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ダンジョンにかける意地

 映研という響きから、ケーブルテレビで見かけるどこかの撮影所の現像室のような部室をイメージしていた香澄は、数台のミニタワーPCと業務用のカメラ、デジカメなどが並ぶ明るい事務所的なその様相に少し肩透かしを食らった感じがした。

 他の部員はまだ来ておらず、見慣れた顔が一人だけ。


「よっ!」


 のんきにピースサインをする幼馴染に、


「『よ』じゃないぞ。ダンジョンアタック部(あっち)はどうした!?」


「おヌシのおらぬ部活などパティ抜きのハンバーガーみたいなものじゃ。それに……」


「ん?」


「合法的にキャサリン嬢と同じ空気が吸えるのだ!」


「ダメだこりゃ」


「あっちも退部希望を伝えたら、すぐに許可出たし。あー、こんなもんかなって」


「言うて一年生だものね」


「潜れない部員は重要性低いわ」


「……」


 少し重い空気が流れる中、華々しくドアが開かれる。


「やぁ、おはよう! 待ちかねたよ!」


 キャッさんの元気な声で部室内をが一気に明るくなる。

 先日、ハンバーガー屋で見かけた他の部員たちが続いて入ってきた。

 彼女のほかに男子4名、女子1名。部活になる10名には届かないが、特に気にはしていないのだろう。


「3年、編集の杉本と中山、音響の千葉ちゃん。2年、雑用の下田君と神戸(かんべ)君だ。まーゆっくり仲を深めていってくれたまえ」


 さらっと紹介されるが、全員全中ダンジョンアタックの有名人たちである。どうして……。


「みんなサクラッ子が苦手なんだよ」


 全員が深くうなづいた。


「あとは……ボクの魅力かな?」

 

 胸を寄せてポーズを取る。自分が男なら迷わず入部していると断言できる。


「キャッさん、それには異議を唱えさせていただきたい」


 丸メガネの上品な声、全中では両手戦斧(バトルアックス)で最多討伐の記録を持つ杉本智司(すぎもと さとし)である。


「貴女のダンジョンアタックに対する熱意や技術などに関しては確かに非常に感銘を受けてはいます。が、身体的な魅力で籠絡されているといわれるのは非常に不本意ですね」


 それは当たり前の感想である。そんな不純な動機でついてきているといわれるのはさすがに気分は良くないだろう。


「俺も同意見だな」


 良く日に焼けた短髪、片手半剣(バスタードソード)と重力魔法の使い手であり、杉本とコンビを組んで母校の神戸六甲中学を全中総合優勝に導いた中山紘一(なかやま こういち)も口をひらく。


「お前さんのアメリカでの経験は非常に俺たちも興味深く聞かせてもらったし、だからこその映研設立に力を貸したところはある。が、その巨大な無駄肉には俺たちは全く興味がないと、散々言ってきている」


「その通り。それに引き換え、市川さんの控えめなところを御覧なさい」


 なんだか雲行きが怪しくなってきた。


「そう、俺たちが初めて市川さんを見たのは全中の強化合宿で市川教官についてきていた時。真っ黒に日焼けして今と変わらないショートカット。はじめは男の子かと思っていたところが、休憩時間に冷たい飲み物とか運んでくれたり、怪我したときに、これは教官の教育の賜物なんだろうけれど手際よく治療をやってくれた、あの時香ってきた日向のような香りが今も思い出されるのだ!」


「巨大蜘蛛を体液まみれになりながら解体したり、巨大蛇の切れ端をその場で薄切りにして焚き火で焼いたりには正直ビビりましたが、実際に本気でダンジョンアタックに挑むときにはそれくらいはできなくてはダメだという事も知りました。その割に夜の怪談話でそれこそお女の子らしく怖がっていた姿にその場の全員が癒されたものです」


「それがそのまま『育たずに』大きくなって再び再開できる日が来るなんて!」


「その通り。その『ない所』があなたの魅力なのですよ!」


「せ……先輩方、分かっていらっしゃる! 香澄ウォッチャー歴12年の私の見解としては……」


「なんと!」


「それは興味深い!」


 感動した幼馴染がもう一つ話をややこしくさせる。

 とりあえず褒められているのは良いがそんなにない胸の事を遠回しに言われるとは思っていなかった。気にはしているのだ。


「もうどうにでもしてくれ……」


 良く分からない熱量に圧倒され椅子に崩れおちる。


「そうか、キミは市川教官殿の娘さんになるのか」


「お恥ずかしい」


 父の市川龍之介は日本で最初期に登録されたプロのダンジョンアタッカーの一人であった。家業が銃砲店であったこともあり、香澄自身も幼いころから狩猟や銃器に触れていた経験が現在にも生かされていた。定期的に講習会や合宿のインストラクターを務めており、ついたあだ名が『裏ボス・市川』。徹底した現場主義で、確実に生還するための能力を身に着けさせる地味な訓練に地獄を見た練習生は数知れず、その代わりにその教え子たちのほとんどが現在も生存し活躍しているという実績を誇っていた。


「ボクも父上から聞いたことがあってね。随分と厳しい方のようだ」


「私、今のままで大丈夫なんでしょうか……」


「『まだイケる』と思っているうちは変える事は難しいだろうから、とりあえず思うとおりにやってみたら良いと思うよ」


「ありがとうございます」


「じゃ、これから市川香澄のデビュー戦といこうか!」


 このデビュー戦が香澄にとって忘れられない物となるとは、彼女自身まだ知る由もなかった。

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