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あなほりの子  作者: 藤田テツ
はじめに
2/2

0   あなほりの太助

 僕たちの暮らしはいつも同じことの繰り返しなんだ。

 朝、目が覚めてご飯を食べる。それから道具を持って作業場へ行く。どこで作業するかは仲間のうちの誰かが決めるんだ。

 そして決まった場所へ行き、お昼ご飯の時間までエッサエッサと穴を掘る。

 いつも同じことの繰り返しでも、僕たちは一生懸命に穴を掘るんだ。

 いっぱい頑張ったあとに食べるご飯は特別おいしいからね。

 そしてご飯を食べ終わった人からまた自分の穴へ戻って、穴を掘り続ける。

 それからしばらく掘ったあと、今度はその穴を埋めるんだ。

 そうだなー……僕が縦に二人から三人くらい入れるんじゃないかって穴を掘って、それをしっかり埋めるんだよ。

 ちゃんと埋めておかないと掘るところが無くなってしまうかもしれないしね。それに、適当に埋めているとそこが落とし穴になって誰かが落ちてしまうんだ。この間は弥平がその穴に落っこちてしばらく泣いていたよ。

 そして穴を埋めたあとは、家に帰るんだ。

 汚れた服を着替えてフジが用意してくれたご飯を食べる。それが本当においしいんだ。

 フジはいつも同じ表情をしているけど、ご飯はいつも違うものを用意してくれるんだ。   

 それが一日の一番の楽しみだよ。

 晩ご飯の後にはお風呂に入って、その後は少しだけ自由時間があるんだ。

 と言ってもお風呂に入っていたらすぐに寝る時間になっちゃうんだけどね。眠たくなくても、僕たちは必ず布団に入る。

 決められたことはしっかり守らないといけないからね。

 そうじゃないと、厳しい罰が僕たちを待っているんだ。

 カルジが一度決まりを破って夜に抜け出したことがある。なぜそんなことをしたのか分からないけれど。ただ、次の朝に見たカルジは体のあちこちが赤く腫れ上がっていた。

「侍円にやられたんだ。君たちは決して掟を破ってはいけない。あれほどつらいことはないからさ。夕食の対極に位置するものだよ」って赤い目をしょぼしょぼさせながら言っていた。対極ってなんだろうと思ったけど聞けなかったよ。久喜が「太助!カルジ!仕事の時間だ。喋ってないで道具をしっかり持って歩け。今日はあっちの突き当たりまで行くんだろう」って大きな声を出していたからね。

 僕たちの毎日は穴を掘ってそれを埋める、その繰り返しなんだ。

 なぜ穴を掘るのか。いつから掘られてきたのか、僕たちは知らないんだ。もしかしたら侍円やフジなら何か知っているかもしれないけど、二人とも必要のない話をしないからね。

 侍円ははじめに守るべき決まりを教えてくれた。その時に声を聞いたけどそれからは一度も声を聞いてない。だから、どんな声だか忘れてしまったよ。

 フジの声は一度も聞いたことがないと思う。

 僕たち四人は何も知らないけれど、毎日エッサエッサと一生懸命穴を掘っているんだ。

 誰も、なぜ穴を……なんてこと気にしていなけどね(少なくとも僕はそう思ってる)。

 でもね、他の三人は何か別のことを考えながら穴を掘っているみたい。それが何だか僕には分からないけれど。皆にはきっと僕にはないものがあるんだと思う。それも何だか分からないけどね、見ているとそう思うんだ。

 僕は一生懸命穴を掘って、その後に食べる晩ご飯がおいしかったら、それで満足なんだ。だから、少しでもたくさん穴を掘れたらいいなって思ってる。

 穴を掘れば掘るほどヘトヘトになる。そしてヘトヘトになればなるほど晩ご飯がおいしいからね。

 そう言えば、穴掘りに向かう途中でボロボロの布切れとか落ちている石を拾うことがあるんだ。僕はそれを集めるのが好きで、拾うとすぐにポケットにしまう。だけど、それを見た他の三人は「何してるの」とか「汚い」とか「ゴミを集めてどうするんだ」とか言うんだ。

 正直、家で見ると「確かになんでこんなもの拾ったんだろう?」って思うことが多いよ。だけど、気になってしまうからね。それはしょうがないよ。

 という訳で僕たちはここで穴を掘って、それを埋める。その繰り返しの日々を過ごしているんだ。

 僕たちのことは「あなほりの子」って言うんだって。誰に教えてもらったのか忘れてしまったけれど、そう言われたことだけは覚えているよ。


 ——————

 彼もまた愚かな若者の一人にすぎない。無自覚なまま、ただ同じ日々を繰り返している。だが珍しいことではない。彼がそのような者の最初の一人でなければ、最後の一人でもないだろう。

 他の者と同様、自分自身を取り巻く状況に興味や関心がなく、これから先のビジョンも持ち合わせていない。穴を掘るという行いに露ほどの疑問も抱かず、ただ愚直に穴を掘り、そしてそれを埋めるのみである。まだ無自覚で無計画に過ぎ、危機感や想像力に欠ける。

 聡明な読者の皆様ならば、おそらくこう感じたことでしょう。

「穴を掘って、それを埋める?なんて無駄で愚かな行為なのだろう」と。

 その通りでございます。

 彼には彼なりに、穴を掘ることに関して、幾許かの向上心を持っているようではある。が、それは繰り返しの日々の中で溜まっていく澱のようなものだ。

 それはいつしか毒となり、彼の心を蝕んでいく……はずだ。


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