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stage.07 少女皇帝、計画する。





 神竜王ソールとヴァンパイア王ブラッドがそれぞれの眷属を連れて戻ると、天空宮殿の謁見の間は妙なことになっていた。


 正確に言うなら謁見の間の奥にある玉座の前、三段下の床に和風セットが置かれ、その真ん中に彼らの主たる神魔帝が座っていたのだ。


 天界の住人たちはそれが何か知らなかったが、和風セットの内容は三十枚ほどの(たたみ)とその中央に置かれたちゃぶ台、座布団と背の低い揺り籠と、桜の木を描いた屏風(びょうぶ)

 すべて、神魔帝が「こんなの欲しいな」と願った瞬間にその物が現れる天空宮殿で、彩乃に望まれるまま創造され、その存在を固定された物である。


 それは巨木の塔を造った後、帰宅した彩乃が自分の力を実験した結果だった。

 前世で暮らしていたのが昔ながらの日本民家だったので、単純に、自分の居心地の良い空間が欲しくて和風セットを創った、という理由もあるが。


 ともかくその実験で、満開の桜の木から花びらが散り続ける屏風、などという不思議道具が創造できる一方で、「鹿島先輩のコピー」と願うと写真が出てきて、「猫」と願うと陶器の招き猫が現れたことから、生きものは創れないことを確認。

 存在を固定しないと一定時間で創った物が自然消滅するので、放置しておいたら写真と招き猫は勝手に消えた。


 そうしてひと通りの実験を終えると、彩乃は紙とペンを創り、揺り籠の中に巨木の塔の精霊グレイを寝かせ、ダンジョン造りの企画書に取り組んだ。

 ダンジョンとは何か、等の基本的なことを書きながら、時どき手を休め、隣に置いた揺り籠をのぞいてグレイの寝顔に微笑む。


 ソールとブラッドが現れたのは、ちょうど彩乃が何度目かの休憩で手を止めていた時だった。


「あ、おかえりー」


 とくに何も考えず、のんびりと声をかける。

 本人は気づいていなかったが、座布団に足をくずして座り、慣れた畳の上でちゃぶ台に向かっているという“くつろぎモード”で、これまでの緊張から解放されたその笑顔はとても無防備でほがらかだ。


 しかし彩乃の予想外のところで、その声をかけられた神族と魔族たちは、神魔帝の笑顔と「おかえりー」という言葉にたいへんなショックを受けていた。

 陛下が笑顔で“おかえり”というのはつまり、真名捧げてもいい感じ? と思いかける。

 けれど幸い、神竜王ソールが「陛下、それは真名を捧げてもよいというお許しでしょうか?」と突撃し、きょとんとした彩乃に「そんな許可はしてません」と一言で切り捨てられたので、それ以上の被害者は出なかった。


 悲しそうにしょんぼりと肩を落としたソールを横目に、長期戦でいくべきであると判断したブラッドは連れてきた三人の眷属を紹介する。

 彩乃は彼らの挨拶にそれぞれ「よろしくお願いします」と律儀に返事をしながら、通り名と種族と担当してくれそうな部分を手元の紙へメモした。

 その際、名乗られた通り名が全員とても長かったので、(名前呼ぶだけで舌噛みそう)と思った彩乃は略称で呼びたいと頼み、こころよくその許可を得た。


 集められたのは神族三人と魔族三人の、計六人。


 神族側の三人は、

 ソールの弟の神竜「ギデオン」、トラップ担当。

 エルフの族長の息子「ルロイ」、知識担当。

 マーメイドの族長「メレディス」、アイテム担当。


 魔族側の三人は、

 ブラッドの異母妹のヴァンパイア「アナベル」、トラップ担当。

 ダークエルフの族長の息子「オズワルド」、知識担当。

 ラミアの族長「ゼノヴィア」、アイテム担当。



「ではこれから、ダンジョンについての説明をします。ちょっと時間がかかると思いますので、どうぞみなさん楽にしてください」


 挨拶が済むと、彩乃はそう言って彼らがくつろげそうな物を創った。


 神竜とエルフ、ヴァンパイアとダークエルフには一人掛け用のソファ。

 ラミアには居心地のよさそうなクッションの山、空飛ぶサーフボードのような物に乗ってきたマーメイドにはちょっと広めの池。


 神族は彩乃の右手側、魔族は左手側にそれぞれ落ち着き、とくに謁見の間の床に創られた池へもぐったマーメイドの族長は、とても心地よさそうな顔で「永住したい」とつぶやいた。


 彩乃はそれを神魔帝の力にあてられているだけで、慣れればおさまるだろと判断して聞き流し、一枚の紙をコピーして全員に配る。

 もちろん、マーメイドに渡すものには完全防水効果を付けて。


 そうして配られた紙は、『ダンジョンを造ろう!』という言葉で始まるシンプルな企画書だった。

 書かれている項目は四つ。



① ダンジョンとは何か? : すぐには出られない入り組んだ造りの建築物。目指すべきは「何が出てくるかわからない、不思議な宝箱みたいにわくわくするもの」。


② 何のために造るのか? : 戦いたいという欲求を持った神族、魔族が安全に欲求を満たすための遊び場とするため。


③ ダンジョンはどんな構成か? : 基本的には先に何があるのかを見通せない迷路で、適度に(エネミー)が出現する。途中にトラップを仕掛けておくことで遊ぶもの(プレイヤー)に緊張感を持たせ、宝箱を置くことで何かを手に入れる喜びを与える。


④ 造る時の注意点は何か? : 第一に「安全であること」。第二に「簡単すぎず、難しすぎない難易度にすること」。第三に「遊び心を持つこと」。



 皆がそれを読み終えて顔をあげるのを待ち、彩乃は説明を始める。


「今日集まってもらったのはダンジョンを造るためです。そしてこの計画で造るダンジョンの目標は、そこに書いてある通り“戦いたい子たちのための遊び場”になること。

 トラップあり、宝箱あり、たまに知恵を競うゲームありの、楽しいダンジョンを造るのにどうか協力してください」


 謁見の間に集まった八人は、もとから協力するために来ている。

 しかもダンジョン造りの説明をする神魔帝が、じつに楽しげにきらきら輝く瞳で熱く語るのだ。


 神魔帝陛下がここまで楽しげに語るのだから、“ダンジョン”というのはきっとおもしろいものに違いない。

 それを造るメンバーとして選ばれたことを心の内で激しく喜び、八人は熱心に彩乃の言葉を聞いた。


「もう見たひともいるかもしれませんが、ダンジョンの器となるのは木と灰色の岩でできた塔で、こちらの揺り籠で眠っているのがその精霊のグレイです。

 後でひとつ私が思うダンジョンの見取り図(マップ)を作りますので、とりあえずはそれを参考にして神族と魔族の二手にわかれ、それぞれにどんな(フロア)にするのかを相談し、設計してもらいたいと思っています。

 ですがとりあえず、その前にちょっと確認させてくださいね」


 彩乃はひらりと右手を前に出し、一瞬、力を集中して凝縮させた。

 すると空中からコロンと、透明なビー玉に似た神魔帝の力の結晶が現れる。


 細い指でそれをつまみ、彩乃は神族と魔族へ訊いた。



「これ、欲しいと思いますか?」





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