おまけ
おまけを書きました。後編と同じように子供、妊娠に対する酷い言葉がありますので無理だと思った方はご遠慮下さい。
アリアの力によって閉じ込められてからどれくらいの時間が過ぎたのだろう…。
サリーチェの目の下には隈が出来ており、髪もボサボサでお世辞でも身嗜みが整っているとは言えなかった。
自分の家族も、使用人もいない屋敷の中で唯一友人のデイビットだけが心を許せる相手だった。しかし、閉じ込められてからは次第にサリーチェに冷たくなっていった。
孤独な中でサリーチェは食事に媚薬を盛られて、使用人達に対して不信感と警戒心を抱くようになってしまった。
サリーチェは自分に充てがわれた部屋に閉じ籠もり、怯えるだけの日々を過ごしている。
『フーパー子爵令嬢がデイビット様の子を孕むまではフーパー子爵令嬢も屋敷から出る事は赦しません。逆に言えば、令嬢が妊娠したら解放して差し上げましょう。』
アリアが言ったサリーチェへの罰は、同時にこの屋敷から出る為の条件でもあった。永遠に出られないデイビットや使用人達とは違い、サリーチェには屋敷を出る機会が与えられていた。
だがサリーチェは婚約者であるマークへの想いと、デイビットを恋愛対象としてみられない事からそんな事は出来ず、ずっと拒否し続けていた。外に出られた後の事も考えれば、デイビットと閨を共にするなんて冗談ではない。
だが、部屋の外から聞こえる怒声や泣き声、狂ったような悲鳴や何かが壊れる音。デイビットと閨を共にしろとドア越しに訴えてくる声に、サリーチェの精神は限界に来ていた。
「…デイビットの子供さえ身籠れば、出られる。」
異様な生活の中でサリーチェはマークへの想いは薄れていき、ただ早く、この牢獄から出たいという思いだけが、頭の中を満たしていった…。
◆◇◆
「…一体、何のつもりだ。」
デイビットが自分の部屋に行くと、下着姿のサリーチェがベッドの上で座っていた。サリーチェは風呂で整えられたのか、髪も肌も綺麗になっていたがデイビットは冷たい目でサリーチェを睨んだ。
「…デイビット、お願い。」
使用人達がサリーチェに協力したのか、サリーチェはデイビットの部屋に侵入しているだけではなく、サリーチェの手には何らかの液体が入った小瓶が握られていた。最後まで言わないが、サリーチェがデイビットに何を求めるているのか嫌でも分かり、デイビットは嫌そうに顔を歪めた。
「巫山戯るな、早く出て行け。」
「っ、私だって、デイビットとしたい訳じゃないわよっ!!」
デイビットの拒否に、サリーチェは涙ぐみながらも訴えた。
「…でも、でも仕方がないでしょう!? それしか牢獄から出る方法がないんだからっ!」
「…そうだな、サリーチェだけが出られる方法であって俺には関係ないがな。」
「っ…そ、それは。」
デイビットは嫌味な笑いを浮かべながらサリーチェを睨む。サリーチェは言葉を詰まらせた。
「…本当に、本当に俺は馬鹿だったよ。お前なんかのくだらない恋心の為に馬鹿な提案を受け入れるんじゃなかった。」
「〜っ、私の想いはくだらなくなんかないわよっ! それに、貴方だって使用人の暴走を止めなかったんでしょう!?」
「〜っ、五月蝿い黙れっ!!」
デイビットとサリーチェはお互いを罵倒し合う。暫く怒声が響き合い、互いに息切れするほどに疲れ果てていた。
「はぁ、はぁっ…デイビット。悪いけど貴方がどんなに嫌がっても私との行為を受け入れてもらうわ。」
サリーチェはそう言って、部屋の扉を見た。
「罪人ではない使用人は監視の為、罪人と言われた使用人達は私に協力する為に扉の前で待機しているわ。」
「っ、!」
デイビットは目を見開いた。サリーチェは優越感など感じずに、むしろこれからの事を不満に思っている事を隠さずにデイビットを見た。
「監視されるのは仕方ないとしても、他の人に取り押さえられるのは貴方も嫌でしょう? 大人しく、行為を受け入れて頂戴。」
呆然とするデイビットを見ながら、サリーチェは小瓶を掲げた。
「…これは罪人の使用人から貰った媚薬よ。どんなに私達がお互いを拒否していても、そんな事を忘れさせてくれるくらい強力なんですって。」
「…。」
何も言わないデイビットに、サリーチェは笑みを浮かべた。
「ははっ…、デイビットなんかと、しかも初めての行為で媚薬を使うだなんて最悪よ! でも、でもこれで、外に出られる…っ。」
サリーチェの笑みは狂気じみていたが、心の何処かで希望を見出しているかのように目の奥が光る。
「さぁ、デイビット。貴方の味方は誰もいない、この媚薬を飲んで頂戴っ! 貴方も正気のままでやるのは辛いでしょう?」
「サリーチェ、アリアの言葉を覚えているか?」
媚薬を飲むように催促したサリーチェの言葉に反応せずに、デイビットは真顔で質問してきた。
「っ、無駄な時間稼ぎをしようとしないで! もういい加減に諦めて頂戴。」
「いいから、言ってみろ。お前が外に出る為の条件をアリアは何と言っていた?」
デイビットは薄笑いを浮かべる。サリーチェは警戒しながらも口を開いた。
「っ…私が、デイビットの子供を身籠る事よ。」
「あぁ、そうだな。では使用人が家族と会う為の、面会の条件は何だった?」
『では、デイビット様とフーパー子爵令嬢が閨を共にした回数だけ、家族との面会を許可する事にしましょう。1回につき、誰か1人に1回1時間の面会時間を設けましょう。』
続けて質問してくるデイビットの意図は分からないものの、サリーチェはアリアの言葉を思い出しながら答えた。
「…私とデイビットが閨を共にする事。」
「あぁ、そうだ。なんだサリーチェ、分かっているじゃないか!」
「っ…だから、何なのよ!?」
態とらしく手を叩いて小さな子を褒めるように言うデイビットの態度にサリーチェは苛立ちを覚える。
「サリーチェ、アリアはお前に俺の第二夫人か愛人になれと言われていたな。その言葉通りにしたとして、俺の子供が出来たら、お前はこの屋敷に住んでくれるのか?」
「っ、はぁ!? な、何言っているの!? そんな訳ないじゃない!!」
「そうだよな。」
サリーチェとはデイビットの第二夫人にも、愛人にもなりたくない。だが、拒否してまた閉じ込められるのは御免なので従う事にはなるだろう。だが、肩書だけ背負ったら後は理由をつけてこの牢獄なんかに足を踏み入れたりなんかしない。
デイビットもサリーチェの返答は当然だと言わんばかりに頷いた。
「つまり、今から俺と閨を共にしてこの1回で子供が出来たら、使用人達は誰か1人が1回だけ家族と会う。そして、その後は誰も家族と会う事なく閉じ込められて死んでいく訳だ。」
…え?
「…ちょっと待って、待って……待って…っ!」
サリーチェは、理解したくないとばかりに表情を強張らせた。
「理解出来たか? 使用人達からしてみれば、お前に子供が出来るのは不味いんだよ。どうすれば、子供を作らずに俺と閨を共にさせ続ける事が出来るんだろうな。」
…待って、待って…いや、そんな、まさか…。
サリーチェの頭の中にドクンッ、ドクンッと鼓動のような嫌な音が響き渡る。そんなサリーチェを追い詰めるかのように、歪んだ笑みを浮かべたデイビットが、サリーチェの手にある小瓶を指差した。
「ソレ、媚薬なのは間違いないだろうが、他の作用はないのか?」
サリーチェは小瓶の中になる、とろみの付いた液体を見た。
―――不妊剤。
「ひぃっ!!」
サリーチェは頭の中で浮かんだ文字に悲鳴をあげて、小瓶を床に叩きつけた。小瓶はカランッカランッ、と音を立てて床を転がり隅に移動する。
「くくっ、あははははっ!! 本っ当に、馬鹿だなお前はぁっ!!」
「あっ…あぁ…。」
デイビットはサリーチェを嘲笑う。サリーチェは呆然とデイビットを見つめ返す。
「薬に頼らなきゃ俺はお前を抱くなんて到底無理だな。使用人達に俺を取り押さえて貰うだっけ? その薬を飲んでないお前に協力してくれるといいなぁ? もし、上手く誤魔化せて薬を飲まずにこの場で俺と行為が出来ても、もしかしたら堕胎剤を食事に盛られるかもなぁ〜? あはははははっ!!」
おかしくて堪らないと笑いながら話すデイビットの声に、サリーチェは自分の状況を嫌というほど理解させられた。サリーチェの目の前には笑い続けるデイビットがいる。
そして、部屋の外に居るのは…、
「…あぁ。」
『フーパー子爵令嬢がデイビット様の子を孕むまではフーパー子爵令嬢も屋敷から出る事は赦しません。逆に言えば、令嬢が妊娠したら解放して差し上げましょう。』
「あ、あぁぁ…っ。」
『では、デイビット様とフーパー子爵令嬢が閨を共にした回数だけ、家族との面会を許可する事にしましょう。1回につき、誰か1人に1回1時間の面会時間を設けましょう。』
「っ、ぁ、あぁああああぁああああっ〜!!!」
サリーチェはアリアの言葉を思い出しながら頭を抱えて狂ったように泣き叫んだ。
アリアはこうなる事を分かっていたのか、それとも意図していなかったのかは分からない。だがアリアの罰はサリーチェを絶望の底に叩き落とした。
サリーチェに味方なんていない、サリーチェに逃げ場なんてない。サリーチェはデイビットや他の罪人達と同じように、永遠に白い牢獄からは出られない。
この牢獄から出られる罪人は、1人も存在しなかった…。
サリーチェ地獄の回でした。もしサリーチェとデイビットの間に子供が出来たら使用人が邪魔をする。そもそもデイビットを取り押さえた使用人は主人に逆らった罰として酷い目にあう。そしてサリーチェも無事では済まなかったかもしれません。夢も希望もないお話でしたが、お付き合い頂き有難うございました!




