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stage.08 少女皇帝、闘技場も造る。





 神魔帝の力の結晶に対する神族と魔族の反応は、彩乃の予想を超えていた。


「欲しいです!」


 全員が一瞬の迷いもなく即答し、結晶を凝視してきたのだ。


 彩乃は(これは神族と魔族の注意を引く、有効な道具になる)と確信すると、結晶を八個作ってサンプルとして全員に配り、また訊いた。


「ダンジョンを踏破(クリア)した報酬として、ふさわしいと思いますか?」


 七人がそれを受け取ったとたん口に入れて噛み砕いて飲み込んでいたので、唯一すぐに食べようとしなかったエルフのルロイが答えた。


「これは過分な報酬のように思います、神魔帝陛下。

 とくに今はまだ陛下がお生まれになったばかりで、まだ皆に陛下不在の頃の餓えの記憶がはっきりとありますから。このような物が報酬となると聞いたら天界中の住人がダンジョンに殺到して、神族と魔族どころか、同族間でも争いが起きかねないのではないかと僕は考えます」


 それは困る、と彩乃は悩み、次いで「あれ?」と小首をかしげた。

 ルロイは結晶を手のひらの上で転がしているばかりで、すぐに食べようとは思わないようだが、それはなぜなのか。


「あなたはそれを欲しいとは思わないのですか? ルロイ」

「欲しいです、陛下。いただいた今、手放す気はありません。ですが僕は本能が鈍いので、他の方よりも成すべき行動に移るのが遅いのです。父からよく叱られるのですが、どうも直せなくて。お気に障りましたら、申し訳ございません」


 そう答えてから、ルロイは結晶を口の中にふくみ、噛み砕くことなくコクリと飲みこんだ。


 謝る必要はないし、あなたのその個性は貴重なものだから尊重したいと答え、彩乃は(この世界でも、いろんなひとがいるんだなー)と思った。


 多様性があるのは良いことだから、彩乃としてはルロイの個性は好ましく感じる。

 しかし徹底した実力主義社会のここで本能が鈍いのでは、彼の父はきっと息子のことが心配でならないだろう。

 それでもルロイはソールに選ばれてここにいるのだから、とくに心配する必要はなさそうだが。



 ともかく他の七人とも相談した結果、神魔帝の力の結晶を報酬にするのは「やりすぎ」という結論になった。

 ついでに「あなたの力はそれほど気軽に与えてよいものではありません」と、ブラッドからたしなめられる。


 彩乃はいちおう反省はしたものの、「ダンジョンはクリアしたら報酬が貰えるものであるべき」という思いがあり、あくまでも“遊び場”であるから「ダンジョンで取得できるアイテムはすべて一定時間内に消耗される物が良い」という考えがある。


 そこでまた相談したところ、“神魔帝の力をふくんだ果実”を報酬とすることになった。

 彩乃はリンゴを創り、「もらえたらすごく嬉しいけど、それのために争奪戦をするほどではない」という程度に力をふくませてサンプルとする。


 こんなのでいいのかな、とすこし不安げにちゃぶ台の上でリンゴを転がす彩乃に、ソールが言った。


「陛下が造られたもの、というだけで皆じゅうぶんダンジョンに興味を持つでしょう。過剰に目を引くもので釣る必要はありません」


 神族の王が言うのだから、それはきっと正しいのだろう。

 彩乃はこくんとうなずいて、話を戻した。


「では次に、ダンジョンでのプレイヤーの安全確保をどう行うかについて。まずは考えた物の試作品を創ります」


 手のひらを空中へ差しのべ、まぶたを閉じて必要な物を望む。

 すると次の瞬間、二つの白銀の指輪(リング)が現れてその手へ落ちた。


「試作品なので耐久力は低めに100で設定しました。装着したものの身を守って、代わりにダメージを受ける道具です。

 耐久力が0になると、強制的に指定された空間へ転移させます。今はまだどこへ転移させるのかは未設定ですが。

 これがきちんと動作してくれないと安心してダンジョンで遊べないので、闘技場を造って確認してみたいと思うのですが、どうでしょう?」


 賛成の声が揃ったので、彩乃は謁見の間にいた全員を巨木の塔の前にある広場へ転移させた。

 その腕にはいつの間にか起きていたダンジョンの精霊グレイが抱かれている。


 彩乃はグレイに頼んで灰色の石をひとかけらもらうと、それから古代ローマのコロッセオをイメージした円形闘技場(コロシアム)を造り、ダンジョンの前の広場へ置いた。

 そして観客席に被害が出ないよう競技空間をドーム状の結界で覆い、リングの耐久力が0になると選手控え室から競技空間へつながる通路に転移するよう設定する。


「実際に試合をしてもらうとわかりやすいのですが、誰かやってくれそうな方はいますか?」


 試遊の準備が整ったところで訊くと、真っ先に神竜王が名乗り出た。


「神魔帝陛下、どうぞ私めにその栄誉をお与えください」


 ヴァンパイア王は紅い目を細めて好戦的に笑う。


「ならば魔族からはわたしが」


 それはマズい気がする、と彩乃は他の者たちに目線で助けを求めたが、「王の望みを臣下が邪魔するなどおそれおおい」と誰も名乗り出てくれない。

 思わぬところで神族の王と魔族の王が戦うことになり、(どうしよう)と内心で困ったものの、却下したらしたでまた何か起きそうなので、彩乃は二つの条件を出して彼らにリングを渡した。


「では三回勝負で、あまりに決着が長引くようなら引き分けとします。良いですね?」


「神魔帝陛下の御心のままに」

「御意にございます」


 ソールとブラッドはうやうやしくリングを受け取り、()る気満々でコロシアムへ入っていく。

 その後から心配そうな顔をした彩乃がグレイを抱いて他の者たちとともに入り、観客席へ座ったところでふと気がついた。


「あ、始めの合図がない。ちょっと待ってくださいねー」


 グレイを抱いて天空宮殿へ戻り、赤、黄、青のランプが縦一列に並んだ物を二つ創ってコロシアムへ移動。

 ソールとブラッドが待機する競技空間への二つの入口に、赤いランプが点灯している状態のそれをセットし、準備ができたら結界に触れるように告げた。


「二人が結界に触れたらこの明りが赤から黄へ、そして青に変わります。青になったら結界に入れるようになりますので、それから競技を始めてください」


 待ち構えていた二人は「はい、陛下」と応じて、即座に結界へ触れた。

 ランプが赤から黄へ変わり、青になって入口が開く。



「陛下の御前だ、夜魔の。無様な姿はさらすな」



 競技空間に入ったソールが腰に帯びた剣を抜きながら言えば、ブラッドがどこからともなく漆黒の杖を取り出して笑み返す。



「無様な姿をさらすことになるのは貴様の方だろう、神竜の。しかし本性へ戻って意地汚く暴れるような真似だけはしてくれるなよ」



 神族の王と魔族の王はニヤリと好戦的な笑みを交わし、同時に地を蹴る。

 そうして神魔帝が観客席でグレイを抱いて見守る中、二人の戦いが始まった。





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