少年少女爆弾
出会いはまるで、奇跡。
「あ」
その声を出したのは誰だったのか。
少女は、学校の階段の踊り場から下の階へと、静かに落ちた。
そして何故か、下の階に居た俺の腕の中に、綺麗に収まった。
思わずだが自分から手を伸ばしたので、何故か、と言うのは語弊があるかもしれない。
上から落ちてきたというのに、少女はどちらかと言うと、軽いと感じるほどの重さしかなかった。
細く伸びた白い手足と、小さな口。
長い睫がゆっくりと動いて、その大きな瞳がこちらを向いた。
そして、その細く小さな冷たい手が、ゆっくりと俺の首に回り。
「え……」
次の瞬間。
首に手を掛けられ床に倒され技をかけられた俺の口から、悲鳴が上がった。
* * * * * * * *
「てことがあってさあ……」
「「…………」」
昼休み。
学生にとっての安息の時間。
友人と昼食をとりながら、少し前に起きた出来事を話していた。
「奇跡的だよなー」
「ある意味奇跡だよ!!!何それびっくりだよ!!?」
「普通はそこからラブロマンスに発展するんじゃないの!?何でバイオレンス!?」
「で!?お前はどうしたんだ!?」
「え?とりあえず謝ったけど……」
「「何で!?」」
友人たちが乗り出す勢いで反応し、思わずびくっとする。
持っていた箸を落とさないように一度置いた。
「え、いや……なんか怒ってるみたいだったから」
「おかしいじゃん!助けたんじゃん!?」
「で、その子どんな子だったの?」
そこでふと気づいた。
そういえば、彼女は何処の誰なのだろうか。
制服を着てたしこの学校にいるのだから、同じ学校なのはまず間違いないとしても。
クラスはもちろん、学年さえ不明。小柄とはいえ年齢は外見ではわからない。
分かっているのは。
「……きらきらしてたな」
「……いや、もっと具体的なことをだな」
「美人!?可愛い系!?」
「お前ちょっと黙ってろ」
確かに可愛い顔立ちだったし、美人とも言えた、と思う。
直ぐに技をかけられたのであまりはっきりとした記憶は無いのだが。
ただ。
きらきらとして見えたのだけは、たしかに覚えている。
* * * * * * * * * *
「お前頭プリンになりはじめてるぞー」
「うるせえハゲ」
「ハゲ!?どこら辺が!?」
「あ」
その日の放課後の事。
校門前に、見つけた。
友人らしき女の子と並んで、下校している彼女の姿を。
「どうした?」
「いや……あの子」
「あ!昼間言ってた子か!どれどれー……お」
目が、合った。
偶然だとは思う。
彼女を見ていたときに、たまたま彼女が振り返ってしまったのだ。
次の瞬間。
「ぐえふっ!!」
数メートルの勢いが乗ったとび蹴りが、俺の鳩尾へと飛び込んできたのだった。
「うええええ!!?」
「おい、大丈夫か!!?」
「……大丈夫、折れてない……多分……」
「骨までいくほどか!?そんなに痛いのか!?」
「ていうか何があった!?何した!?」
まったくだ、と友人の言葉に心で同意する。
しかし、後から思えば我ながら呑気だと思うのだが。
鳩尾を押さえうずくまりながらも、俺は。
無言で走り去る少女を、やはりきらきらしていたと、思っていた。
次の日、今度はローリングソバットを食らわせられることになるのだが。