19 動きだした双子の姉弟
突然本人に向かって「俺はリディアが好きってこと?」なんて聞いてきたノア皇子。
わざと知らないフリしてるとか、とぼけたフリをしているのではなく、本気で言っているのだからタチが悪い。
えーーーーと、これはなんて答えればいいの?
普通に好きって言われたなら「私はルイード様のことが好きだから」って断れるけど……これは違うのよね。
ノア皇子は私のことが好きなのかって聞かれてるのよ。
ノア皇子本人に。
うーーん。どうなのかな? さっきルイード様にヤキモチ妬いてるような発言はしてたけど、だからって即好きだって決めつけるのもーー……。
…………って私が知るかよ!!!
何で本人がわかってないことを私に聞くの!?
それ、私が考えることじゃないよね!?
なんか私の顔をジーッと見て答えを待ってるみたいだけど、ここはハッキリと……。
「あの、ノア様……」
「ノア!! 次の講習はきちんと出てって……あれ? リディア?」
「エリン様!」
私がノア皇子に話しかけようとしたタイミングで、エリン皇女が現れた。
その場で立ち止まったエリン皇女は、私とノア皇子の姿を見て不思議そうな顔をしている。
「……あなた達、そんな場所で手をつないで何をしているの?」
「……あっ」
私はノア皇子からバッと手を離した。
落としそうになった本を支えてもらった状態のままだったことに気づく。
エリン皇女から見たら、手をつないでいるように見えたらしい。
まずい……! 変な誤解をされてしまったかも……。
「あのっ! これは本を支えてもらっていただけで……」
ポカンとした状態のエリン皇女は、私の声が聞こえていないようである。
真っ直ぐにノア皇子を見つめたまま、ボソッと独り言のように呟いた。
「ノア……。あなたが私以外の女性にそんなに近づくなんて、めずらしいわね」
「俺、リディアが好きみたいだよ」
「……え?」
ノア皇子の発言に、目を丸くするエリン皇女。
ちょっと待てーーーーい!!!
まだ確定してないよねそれ!?
最初は放心状態に近かったエリン皇女の顔が、だんだんと笑顔に……瞳はキラキラと輝きだした。
背の低いエリン皇女が上目遣いでキラキラと見つめてくる姿は、とても愛らしい。
「まぁ! ノアが誰かを好きになるなんて初めてね!
これは是非ともリディアをノアの婚約者にしなくては!」
え?
「ルイード様がなかなか融通が利かなくて困っていましたけど、先にノアがリディアを落としてしまえばいいのですわ!」
え?
「リディアを取られてしまえば、ルイード様も諦めるはずですもの!」
え?
エリン皇女は、ノア皇子に近寄るとその手を両手でガシッと掴んだ。
されるがままで、ただエリン皇女の言ってることを黙って聞いてるだけのノア皇子。
「ノア!! がんばって!! 私は協力するわ!
是非ともリディアを自分のものにするのよ!」
「わかった」
だからちょっと待て!!!
なんか姉弟で勝手に話が進んでるけど、ここにいる私は無視かよ!!
エリン皇女は相変わらずめちゃくちゃ自分本位だし!
なんでそれに対して「わかった」とか言っちゃうのノア皇子!
「あ、あの!!」
私が大きな声を出すと、2人が同じような「ん?」という顔でこちらを向いた。
「私は……その、ルイード様のことがす……好きなんです!」
「……だから? 私も好きよ」
ケロッとした顔で答えるエリン皇女に、私の方が動揺してしまう。
ノア皇子は無表情の上無言でこっちを見ているだけなので、どんな感情なのかが全くわからない。
「だから……その、ノア様に気持ちが傾くことはありません」
「あら。でも、よく考えて? 私はルイード様を気に入っていて、ノアもリディアがいいと言ってるのよ?
リディアとルイード様が結婚するよりも、私とルイード様、ノアとリディアで結婚すれば、4人が全員幸せになれるじゃない」
えええええ!? どんな理屈!?
私とルイード様の気持ちは!?
自分達と結婚したら幸せになれるって、どんだけ自信満々なの……。
よく考えて? ってそのセリフ、そっくりそのままお返ししますけど!!!
「ですから! 私は……」
「あっ待って! 私はノアを呼びにきたのよ!
この講習だけは参加しなきゃいけないの! 話はまた後でねリディア!」
エリン皇女はハッとして急に慌てだし、ノア皇子の手を引っ張りながら図書室から出て行った。
本当に嵐のような皇女様である。
……ノア皇子、結局最後の方はなんにも喋ってなかったわね。
私はポツンとその場に取り残されたような状態になっていた。
午後は全員集められてのガイダンスがある。
私はルイード様と一緒に、初日にオリエンテーションを行った広い会場へと向かった。
図書室での出来事をどう説明していいかわからなかったため、ノア皇子のことはルイード皇子には何も言っていない。
会場に到着し、ルイード皇子と並んで座ると、いつのまにか来ていたエリン皇女が皇子の隣にちょこんと座った。
あれ……エリン様、いつのまに……。
エリン皇女は、私達2人に向かってにこりと意味深に微笑む。
以前ダンスのペアを組ませないように邪魔してきた時は、エリン皇女はいつも私の隣に座っていた。
今回、私ではなくルイード皇子の隣に座ったことに驚いていると、エリン皇女が後ろからついて来ていたノア皇子に言った。
「ノアはリディアの隣に座ってね」
「うん」
「え!?」
ルイード皇子がそう反応した時には、すでにノア皇子は私の隣の席に座っていた。
双子の姉弟に挟まれた状態の私とルイード様。
なんだこの状態は!?
隣にいるルイード様からは、なんだかゾクっとするような変なオーラを感じるし!
「……エリン様、これは一体どういうおつもりでしょうか。
俺がリディアの隣に男性を座らせないようにしていた事、俺の隣にも女性を座らせないようにしていた事、ご存知のはずですが……?」
え!? そうだったの!?
ルイード皇子の言葉に驚く私。
皇子は一応笑顔を作ってはいるが、目が笑っていないのがわかる。
私ですらヒィィと怯えそうになっているというのに、話しかけられている当のエリン皇女はお構いなしだ。
「もちろん知っているわ。
だから、今までは貴方の隣には座らないようにしていたじゃない」
「では、なぜこの状態に……席に余裕はあるのだから、他にもたくさん空いていますよ?」
「それは仕方ないわ。だって、ノアがリディアのことを好きになってしまったんだもの。
私は姉として協力しているだけよ」
「…………え?」
エリン皇女の爆弾発言に、ルイード皇子が固まったのがわかった。
自分のことを勝手に暴露されたというのに、隣に座っているノア皇子は動揺するどころか欠伸をしている。
「そ……それなら尚更リディアの隣は……」
ルイード皇子が椅子から立ち上がったタイミングで、講師が会場に入って来た。
真面目なルイード皇子は、仕方なくまた着席する。
「ふふっ。私達わざとギリギリに参りましたもの。もう移動はできませんわ」
小悪魔のように可愛らしく笑ったエリン皇女は、ルイード皇子の腕にくっついている。
「エリン様! 離れてください!」
「イヤ〜」
講師がすでに来ているため、コソコソと小さな声でやりとりしている2人。
ルイード皇子が拒否しているのはわかってるけど、胸にモヤッとした黒い感情が出てくる。
ううう。なにこれ。
ルイード様は何も悪くないのに、すごくモヤモヤする……。
「変な顔してる」
「え…………わっ! ノア様、近いです!」
声をかけられてノア皇子の方を向くと、すぐ目の前にノア皇子の顔があった。
私の顔を覗き込んでいたらしい。
「今の顔は初めて見た。もう1回見せて」
「……自分がどんな顔していたのかわからないので無理です」
「変な顔だよ」
「…………」
「ははっ。その顔おもしろい」
冷めたような目で軽く睨みつけると、ノア皇子は楽しそうに笑った。
ノア皇子が笑ってるの、めずらしい……。
でも、顔おもしろいってなんだよ。それ女子に言っちゃいけないやつ。
「ノ、ノア様! リディアからもっと離れてください」
反対側の席からルイード皇子が口を出してきた。
その腕にはまだエリン皇女の腕が巻きついている。
「……エリンとくっついてるルイード様には言われたくないんだけど」
「俺だって離そうとしているが……!」
ルイード皇子は反対の手でエリン皇女を引き離そうとしているが、エリン皇女はべったりと皇子の腕にくっついていて離れない。
あの状態では、エリン皇女を後ろから引っ張るくらいしないと無理だろう。
………え。私達、この状態でこれからガイダンスを受けるんですか?
色々と無理なんですけど。




