3 皇子の制服姿の破壊力よ……!
準備に追われているうちに……気づけば交流会参加の前日を迎えていた。
エリックたちはまだブツブツ言っていたが、もう私にもどうすることもできない。
朝から制服に着替えて準備していると、イクスが恨めしそうな顔で文句を言ってきた。
「はぁ……まさか護衛騎士も立ち入り禁止とは……。
この姿のリディア様を皇子のそばに置くのは、すごく嫌なんですけど」
「またそんなことを言って……。
なんでルイード様のことをそんなにも嫌ってるの?」
「……はあぁ……」
イクスは私をジッと見ては大きなため息をついた。
なんなの??
「いいですか? 部屋に皇子が訪ねてきても、絶対に招き入れてはダメですからね?」
「寮は男女別だから、そんなこと起こらないわよ」
「わかりません。あの皇子なら、なんとかするかもしれませんから」
……いや。どんだけ信用ないのよ皇子。
「あの可愛らしいルイード様がそんなことするはずないでしょ!」
「……はあああぁ……」
イクスはさらに大きいため息をついた。
ここ最近のイクスは、私を見る度にため息をついている。
イクスとそんなやり取りをしていると、王宮の馬車が到着したと報告があった。
ルイード皇子が私と一緒に行くために、迎えにきてくれたのだ。
大きな荷物はすでに外へと運ばれている。
私はメイとイクスと一緒に部屋を出て玄関へ向かった。
王宮の馬車のところまで行くと、すでにエリックとカイザが見送りに出てきてくれていた。
静かに不機嫌なオーラを出しているエリックと、あきらかにイライラした様子のカイザ。
2人のすぐ近くには、制服姿のルイード皇子が立っている。
男性の制服は、下はカフェラテ色に薄い白のチェック柄で同じだが、ジャケットはそれよりも色が濃く焦げ茶色で、淡さをしっかり引き締めている。
女性はショートタイだが、男性は長さのある一般的なネクタイだ。
優しく可愛らしい女性の制服と、緩くなりすぎず凛々しさを感じる男性の制服。
男女で並んだらとても似合いそうだと思った。
と、いうか……皇子の格好でもなく、王宮の中で見るラフな格好でもない、制服姿のルイード皇子。
学生感漂うその麗しい姿は、想像以上に破壊力ヤバイ!!!
何あれ何あれ!?
なんなのあの美少年は!!
まるで皇子様みたい!!! あ。本物の皇子だった。
いや、そうじゃなくて……本当に絵に描いたようなリアル皇子!!!
絵本から出てきちゃったんですか!?
か、かわい……カッコいい?
どっちにしろやばいわ!!!
目の保養すぎる!!
「リディア……制服姿、すごく似合ってるね。
とっても可愛いよ」
ルイード皇子が、今日も春の風のごとく爽やかに笑った。
可愛い……?
それはあなたの方ですーーーー!!!
眩しすぎて直視できないが、なんとか私も返事をする。
「ルイード様もとっても良く似合ってますわ……!」
「そ、そう……?」
頬を赤く染めて照れている皇子。
視線をそらして俯きながら、少し恥ずかしそうにはにかむ姿は天使でしかない。
え……大丈夫かな?
こんな可愛い皇子……各国の皇女や公爵令嬢がほっとかないんじゃないかしら。
誘拐されない?
そんな心配をしていると、荷物を全て積み終わったと報告された。
いよいよ3ヶ月間の留学……もとい学園生活に向けて出発ね!
「では行ってまいります」
兄達やイクス、メイド達に挨拶を交わす。
寂しそうな顔をしているメイド達とは違い、エリックやカイザ、イクスは人を襲う肉食獣のような形相をしている。
そんな3人に気づかないフリをして、皇子と一緒に馬車へと乗り込んだ。
馬車が出発してすぐ、「毎日手紙を送ってこいよ!」と叫ぶカイザの声が聞こえたが、これは聞こえなかったことにしておこう。
屋敷を出発して走ること数時間。
大きな街を抜けて、短期学園交流会を行う施設へ到着した。
敷地面積は東京ドーム何個分なんだろう?
学校らしき建物と、寮らしき建物がいくつか並んでいて、広い校庭や温室のような物まで見える。
毎年行われる交流会のためだけに作られた建物だというのだから驚きだ。
築数十年とは思えないほど綺麗である。
馬車で中庭まで進むと、そこには案内をしてくれるという使用人らしき男女数人が待機してくれていた。
馬車を降りてルイード皇子と一緒に挨拶をすると、にこやかに迎え入れてくれた。
メイドのいないここでの生活を手助けしてくれるらしい。
まぁ普通の皇女や公爵令嬢なら、1人で自分の支度をしたことない人もいそうだものね……。
洗濯とか自分でやるのかな? とか思ったけど、そんなわけないか。
まずは寮から案内してくれるとのことで、ルイード皇子と分かれ私は女子寮なる建物へと向かった。
男子寮とは少し距離もあり、実際に行き来することはないそうだ。
3階建てのレンガの建物は女子寮というだけあって、装飾品などが可愛らしく設置されている。
1階には食堂やミーティングルームなどがあり、2階は公爵令嬢の個室、3階は皇女の個室と分けられている。
私の部屋は2階らしく、階段を上がって1番奥の部屋に案内された。
1人1部屋の個室は広さが20畳くらいあって、私の寮のイメージよりもとても広い。
さすが貴族向け……!!
6畳ワンルームとかじゃないのね!
ベッドのサイズもセミダブルだし、ふかふかそうな厚みのあるマットレスが敷かれている。
勉強する用の白い机が壁についていて、その上には教科書のような本が何冊か積み上げられてあった。
1人用のソファが2脚、丸い小さなテーブルが1つ。
大きなクローゼットが1つ。
それからトイレと浴室がついている。
部屋の窓は南側に一つあるだけだが、小さすぎないので部屋が暗く感じることもない。
白ベースの爽やかで綺麗な部屋に大満足だ。
「素敵な部屋ね」
「えっ」
私が素直に感想を伝えると、案内してくれていたコレットという女性の使用人が心底驚いた顔をした。
コレットは、私の荷物をクローゼットの中にしまってくれている。
「……?」
私が不思議そうな視線を向けると、コレットは手を止め遠慮気味に言った。
「あ……申し訳ございません。
みなさま、部屋の狭さやベッドの小ささを気にされる方が多かったものですから」
「え、そうなの?」
確かに自分の部屋よりは狭いけど、十分な広さはあるのに……。
これで文句を言うなんて、さすがは皇女や公爵令嬢……!
私、そんな人達と仲良くやっていけるかしら。
その時、隣の部屋から甲高い叫び声が聞こえた。
「まぁ! なんて狭いお部屋なの!
ここで私に3ヶ月も過ごせだなんて信じられませんわ!
もっと広い部屋はありませんの!?」
うわぁーー。いかにもなワガママ令嬢っぽいセリフだ。
隣にこんなワガママ令嬢がいるなんて最悪……。
でも、この声どこかで聞いたことあるような……?
声の主が気になり、こっそりと部屋を出て隣の部屋の前を通ってみた。
チラリと部屋の中を覗いてみると……
「あっ!!」
私が気づくより早く、その令嬢が声を上げた。
部屋の中から廊下に立っている私を見て、目を見開いている。
「リディア様!?」
「マ……マレアージュ様……?」
フランシス公爵家の長女、マレアージュ様だ。
以前王宮のパーティーで会った時、自分こそルイード皇子の本当の婚約者だと言い、私を責めてきた令嬢である。
あの時は私の失言で怒らせてしまって、手を上げられそうになったところをカイザが庇ってくれたのよね。
それ以降会っていなかったんだけど……まさかここで会っちゃうなんて!
しかも隣の部屋!? 最悪!!
マレアージュは私をジーーッと睨みつけると、自分の部屋にいた案内係りの女性に出て行くように促した。
そして腕を組んで顎を上げると、私に向かって偉そうな態度で声をかけてきた。
「リディア様、今少しお時間よろしいでしょうか?
私の部屋に入ってくださる?」
……これ、私に断る選択肢はありますか?