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呪いと諦めの夏  作者: 滝永十子
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幻影の君

いたぞ、さらえ。

そんな言葉を後ろから聞いてすぐ、ばさりと袋が顔に被せられた。え、こわい。なに。

財閥の令嬢だ、丁寧に運べよ。

そんな言葉を聞きながら、むーむーとジタバタとするしかない自分。12歳。楽しい夏休みで出かけにきていたはずがどうしてこんな目に。嫌に冷静な自分と、ひょっとしたらこのまま家に帰れず死ぬのだという自分とのせめぎ合い。死への恐ろしさと心細さで泣きながらも、頭の回転は止まらない。そういうものなのだ、自分という人間は。

しばらく車で移動してから、下ろされた。いな、車が止まったら担ぎ上げられて歩いてどこかへ移動しだしたというほうが適切だ。もう疲れていた私はほぼ寝かけていた。

おとなしいな、こいつ

そういうと私を運んでいる男は私の胸を片手で揉み出したので私はつい覚醒し、暴れてしまった。

なまじか人より胸が大きいせいかこういう目線を向けられたことはあっても実際触られるのは初めてでとても不愉快だった。殺せるなら殺したかった。

おっと、暴れんじゃねえ

と男は私の腿にひた、と冷たいナイフのようなものを押し当てた。冷たさと太ももの血管を切られたら死ぬという知識でさーっと血の気が引いた。そのまま私は硬直する。するとまた男は歩き出した。流れで男は胸を触るのをやめてはくれたが、そのままナイフを当てっぱなしにして私を運び続けた。

ガラガラガラガラと引き戸を開ける音。

バタバタと板の廊下を歩く音。ぎいぎいと響く床。鶯張りだろうか。たまにぎゃーぎゃーと騒いでる声。かちゃかちゃと何かを操作する音。にゃーんと1匹の猫。まだ男は歩く。広い和風の屋敷に連れてこられたようだ。ほんと、ここどこなんだろ。帰りたいなぁ。

そんなことをかんがえていると、スパンと障子を勢いよく開ける音がしたと思えば、どさっと我が身をおろされた。ぐえっと声が出る。

大人しくしてろや

というと。後ろ手に私を縛り、足もくくった。またスパンと障子を閉める音。どすどすと遠ざかる男の足音。畳の間にしばし放置された。…静かになった。寝ようかな、と呑気に考えていたら、くすくすと笑い声が聞こえた。高い声だった。誰だ。そこにいるのは。

こどもだ。なんでこんなとこにいるんだろ。私と同じだろうか。それとも敵だろうか。そんなことを考える私を見透かすようにそいつは喋り出した。




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