レオとアラン
同じ村で育った親友同士のレオとアラン。アランの選択を応援したレオのお話です。
俺の名前はレオンで13才だ。カイゼスという国の辺境にある村に住んでいる農家の三男だ。村の名前はあると村長は言うけれど、村って言うと皆分かるくらいの田舎なんだ。村から町に出るためには荷馬車で1日かかるんだ。朝早くでて、夕方遅くにつくらしい。どうしても町に泊まる事になるから、大体1~2か月に1回位の頻度で、町で売るものと買ってくるものを各家庭から請け負った大人の男達が行くんだ。
たまに村の娘が泣きながら家族と別れて町へ行き、帰ってこないこともある。泣きながら家族と別れる位なら、行かなければ良いじゃないかと思って、前に水場で井戸端会議をしていたおばさん達に聞いたんだ。そうしたら「あの家は多額の借金があってね、返済の為に娘が町に働きに出たんだよ」と教えてくれた。でも、すごく悲しそうな顔をしていたから、農地を耕す仕事とかじゃなさそうだった。
村には医者も産婆もいないから、皆が助けあって暮らしている。大抵の家には子供が5人くらい生まれて、大人になるまで生き残れるのが3人位だ。怪我や病気、獣に襲われたりするしな。飢饉や大災害っていうのがあると、村の存亡の危機になるって長老は言っている。
村では小麦、大麦、クローバー、カブを主に作っている。あとは余った土地で野菜類を作っている。クローバーの土地では羊と山羊を放牧している。乳も取れるし、肉も取れるから、効率が良いらしい。家は嫡男が継ぐから、それ以外の男は嫡男が当主になった家を支えて村で働くか、町へ出て商人、職人、冒険者になる事が多い。女は村で結婚するか、男と同じように町へ出ていくかな。
俺の一番の親友は同い年のアランだ。アランは農家の四男で、とても活発な奴だ。慎重派の俺とアランで良いコンビなんだよ。悪戯をするのも、畑を耕すのも、放牧の羊たちを見張ったり、いつも一緒に過ごしている。雨が降っている時に、川の様子を見たいと言うアランに大人達が手を焼いている時に、俺が高台から様子を見るという方法を提案してアランを納得させた事もあった。逆に、雨上がりに危険だからと尻込みする俺を叱咤激励して森の近くへ行き、食べられる野草を沢山見つけられることもあった。
この先、どういう風に生きていくのかを決めていく時期が近づいている。村では15歳になると成人したっていう扱いになる。それまでに、村で生きるのか、町に出ていくのかを決めなくてはいけないんだ。
国から新天地へ入植する民を募集するっていうお知らせが来たのは、俺たちがもうすぐ15歳になる頃だった。国からのお知らせには「冒険者が海を渡り、新大陸を発見した。この素晴らしい大陸には多くの資源が眠っている。また豊富な土地があり、開拓すれば開拓した土地は自分の物にできる。国に対して支払う税金は生活の基盤が整うまでの最初の5年間は無税とする。入植者を保護するために、冒険者も同行するので安全だ。来たれ!明るい未来を創造できる者たちよ!男女は問わない!希望者は1か月後までに町にある役所へ申し出よ。新天地までの旅費は国が負担する」と書かれていた。
「レオ!すげぇな!新しい未来がある~」
「あぁ、そう…だね」
「俺たち、自分の人生を決めなくちゃ。真剣に考えようぜ!」
「そうだよ、ね。決めないと…ね」
そんな話をして家に帰ったんだ。俺の将来について、家族会議が開かれた。俺の希望は、町に出て料理人になりたいと伝えた。両親や兄達は、料理人という選択肢にビックリされたけれども、働き手は足りているからっていう事で、すんなりと賛成された。
「アラン、俺、町に出て料理人を目指すよ。人に物を食べさせる事が好きなんだ」
「おぅ!良いんじゃねぇか!レオは体力もあるし、狩ってきた獲物を捌くのも上手いもんな」
「アランはどうするか、決めたの?」
「…俺、新天地に行きたいんだ。でも、家族には反対されててさ…」
新天地!まさか、という気持ちとやっぱりと思う気持ちが同時に押し寄せてきた。アランはとても活発で色んな事に興味を持つけれど、村や町だけでは満足できないだろうなとも思う。でも、新天地っていう全く知らない土地に行くって、すごく不安だよ。いくら、国が安全を考慮しているって言っていても、予想外の事は起こるし、護衛が必要な位危険なんじゃないだろうか。
アランの家族が反対する理由は、純粋に働き手を確保したいからだと思う。アランは四男だけれども、次男は怪我の後遺症で杖が手放せないから重労働は出来ないし、三男は病気で亡くなっているんだ。でも、長男には嫁がいるし、このまま家に残っても居心地が良いとは限らないんだよな。
「俺は、アランが大切だよ。だから、新天地に行くっていうのは心配だ。でも、アランが後悔しない方を選んで欲しいっていう気持ちが大きいかな」
「サンキュ!俺、新天地を見てみたいんだ!苦労もあると思うけど、どうしても行きたい!」
家族を説得したアランは新天地へ行くために、俺は料理人になるために、町へ行く馬車で一緒に乗り込んだ。馬車の中では将来の生活について話が弾み、町へ着くまでがあっという間だった。
町は新天地への入植希望者が大勢集まっていた。役所に入植希望だとアランが行くと、職員が出発予定は3日後だと教えてくれた。そして、最低限必要になる荷物のリストを渡してくれて、不足分があるならば買い揃えるように教えてくれた。金銭が不足する場合は、寄付品の中から選ぶことも出来るそうだ。出発までの宿も手配してくれていて、本当に至れり尽くせりな対応に驚いてしまう。アランは、手厚いサポートを受けて無事に渡航するための準備を終える事ができたようだ。
俺は料理人の見習いになるため、まずは住み込みで働くことができる職場を探した。必要になる情報は村から出て町で働いている人達から聞いた。裕福な家庭では料理人見習いは募集しておらず、宿屋や早朝や深夜営業している飯屋なら住み込みの料理人を募集しているそうだ。料理が美味しいという評判の宿屋を訪ねてみたら、試験として鳥を捌けと包丁を渡された。狩りでも鳥は捌いていたから、無事に腕前を認められて料理人見習いとして雇ってもらえた。
シェフにアランの事を話したら、見送りに行くことを認めてもらえた。朝の清掃を急いで終わらせて船乗り場へ向かい、アランと会うことができた。シェフに感謝だ。
「レオ、新天地での生活が落ち着いたら、手紙を書くよ。郵便代が高いから、あんまり書けないとは思うけれど…便りが無いのは良い便りっていうしな。あんまり心配するなよ!」
「あぁ、アラン。俺も生活が落ち着いたら手紙を書くよ。でも、何処に住んでいるか分からないと手紙も書けないからな。俺はアランの手紙が届くまでは、今の宿屋を辞めないで頑張るよ。だから宿屋宛に手紙をくれ」
「分かったぜ!じゃあ、俺とレオの新しい生活が、ここから始まるんだ!さようならは言わないぜ。また会う日まで元気でいろよ!」
「うん!また会う日まで。アランこそ身体には気を付けてね!」
遠ざかる船が見えなくなるまで見送った俺は、料理人見習いとして忙しい日々を送った。最初は買い物、洗い物、器具の手入れなどの雑務位しかさせてもらえなかった。でも続けていくうちに前菜作りを任されるようになった。ここまでで2年かかったけれど、アランからの手紙は届かない。
海はアランがいる大陸に繫がっているから、海を見ながらアランへと言葉を言う。
「アラン、元気かな?僕は最近、シェフから前菜づくりを任してもらえるようになったよ。コース料理の最初に出す品だから、見た目も綺麗に整えないといけないんだ。難しいけれど、やりがいがある。いつか君に食べてもらいたいな」
更に3年が経ち、スープやパスタ等も作れるようになった。先輩たちからの信頼も得られて、後輩も出来た。後輩を見ていると、かつての自分を見るようで面はゆい気持ちになる。まだアランからの手紙は届かない。
「アラン、後輩が出来たよ。僕はスープやパスタも作れるようになった。あと3年位頑張ればメイン料理も任せてもらえそうだ。メイン料理の練習もしているけれど、最近はデザートも練習しているんだ。君に僕が作ったコース料理を食べさせたいな」
「アラン、元気かい?あれから20年が過ぎたね。僕はとうとうメインシェフとして宿屋で腕を振るっているよ。僕の料理を君に思う存分食べてもらいたいな。僕と君の友情は、この海よりも深く、空よりも広いと思うから、いつまでも待っているよ。その時に、僕が新大陸に行きたいと言っていた君を応援したことが正しかったのかどうか、教えてほしい…」
答えが出ない問いだと思います。アランが新大陸でどうなってしまったのか、誰にも分かりません。
読んでいただき、ありがとうございました。