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口から飲まれて異世界生活  作者: 居矣 典幸
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見知らぬ土地

穴の中の景色に見とれていた僕は、ふと喧騒が聞こえないことに気づき横に立つ友を見やる。


が、そこに友はいなかった。

それどころか見慣れたアーケードもゲームセンターもなく、荒涼とした赤い土の世界が広がっていた。


「は・・・えぇ・・・」などと、思わず変な声が出てしまうのも仕方ないだろう。

先ほどまでの不思議体験とは比べ物にもならない現実を突きつけられている自分に気づいた。


辺りを見渡すと、そこは先ほどまで口の中の穴にあった景色。まるで火星のような乾いた赤い土が広がり、砂岩のような岩とも砂の塊ともつかないような凸凹がそこら中に広がっていた。


気温は先ほどまでとさほど変わらず夏の暑さ程度だが、空気が乾いているのか汗がダラダラと流れる様子はない。しかし予想だにしなかったこの状況に冷や汗が背中をついと流れる。

今のところ生き物の気配は無さそうではあるが人の気配もなく、見知らぬ土地にぽつんと一人な現状がひしひしと実感されてきた。


とりあえずは周囲の状況把握だと思い、目線よりも高い砂岩によいしょとよじ登る。

辺りを見渡すと遠くに霞む山々が見えるが、そこにいたるまでに人の手によるようなものは見当たらず、不安はじわりと増してきた。

通う学校のグラウンドほどの広さに砂岩が乱立していて、それから数百mほど先からは芝のようなごく短い緑の草原に。その遥か遠くに見える山々の裾野は森になっているようだ。


先ほどまでいたゲームセンターについた時間を考えれば、もうすぐ日が暮れる頃。光源になりそうなものは見当たらないので、日が落ちれば真っ暗になるだろう。

とは言え、どこに行けば良いものか見当もつかない。


ここは勘だとばかりに胸ポケットにさしていたボールペンを空に放り投げ、くるくると舞いながら落ちてくる様を見つめる。


落ちたペンは真っすぐ進めと前を指していた。



ポケットの中にはボールペンと名札をつける安全ピン。

スマホはバッグの中に入れていたのが痛いところだが、ないものねだりをしても仕方がない。

今は刻一刻と夜が迫っているこの状況で、いかに自分の身の安全を守れるかが最優先だ。


ようやく草原を抜け森の近くまで来たものの、ここまで歩く間にすっかり太陽は落ちてしまい、遠い山の向こうから微かな夕日を残すのみとなってしまった。

幸いにもこの不思議世界にも月があり、更に幸いなことに満月だったため、一寸先も見えないお先真っ暗な状態こそ回避できたものの、ただの一高校生には不安すぎる初めての一人の夜がついに到来したのだった。


何はともあれ、安全の確保をせねばならない。

夜だから寝るなんて本能に従った訳ではないが、何も分からない土地で夜道をトボトボと歩き続けることは避けたい。歩けない以上はしっかりと休息を取るべきであり、休息を取るためには安全が第一なのだ。


月明りに導かれるように森の入り口辺りを散策し、そこそこ開けた場所を見つけた。

未だ生き物の気配はなく、シンと静まり返った幻想的な場所だ。

周囲は木に囲まれているが、ここには月の光が差し少しの視界なら確保できる。

そこで落ちた落ちた枝葉を集めて簡易の寝台とし、シーツの代わりに上着をかぶせてゴロリと寝ころんだ。


眠れるだけの安心感はないが、まんじりともできずに朝を迎えるよりはマシであろう。

日が昇ってからはどうしよう、ここはいったい何なのだろうと悶々と考えているうち、浅い眠りに入ってしまった。

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