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「ひあわふぇはあー」

「テストが終わったあとに食べるラーメンって最高だよね……!」

「……いつも思うけど、よくそんなにネギ食べれるね。しかもそれ辛いやつだし」


 ようやく来たラーメンを前にして、美愛が恍惚こうこつとした表情になっていた。その長い髪はヘアゴムでひとまとめにされていて、ラーメンを食べる準備は万端だった。


 美愛みあの分のラーメンには赤みがかった白髪しらがネギが、これでもか! と山盛りにされている。いつもこのラーメンチェーンに来ると頼む美愛のお気に入りのラーメンである辛味ネギラーメンに、さらにトッピングで辛味ネギを足したものだ。

 対して、私はメンマラーメン。このチェーン店の特徴でもある白い豚骨スープに黄色い麺。その上にメンマが山盛りになっている。


佳奈かなちゃんだって、メンマばっかりのくせにー」

「いっ、いいでしょ、メンマ好きなんだから」

「そんな佳奈ちゃんに、はい。メンマあげる」

「……ありがと」


 メンマを苦手とする美愛が、私の丼へとメンマを移す。なんでも食感がダメとかなんとか。

 メンマなんていくらあってもいいので、ありがたくいただく。


 お店の隅っこ、2人がけのテーブルの上にはラーメンだけが置かれている。

 普段ならもうちょっと何か頼む(デザートとか。ソフトクリームを使ったデザートがあるのもこのチェーン店の特徴だ。あと五目ごはんもおいしい)けれど、美愛が「キャンプ用品買わなきゃだし、節約しなきゃ!」と言い出したので今日はラーメンだけだ。


 私と美愛は今、学校からほど近いところにあるこのショッピングモールにいた。

 モール、といってもそこまで広くはない。建物も二階までしかないし。

 けれど、田舎で遊びに行くところがほとんどない地元の学生にとっては、とりあえず遊びに行くならここ、というほどに愛されているショッピングモールだった。

 私がコーヒーを買うお店もこのモールに入っている。


 お昼時のラーメンチェーンの店内は混み合っていた。

 今日はテスト最終日。近隣の学校も同じテスト日程だったらしく、そして、みんな考えることは同じなのか。私たちと同じように制服姿の学生の姿が多い。


「ひあわふぇはあー」

「――なんて? 飲み込んでから喋りなよ」


 口に入れたネギでほおをパンパンにしている美愛が何事かを喋る。が、聞き取れない。

 もっしゃもっしゃと咀嚼そしゃくしてごっくんした美愛は、まぶしいほどの笑みを浮かべて、


「幸せだなーって。テストも終わったし、ラーメンはおいしいし、キャンプはできるし」

「……テストの結果は大丈夫そう?」

「うん! いつもよりできた感じする!」

「よかった」


 そのまま、幸せそうな笑顔のまま、美愛はラーメンを食べ進めていく。

 その右手にはスプーンの先にフォークを合体させたようなカトラリーが握られている。このお店独自のものだ。超食べにくいため、使う人は滅多にいない。スープを飲むのには一応使えるけれど、別にレンゲもあるし。

 しかし美愛はそれを使って上手に食べ進めていく。県外から来た美愛は当初、これの存在を知らなかったのだけど、一目見て気に入ってから使っていた。

 ちなみに私は普通にはしで食べている。不器用な私ではうまく扱えないから。


 お腹が空いていたので、それからは二人して黙々と食べ進め――ほぼ同時に食べ終わった。


「ふぃ~……辛かったからお水がおいしい……」


 なんて言いつつ、美愛が水をゴクゴクと飲む。よほど辛かったのか、その額には汗が浮かんでいた。身を乗り出してハンカチで拭いてあげると「えへへ、ありがと」とかわいく微笑んでくれた。


「これからどうするの? キャンプ用品買いに行く?」

「――とりあえず、お店出よっか。混んでるし」


 席に余裕があるならこのまま少し喋っていくところだけど、店内は混み混みで待っているお客さんもいたので、食器を返却して店を出る。

 店を出てすぐのところには柱を囲むように円形のソファが置いてあって、ちょうど空いていたのでひとまずそこに座る。すぐ隣に座った美愛が身を寄せてきて、私の手を握った。にぎにぎとされるけど、いつものことなので気にしないでおく。


「テストで後回しにしてたけど、キャンプのことを色々決めなきゃね。美愛、お母さんの許可はもらえたんだよね?」

「うん! あっ、でもまたいつもみたいに電話お願いしなくちゃだけど……」


 声の調子を落とした美愛に「大丈夫、気にしないで」と声をかけて、空いている手でその頭をなでる。


「じゃあ、予定通り今週末の土日にしよっか。ちょうど天気もいいみたいだし」

「はーい。よし! 早速テントを買いに――」

「ちょい待ち」


 勢いよく立ち上がろうとした美愛を、握った方の手で引っ張って座り直させる。

 大人しく従ってくれるけど、座ってもなお、触れ合っている身体から動きたくてうずうずしているのが伝わってくる。


「いい? 美愛。私たちにはなんでもかんでも買うお金はないの」

「それはわかってるけど……でもキャンプといえばテント……」

「話を聞きなって。ひとまず、どうしても必要なものをリストアップしようよ」

「テント!」

「どんだけテント欲しいの……うんまぁ、キャンプ感出すためにテントはあった方がいいと思うけど」


 キャンプ道具を持っていない私と美愛が一から揃えようとすると、とんでもないお金がかかってしまう。

 けれど、やろうとしているのは『バルコニー』で『キャンプ』だ。

 キャンプ場へ行かなくてもいい分、家にあるものが使える、という利点がある。


 たとえば寝袋。

 これは家にある布団をテント内にいてしまえば代用可能だ。


 そんな感じで、キャンプで必要なものは家にあるもので代用できれば、節約することができる。


 ――という話を美愛にすると、うんうん! と勢いよく頷いて、理解してくれた。


「それを踏まえて、代用の効かないものをリストアップしようよ」

「わかった! とりあえずはテントと……」

「テント推すね……――あっ、そうだ。ごめんだけど、焚火はできないからね? バルコニーだし」

「うん、それはわかってるから大丈夫だよ」


 バルコニーでキャンプすることの許可は取ったけれど、火の取り扱いについては十分気を付けるよう親から言われている。焚火なんてもってのほかだ。

 なので、料理用の火は家にあるカセットコンロを使うことにする。それならよほどのことがない限り大丈夫だと思う。


 スマホでメモを取りつつ、美愛と必要なものについて話し合う。


「椅子とテーブルは買わなきゃかな。小学校の頃にバーベキューをやったときに使った屋外用のやつ、残ってないか聞いてみたけどもう捨てちゃったって言ってたし」

「調理器具とか食器は佳奈ちゃんのおうちのやつ使わせてもらえるの?」

「うん、それは大丈夫。あとはー……夜の灯り用になにか買った方がいいかな。最悪、バルコニーに面した部屋の電気点けたらどうにかなるけど……さすがにちょっと風情がない気がする」

「それはさすがにどうかなーってあたしも思う。値段的にも無難にLEDランタンかなー……ガスランタンだと雰囲気出そうだけど、お値段が……うーん」

「灯りはお店行って値段見て考えよっか。えーっと、あとは? タープ……だっけ? 日除けのやつ。あれは?」

「……バルコニーでタープ張れるかな?」

「手すりとかに固定すればどうにか……? ただ手すりの高さ的に、張ったらバルコニーからの景色ほとんど見えなくなりそうだけど」

「そっ、それはだめだよ! なしなし!」

「じゃあタープはなしね。けど、十月って言っても陽射しまだ強いから日焼け怖いなぁ……日焼け止めと帽子でなんとか……なるかなぁ」


 ――などと、美愛と話し合った結果、購入する必要があるものは、


・テント(二人で寝れて、なおかつバルコニーのスペースに張れるサイズのもの)

・テントの下に敷くシート(あった方がいいみたい、と美愛が言った)

・椅子とテーブル(美愛的に「これが一番大事!」らしい)

・照明(美愛が「ガスランタン……ガスランタン……」と呟いててちょっと怖かった)


 となった。

 思っていたより少ないな、というのが私の正直な感想だった。やっぱり、家のバルコニーでやるだけあって、家にあるものが使えるという利点はかなり大きいらしい。


 このうちテントは、部屋で寝ればいいんじゃないの……? と正直思うのだけれど、美愛がそれだけは譲れないと頑なだったので買うことになった。

 まぁ、テントで寝ない場合、ただただバルコニーで遊んだだけ、ということになるのでテントを使いたい気持ちはわからないでもないけど。


 買うものを決め終わり、美愛が「よし! ホームセンター行こっ!」と元気よく立ち上がる。

 繋いだ手を引かれて私も立ち上がりながら、そのまま私を引っ張って今にも駆け出しそうな美愛に声をかける。


「ちょっと待って美愛。ホームセンター行く前に、寄りたいところがあるんだけど」

「寄りたいとこ? どこ?」

「それは到着してのお楽しみ、ってことで」

「えー! なにそれー!」


 なんてやり取りをしつつ、私は美愛を連れて『とある場所』に向かうのだった。

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