回だけということは、

この再開は意図的に仕組んだものということになる。

もしこのことを僕が知っていたら全力で回避しただろう。


「僕を?」


「そうだよ?君以外に誰がいるんだい。

その時は後ろ姿だけだったから確証はなかったんだけどね。

ちょっと気になってここら辺の高校を調べたら

ビンゴだったってわけ

いやさー頭はいい方だとは思ってたけど、随分良い所いったね。

東大行けちゃうんじゃない?」


「東大舐めんなよ?」


「…アハハ。」


珍しく切れ口調の犬に、少しだけ身じろぎする諦等。


(犬は昔っから変なところに地雷があるよねぇ。)


一方、僕は、手をぐーにし口の当たりに持っていき

これからどうすべきか一生懸命に考えていた。


(他の同級生にここをばらされたら、本当に最悪だ。

ただでさえ、今はゴタゴタしてるのに)


それを、読み取ったのか諦等はニコリと笑う。


「大丈夫だよ。犬が思ってるようなことはしないよ」


そう言って諦等は犬の肩に手を置いたが、

犬はすぐさま、それを振り払い睨みつけた。

諦等はいつもそうだ。

人の考えていることを見透かしたかのように話し、

見下すこともあれば、慰め、脅すこともある。


気味が悪い。


羽野山諦等にはピッタリの言葉なのかもしれない。


時間は夜の9時になろうとしていた。

次第に人の数も少なくなり、

やがて二人のいる場所には二人以外誰もいなくなっていた。


「諦等は…まだ医者を、目指してるの?」


中学の頃、諦等が毎日のように読み、

持ち歩いていた医学の本は今は見当たらない。


「んー。半分半分かな。

ちょっと面白いものを見つけちゃってさ。例えば」


目の前をものすごい速さで何かが横切った。


「なっ…!」


諦等がパーカーのポケットから素早く何かを取り出し、

目にも止まらる速さで鼻先スレスレで、振り上げたからだ。

諦等が持っている物。

よく見るとそれはナイフだった。


「銃刀法違反って言葉知ってる?」


あくまで冷静に話しかける犬。

それに対し諦等は笑顔で答える


「大丈夫これ。ステーキとかを、切る方のナイフだから」


「ホントだ…。」


(こいつ今、一応刃物を人に向かって振り回したんだよね?)


まるで自分は何をしても罪にはならないとばかりの素振りだ。

それどころかこの状況を楽しんでいる。


「当たったらどうするつもりだったの?」


「止血するね」


「殴っていい?」


『嫌だよ痛いじゃん。何言ってるの?ははは』


(こぉんのぉ)


普段めったキレない僕もさすがに今のは

イラッとしたらしく口元では苦笑いを浮かべているけど、

表情にはイラつきをあらわにしている。


(けどおかしい。今のはどう考えても避けられたはずだ。)


いつもなら些細なことでも体が勝手に避けてくれるはずが

明らかに攻撃ともいえる諦等の行為に反応しなかった。


(まさか…あの異常ともいえる反射神経が反応しないことがあるのか?)


「どうしたの犬?何かあった?」


わざとらしく問いながらニコリと笑う諦等を見て僕は察せられた。

こいつの仕業だと。


今日で何度人を睨んだだろう。何度イライラさせられたことだろう

犬は今日一番の迫力で諦等を睨みつけ、言った。


「僕に何をした?」


「さーね。」


こみ上げる胸の高ぶりを我慢できずに、にやける飽等。


(あはは、犬が本気で怒ってるよ!こんな表情を見るのも本当に久し振りだなぁ)


「じゃあ僕はもう帰るよ。

あんまり夜遅くまで外をほっつき歩いてると不審者に襲われちゃうかもしれないしね。」


「不審者ならいまここにいるけどね」


「あはは。言うと思った。」


犬の横を通り過ぎながら、犬の肩にわざとらしく手を滑らせ

犬の真横を通り過ぎたかの様に見えた。


「なーんてね!」


が、飽等はすぐに体をターンし、なんのためらいもなく

先ほどのナイフで犬の背中に向かって切りつけた。


「……っ!」


不意打ちを食らったはずの犬。

しかし切りつけられる前に綺麗に犬はその攻撃を避けた。

その時に少し無理な体制で避けたため背中を痛めてしまったが。


「へえ」


関心の声とともにそのまま空を切るナイフ。

犬の意志とは関係なく、体が勝手に判断し避けたのだ。


「すごいね!後ろからの攻撃も避けれちゃうほどなんだね。

まさに異常反射って感じ。」


「…随分、僕のことを調べたんだね。」


痛めた背中をさすりながら苦笑いで答える。

ほぼ人に話していない情報も筒抜けだとわかり

諦等への警戒心が1高まった。

しかしもう警戒心はMAXなのであまり意味はなかった。


「まあね。僕も持ってるんだよギフト。

僕のギフトについてはまだ秘密だけど。

犬は頭がいいからすぐに分かっちゃうかもね。

今日は挨拶だけだよ。」


クルリと、体を今度こそ僕の反対側に回転させる。


「それじゃあ、またね」


手のひらをヒラヒラと振り『またね』の部分を強調させ

ニッコリと笑って諦等は立ち去っていった。

その姿を見送ると出た言葉は一言。


「はぁ…。僕も帰ろ。」


昔から全く変わっていない知人に対して何を感じることもなく、

千草とは違い諦等に恐怖を覚えることもなくごく自然に犬はそれが当たり前のように今の出来事を受け入れていた。


予定よりも帰りが遅くなり、

どっと疲れも出てきた。

家に帰ったらお風呂に入ってさっさと寝よう。

そう思って犬も諦等とは反対の方向に歩き出した。


「異常反射…か。」


 



【ラーメン屋にて】


「美味しいかい静流くん?」


そのすぐ横で頷きながら

スルスルと正祖に醤油ラーメンをすする静流。

だがラーメンの減りは速い。

なんだかんだと美味しそうに食べる彼を見て

小包は嬉しそうな表情を浮かべる


(俺が作ったわけじゃないけどやっぱ出した物を食べてくれるのはいいよねぇ。)


想像上のペットが出されたご飯を一生懸命食べている姿を想像し、それを今の静流と重ね合わせる自分がいる。


(いける!静流くんが犬だったら間違いな飼っちゃうね!)


(いけない。いけない。静流くんはワンちゃんじゃないもんね)


直に我に返り、静流を見て、またにやける小包。

それはまぎれもなく保護者の眼差しだ。


「にしてもその食べ方じゃあまだまだだよ静流くん」


「どうゆうことでふか?」


口にラーメンをモゴモゴと含みながら喋る静流。

小包は、正しいラーメンの食べ方を静流に伝授するためちょうどできた醤油ラーメンを店主から受け取る。

二人がいるのは路地裏のラーメン屋【山猫ラーメン】だ。

今では珍しい屋台のラーメン屋で外で食べるスタイルとなっている。


「Japaneseラーメンはこうやって盛大な音を立てて食べるのが一番おいしいのさ。」


箸でラーメンをすくい、

口元に運び盛大な音を立てて食べるのがる小包。

ズゾゾゾゾゾゾゾゾッと軽快な音があたりに響く。

それを見て静流は行儀が悪いような気もしたが上司のスタイルを見様見真似する。


「こうですか?(ズゾゾゾゾゾゾゾゾゾ)」


ゾゾゾゾゾゾゾゾッという音がもうひとつ現れた。


「不思議です…。こっちの方が美味しい気がします」


そのままラーメンをすすり続ける静流。


「まあ気分の問題なんだけどね。」


ニコリと笑いながら、

表情は笑っていないが目では喜んでいる静流を見守る。

それに気づいた静流は


「どうしたんですか?」


スープを一滴残らず飲み干し

不思議そうに小包の顔をのぞき込んだ。


「何でもないよ。それよりまだ何か分からないことはある?

さっき話したので一通り話したんだけど」


「あっはい。大体分かってました。

あっでも一つ気になるんですけど」


思い出したかのように言う静流。


「何何?なーんでも答えちゃうよん」


「風宮…さん?の事なんですけど。さっき魔法みたいだってあれはどういう意味なんですか?ギフトがそういった類ってことですか?」


何て呼べば分からずに少し戸惑い気味に訪ねてくる静流。


「あーそれはね。別にギフトが魔法みたいなって感じでもないわけよ。さっき言ったとうり、

彼は人と話す能力が普通の人より長けている。

だから仲介なんて仕事をやっているんだよ。風宮くんにこの仕事を紹介したのは俺なんだけどね。」


「そうなんですか?」


『うん!町中で歩いてるのを見つけてね。いいバイトがあるんだけど、どう?って誘ったんだ』


小包はその時の事を思い出したのかニヤニヤしながら話しかけてくる。


(うわ、怪しい誘い方…。)


そんな誘い方されて、はいやりますなんて答える人なんているのだろうか。できればいないと信じたい。


「でも初対面の人をいきなり怪しいバイトに誘うのはどうかと思いますけど」


「怪しいって…全く。そんな俺が見境なくほいほいこっち側の世界に人を引き込むわけ無いでしょ?」


「えっとつまり?」


ニィっと小包は笑い、スッと顔を静流に近づける。

いきなりの行動に目を見開く静流。

小包は静流の耳元で囁いた。


「ここだけの話俺のギフトはね。ギフトを見抜くギフトなんだ。

ようは、ギフトを持ってる人間を見抜くことができるってこと」


小包はそれを言うとすぐに顔を引っ込めた。


「とわいえ、ギフトを持っているのが分かるだけでギフトの内容までは分からないんだけどねぇ」


「このことは内緒だよ。知ってる人間だってそう多くないんだから。」


「分かりました。」


「うんうん。素直でいいね。

で、風宮くんのことだけど彼のギフトは異常反射っていってその名のとうり異常な反射神経を持っている。ギフトの種類としては性質型だね」


「性質…型?」


首を傾げるようにして言う静流に対し小包は得意げに説明を続ける。


「そっ。ギフトも種類で分けることができてね。

風宮くんのように普段人が使っている体の機能が強化されたギフトのことだよ。

例えば五感に変化を起こすギフトなんかがいい例じゃないかな。


「それに対して俺は特殊型だよ。

普通の人間ではどんなに頑張ってもできないようなことを可能にするギフトのことでね。それこそ魔法みたいなギフトは全部こっちに入るんじゃないかな?」


「じゃあ僕は特殊型のギフトですね…。」


少し悲しそうに下を向く静流。

そんな彼は誰よりも自分のギフトを嫌っていた。


「静流くんのギフトはあまり人に話さないほうがいい。

その人のためにも、君のためにも、ね」


優しい笑みを浮かべて言う小包

彼、野山静流のギフトは人を不幸にし、

やろうと思えば自分を幸福にすることだってできる。

そのギフトに名前をつけるとすれば、


支配のギフト。


このギフトが発動した場合、全ての自由を奪われ、

彼の操り人形となる。

はっきりとしたギフト発動条件は不明。

静流本人すらも分かっていない。


(大体、プレゼントに入ってたカードには

《人を支配下におくことができる》書かれていたのはそれだけで

どうやったら発動するのかも分からない。

ただ一度だけこのギフトを僕は使えたことがある)


その時のことを思い出しそうになり、頭に浮かぶ前に

脳内の隅に追いやる。


なんせ彼は自分のギフトで一人の人を死に追いやってしまったのだから。


「分かってます。」


暗い顔でそう呟いた。

その様子を見て小包は優しく微笑みかけながら静流の頭をポンポンと撫でる。


「今夜はもう遅いし、早く帰ろうか。」


ラーメン屋にお代を払い、席を立つ二人は

小包の家に向かって歩き出す。


「小包さん…。」


「ん?」


下を向いたまま尋ねる静流。


「ありがとう…ございます」


その言葉にはいろいろな意味が込められているいたのだろう。

下を向いてて分からないが今にも泣きそうな声で言ってくる。



「俺はさ身寄りのない静流くんには同情はするし、可愛そうだとも思ってる。けどね、哀れだとは一度も思ったことはない。本当に哀れな人間は出された食事をあんなに美味しそうに食べたりしないしね。

もう少し気を楽に持ちなよ?」


背の高い金髪は夜空を見上げ呟く。


「今のお前の帰るところはは俺のとこなんだからさ」


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