罪
"バシャン"
私達は今年も父の墓参りに来ていた。
「ありがとうね、毎年。」
父の墓に水をまいている大輝に言った。
「親父さんには俺も世話になったから。」
大輝とは幼なじみで父とも親しくしていた。
よく三人で父の船に乗り、釣りをしに海にでていた。しかし数年前、いつものように三人で海にでていたところ、父が誤って海に転落し帰らぬ人となってしまった。
そのことがあってから海には近づかないようにしていた。
「ねえ、大輝」
手を合わせていた大輝がこちらを向く。
「海に行ってみない?」
大輝は驚いた表情で数秒間黙っていた。
「でも、お前…いいのか?」
やっと口を開いた大輝は眉をひそめていた。
「いいって、もう何年も経ってるんだし」
「お前がいいなら…すぐに帰るぞ」
そう言うと不満そうに歩きだした。
私達はそのまま父の知り合いに頼み船をだしてもらった。
「気持ちー。」
久しぶりの海風を感じながら、船の端に寄りかかる大輝に近づいた。
「大輝、こっち向いて。」
振り返る大輝の髪は夕やけに照らされキラキラと輝いていた。
"トン"
私は手に力を込め、大輝の肩を押した。
"ボチャン"
ああ、やっとだ。やっとこの日が来た。
あの日、私は父の背中を押す大輝を見ていた。
大輝が私と父の仲に嫉妬していたのも知っていた。
あの日からずっとこの瞬間を待っていた。
「海ってこんなに青かったんだ…。」
大輝のもがく手がえていく。
後ろから叫び声が聞こえてくるが、もうどうでもいい。
私は自慢の長い髪を揺らしながら深い海へと身を捧げた。
"バシャン"