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25 まさかの事態


ダンスパーティーの前日は、学園はお休みである。

学園内の出入りは自由だが、令嬢で学園に行く人はほぼいないだろう。


何故なら、ドレスのお直しなどに時間がかかるためである。


朝、私の担当をしてくれている使用人のコレットが、ドレスの入った箱を運んできてくれた。

ルイード皇子が選んでくれたドレスをずっと心待ちにしていた私は、ドキドキしながらその大きな箱を開けた。



「わぁ……素敵……!」



開けた瞬間、薄いラベンダー色のドレスが目に入った。

コレットが丁寧に箱から取り出し、全体が見れるように飾ってくれる。


スカート部分は、真っ白のチュールスカートの上に薄いラベンダー色のオーバースカートが重ねてある。

下にパニエを履けば、ふんわりと広がりそうだ。


ボディス部分は全体がラベンダー色で、細やかなレースと主張しすぎない大きさのリボンで品良く飾られている。



「か……可愛い!!」


「とっても素敵ですね」



こんなに可愛いドレスを選んでもらえるなんて、嬉しいけど照れちゃうな……。



「では一度着てみて、サイズ合わせをしましょう」


「そうね!」



早速着てみることができるなんて、幸せーー……なんて思って数時間。

私はグッタリとベッドに横になっていた。



ドレスのサイズ合わせがこんなに疲れるなんて……!

当日と同じようにコルセットから付けなきゃだったし、私の体型が細すぎるせいでかなり詰めなきゃいけなくて、何度も着て確認とかしたし……。


さらにはスカートの丈が丁度良い長さになるようなヒールの高さを確認したり、地味に大変……。

今まではオーダーして作ってもらってたから知らなかったけど、最初から自分のサイズで作ってもらうって贅沢だったんだなぁ……。



「お疲れですよね。お飲物をお持ちしたので、良かったらどうぞ」


「ありがとう、コレット。いただくわ」



私よりも大変だったであろうコレットの優しい気遣いに、嬉しくて申し訳ない気持ちになる。



「他のご令嬢はまだ終わっていないみたいですよ」


「え……まだ?」


「どうやら、ドレスに合わせた髪型や髪飾りを模索しているみたいです」


「なるほど……」



私は自分にセンスがないので、その辺はコレットに丸投げしてるんだけど……みんなすごいな。

やっぱり他国の方々がいるから、気合が違うのかな?



その後すぐに食事を済ませてお風呂に入り、私は早めに就寝することにした。

ベッドに横になったものの、なかなか寝付けない。


思えば、最後の1ヶ月はレポート作成でバタバタだった。

資料集めからどこをピックアップするかの話し合い。まとめ始めてからも、補足や削除で書き直しばかり……。

何度パソコンが欲しいと願ったことか。


それでもノア皇子が意外にも要領良くまとめてくれたから、助かったのよね。



レポートが完成した日のことが、頭に浮かぶ。


終わったーー!! と喜ぶ私達。

めんどくさがりのノア皇子がかなり動いてくれたことに驚いていたら、エリン皇女が「ノアはヤル気がないだけで、実際は私よりも有能なのよ」って自慢げに言ってたっけ。


それでノア皇子が「リディアのために頑張ったから、ご褒美にキスしていい?」とか言い出しちゃって、さらにはエリン皇女が「それいいわね」って同意しちゃったもんだから、ルイード様が怒ってたな……。


本当に……あの双子には色々とかき乱されたけど、それも明日で終わりか。

交流会も、もう最後なんだなぁ……。



感慨深くなってしまい、1人で何故か寂しい気持ちになってしまう。


明日のダンス、ちゃんと踊れるかな……?

ドレス姿、ルイード様に褒めてもらえるかな……?

エリン様やノア様と、何事もなくさよならできるかな……?

マレアージュとは、交流会終わった後もたまには会えるのかな……?

ルイード様とは、交流会終わった後どうなるんだろう……?


明日のこと、これからの事を考えているうちに、私はいつの間にか寝てしまっていた。



交流会最終日。ダンスパーティー当日。

私は朝早くからコレットに起こされ、準備を始めていた。


サイドの毛のみを編み込んで後ろでまとめ、ハーフアップのようなヘアスタイルにした後、花とリボンで飾りつける。

ドレスに合わせた白、ピンク、ラベンダーの色の花はとても可愛く、美少女のリディアをさらに愛らしく見せてくれる。


そこにルイード皇子に選んでもらった薄いラベンダー色のドレスを着れば、美しい妖精の出来上がりだ。



「とってもお綺麗です、リディア様」


「ありがとう」



コレットが瞳をキラキラさせながら褒めてくれる。

自分でもその通りだと思ってしまうくらい、今日のリディアは本当に美しくて可愛い。

ずっと制服姿だったから、余計にそう見えるのかもしれないが……。


飲み物の用意をしにコレットが部屋から出て行った後、扉をノックされた。


コンコンコン



「はい」


「ジェシカです」


「ジェシカ様!?」



急いで扉を開けると、そこには笑顔のジェシカが立っていた。



「ジェシカ様、どうし……」



ドレス姿のジェシカを見て、私は目を丸くした。

明るいピンクにフリルとリボン満載のゴテゴテなプリンセスドレス。

事前に聞いてはいたが、想像以上の姫ドレスに驚きが隠せない私。



な……何このドレス……!

これ、エリン皇女のような幼い感じの令嬢じゃないと似合わないんじゃない!?

よりにもよって、ジェシカのようなすらっと美人が着るなんて……言っちゃ悪いけど、全然似合ってないわ!


さすがにもっとちゃんと選んであげてよノア様……!



私からの同情するような視線に気づいたのか、ジェシカの笑顔が一瞬引きつったような気がした。



「このドレス、私には()()()似合っていないでしょう?」


「あ……えっと、そ、そんな事……」


「いいの。ドレスは交換できないってわかって諦めましたから。

でもね、アクセサリーは交換できるって聞きました?」


「い、いいえ」



ルイード様の選んだ物に不満はなかったから、そんなこと気にしなかった……というのは黙っておこう。



「ノア様ってば、アクセサリーもちょっと……アレなんですの」


「あぁ……」



きっと令嬢に似合うとかドレスに似合うとか、何も考えずに選んだのだろう。

なんとなく察してしまった。



「それで、今から替えてもらいに行きたいのですが……リディア様、一緒にきてくださいませんか?」


「え? 私? ど、どうして」


「他の方はみんなまだ準備が終わっていないのです。ダメですか?」


「それなら……平気ですが、コレットが戻ってくるまで待ってもらってもいいですか?

私が出かける事を伝えないと……」


「それなら私の使用人に伝えておくように言うから大丈夫です!

さぁ行きましょ!」


「えっ」



そう言うと、ジェシカは私の手を掴んで足早に歩き出した。

強引な令嬢は何人も見てきたが、慣れることはない。



どうして貴族令嬢や皇女様ってこんなに自己中な人が多いの……!



ジェシカが引っ張ってきた場所は、パーティー会場となる建物の3階だった。

2階には控室が用意されているとは聞いていたが、3階も使えるのかとキョロキョロ見回してみる。



「3階も入って良かったのですね。

ここにアクセサリーが置かれているのですか?」


「そうなのよ。この部屋よ」



そう言われ入った部屋は、小さなテーブルと2人掛けのソファが置かれているだけの、薄暗くて殺風景な部屋だった。



「この部屋? 何も置いていないみたいですが……間違えていませんか?」



そう私が振り向きながら聞くと、入り口に立ったまま不自然なくらいに微笑んでいるジェシカが、私の問いとは全く関係ない話を始めた。



「私ね、貴女のお兄様にお会いした日は不安でしたの。貴女を突き飛ばしてしまった事や、レポート作成に協力してこなかった事を怒られてしまうのではないかと……。

でも、何もありませんでしたわ。貴女は、お兄様に私の事を何も言わずにいてくださったのですね」


「……え? と、突然どうしたのですか?」


「そこで私は思ったのですわ。貴女はきっと、とてもお優しい人なんだって。

他国の公爵令嬢と揉めるなんて、貴女は望まないのでしょうね。だから……」



そう言うと、ジェシカは部屋から出て勢いよく扉を閉めた。

ガチャリ! と鍵がかかった音まで聞こえてくる。



「…………え?」



ポツンと1人で部屋に佇む私。

慌てて扉を開けようとしたが、内扉に鍵がついていないことに気づく。

ドアノブをガチャガチャしてみるが、やはり鍵をかけられているらしく開かない。



…………はああ!?



「ジェシカ様!?」


「……だからね、こんな事をしても大丈夫かな〜って」



扉の向こう側からジェシカのクスクス笑う声が聞こえてくる。

私の頭はパニック状態になっていた。



「冗談はやめてください!! ジェシカ様!」


「この部屋はね、反省部屋って言って、問題を起こした生徒がここで落ち着くまで隔離される部屋なの。

暴力事件を起こしたり……とかで暴れている生徒をね。

なので、この部屋は脱出できないように外側からしか鍵の開け閉めができないようになっているのよ」


「そんな……! 早く出してください!」


「気が向いたらダンスパーティーが始まった頃に出してあげるわ。それまでは、そこで1人寂しく、お過ごしになってね」



なんっだそれ!? え!?

なに言っちゃってんのこの人!



「どうしてこんな事……! 問題になりますよ!?」


「貴女が私の名前を出さなければいいのよ。言えないでしょ? 巫女として参加して、他国の公爵令嬢と問題を起こしたなんて……」


「!!」


「もし何か言われたら、私も貴女に色々されたと主張しますわ。何人かは貴女のことを信じてくれるかもしれませんが、巫女のイメージが悪くなるのは避けられないでしょうね」


「そんな……」


「気に入らない貴女を少しだけ懲らしめたいだけなの。

この作戦がうまくいくように、わざと最近は優しくしていたのよ」



はああ!?



「楽しいダンスパーティーに参加できなくて残念ですわね。

最後に少しくらいは参加させてあげますわ。ではさようなら」


「待って!!」



そう言ってジェシカの足音がどんどん聞こえなくなっていくのを、私は放心状態で聞いていた。


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[一言] おお……、ヤバい思考回路だw
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