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口から飲まれて異世界生活  作者: 居矣 典幸
3/3

新たなキモチ

そこは未だ記憶に新しいゲームセンターだった。


どこが靄がかかったように遠くから電子音が聞こえる気がする。

トントンと肩を叩かれた感覚があり振り向くと、そこには誰かがいた。

「よお、なんか寂しそうじゃねーか」

それは聞き覚えのある声に思えた。僕は深く考えることなく返事をする。

「ああ、なんか全く知らん世界に飛ばされたような夢を見てさ。すげえ不安だったんだよ。」

誰かはフッと笑ったようだった。

「それは夢じゃねえな。今が夢だよ。ま、ちょっと準備不足は否めねえもんなあ。」

僕は誰かが言っている意味がわからず、思わず眉を寄せてしまう。

「しょうがねえさ。そうなるようになってんだよ。明日にはちょっと良くなるさ。」

誰かがそう言うと、急に涼しい風が吹いた気がした。



思わず身震いし、一気に覚醒する。

改めて自分が眠ってしまったことに気づき、うっすら群青に染まる空が目に映った。

森に吹く朝の風は肌寒いくらいで、昼間のうだる暑さがウソのようだった。

睡眠が取れて気持ちの疲労が少しは取れたのか、腹が減っていることに気づいた僕は朝の森を散策し始めた。

ちょっと夢を見たような気はするものの記憶には残っておらず、とりあえず爽やかさを感じる心の余裕ができている事が意外だった。

改めて森を見て回るとなかなか豊かな森で、「あ、この実は食べれそうだな」なんて実も見つけた。

いかんせん動物性たんぱく質が足りないが、少なくとも腹は膨れたし果汁から水分も取れた。


日が昇りきるとまた昨日のような暑さになると思い、まだ朝もや残るうちに歩き始める。

爽快な朝の空気を胸いっぱいに吸い込むと、昨日の不安が噓のように晴れやかな気持ちで満たされた。

途中で手に持ちやすくブンブンと振り回しやすい、いわゆる「いい感じの棒」を拾い、すでに気分は冒険家だった。

日中になっても気分は下がることなく、森のおかげで直射日光も茹だる暑さも和らぎ、この不思議世界にも慣れてきたような気持ちになった僕は、ワクワクを抑えきれず思わず小走りに森を進み続ける。

そして、ついに川を見つけたのは昼下がりの頃だった。


夜に向けて見通しのいい川原にまた簡易の寝台を作り、「いい感じの棒」は剥いて裂いた木の皮を糸代わりにした釣り竿へとその姿を変えたのだった。

釣り針なんて持ち合わせていないので、いい感じの棒と同種と思われる硬い木の枝を小さく折り、両端を石で研いで針代わりとした。餌はその辺から掘り出したミミズのような虫だ。

せせらいだ小川に目に見える魚影はないが、いい感じの岩に座りいい感じの棒改め釣り竿を垂らしているだけで、なんだか充実した一日に思えてきた。


しばらくすると小さく竿が引かれる感触があった。

「お、きたきた!」

はやる気持ちを抑え、ヒュッと竿をしならせタイミングを合わせて当たりを取る。

当然ながらリールなんてついてないので、その勢いで一気に釣り上げ手元へ引き寄せた。

この不思議世界での初めての獲物は、夕日を受けてキラキラと輝くマスのような魚だった。


ピチピチと跳ねる本日の獲物をに対して、いただきますと心の中で手を合わせてから頭をグッとひねる。

事切れたことを確認し、手を切らないよう気を付けながらエラから指を差し込み器用に手開きしていく。

何の気なしに一連の流れをやっていて気付いたが、今まで一度だって魚を捌いたことなどないし、むしろ料理なんてインスタントラーメン専門だったはずだ。

しかしながら、いつか見たサバイバル番組のようにするすると調理する自分がいた。

そのことに驚きつつ、僕もだいぶ不思議世界になじんだものだなんて独り言ちつつ魚を開いていった。


すっかり手開きされた魚を前に先ほどまでのウキウキ気分から一転、火が無いことに気づき慌てる僕。

「あぁー!さすがに川魚は生で食えんよなあ…せめてなんかこう火打ち石みたいなの無いのかよ…」

狼狽しつつカチンカチンと火打ち石を打ち付けるような仕草であたりをウロウロとするが、そんな気の利いたものがその辺に落ちているわけがない。

「火さえあれば食えるのによう…火さえ…」

と、気づけばカチンカチンとするその仕草の手の当たりに、カチンカチンと本当に火花が出ていることに気づいた。

こんな不思議世界だ。まさか魔法が!なんて思いながら、「火だよ…火だよ…」と念じつつカチンカチンとやる。

さすがにそのままで火種用の草を集めることはできないので、簡易の寝台として集めていた枝葉の山へと向けてカチンカチン。

しかし火花程度ではなかなか火がつかないことに業を煮やし、

「むぅうぅ、つけよつけよつけよ…!火ぃぃぃ!!」と強くカチン!とした瞬間



ポウと枝葉の寝台に火が灯った。



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