18 ……告白?
どのくらい抱き合っていたのか、正確な時間はわからない。
ドキドキしていてすごく長く感じたけど、実際は短い時間だったのだと思う。
ルイード皇子の腕が緩くなって、自然と身体が離れた。
緊張から解放されてホッとしたような、少し残念なような、複雑な気持ちだ。
「…………」
「…………」
お互いどこか気まずくて、そろ〜っとゆっくり視線を合わせる。
ルイード皇子は頬を赤らめながら、にっこりと可愛く笑った。
ううわああ……!!!
こっこんなに可愛く笑うルイード様を久しぶりに見た気がする!!
なにこの愛らしい笑顔は!! 大天使か!!
空から舞い降りた天使の微笑みかよ!!
かぁわぁいいいいいい!!!
「……リディア、どうかした?」
「い、いえ。萌えが爆発していました……」
「モエ……?」
胸がキュンを通り越してギュンとなって悶えていた私は、拳を胸元に当てて下を向いたまま小刻みに震えていたらしい。
何事かと皇子に心配されてしまった。
なに口走ってんの私! 落ち着け!
ルイード様に怪しい女認定されてしまうわ。
「なんでもないです。大丈夫です」
「本当に?」
ううう。心配そうに覗き込んでくる姿までかわいすぎる!!!
なにこれキュンキュンしすぎて死ぬ!!
「はい。本当に大丈夫です。
それより……そろそろ教室に戻った方が良いのでは……」
「そうだね。リディアはどうする?
一緒に戻る? 一応医務室に行く?」
なぜか周りをキョロキョロしながら確認してくるルイード皇子。
何か探しているのだろうか。
「……? 一緒に戻ります」
「そうか」
そう言うと、ルイード皇子は私の腕に軽く触れ、頬にキスをしてきた。
「!?」
「……じゃあ行こうか」
皇子はイタズラが成功した子どもみたいに、嬉しそうに笑いながら言った。
可愛さの中にたまに男らしさが出てきたりするから、私の心はずっと乱されたままである。
ほっぺにチューとか!
皇子様かよ! 皇子だけど!
しかもなんなのその笑顔!
実は天使に見せかけた小悪魔なの!?
もーーこれじゃ私の心臓がもたない……。
なんとか心を落ち着かせようと、できるだけ皇子を見ないようにしながら教室まで戻って行った。
次の時間は王族・公爵家で分かれての講習である。
巫女としての参加をしている私は、公爵家側の講習に出ても出なくてもどちらでも良いと言われていた。
今まではマレアージュと一緒に受けていたのだが、今日は受講しないことにした。
特に自分に必要な内容ではなかったことと、図書室の整理がしたいというのが本音である。
マレアージュに一言伝え、私は図書室へ向かった。
カウンターの中に座っている担当者は、入って来た私を一瞥するとすぐに読んでいた本に視線を戻した。
今日もいつも通りのやる気のなさである。
……まぁだから助かってるんだけどね。
私も何も声をかけないまま奥の棚を目指す。
途中ノア皇子がいつも寝ている長ソファをチラッと見たが、今日はノア皇子の姿はない。
「よし。1人で集中できそうだわ」
あれから何度か図書室に足を運んでいるのだが、実はまだジャンルごとに本を分ける工程で止まっていた。
本のタイトルだけではジャンルのわからないものを、パラパラと内容を確認してから分けているため時間がかかる。
たまに試し読みのつもりが真剣に読んでしまったりするので、それが時間かかってる原因かもしれない。
ルイード様と気持ちが通じ合えたことで機嫌が良かった私は、鼻歌を歌いながら本の中身を確認していた。
「……なんか楽しそうだね」
「あっ! ノア様!」
ノア皇子は今図書室に来たばかりなのか、入り口の方向からやって来た。
「また寝にいらしたんですか?」
「んー……別に。リディアが入って行くのが見えたから来ただけ」
「……そうですか……」
…………ん?
なんだかそれだと、まるで私に会いに来たって言ってるみたいに聞こえるけど……まさかね。
ノア皇子の発言がちょっと気になったが、このマイペースな皇子様の言うことだから深い意味などないのだろう。
皇子は後ろの棚に寄りかかるようにして、ぺたんと床に座った。
ちゃんと見てるのか見ていないのか、私が本の整理をしている姿をボーーっとしながら眺めている。
「ねぇ、それまだ終わらないの?」
「まだ全部の本をジャンル分けできていないんです。
それが終われば、あとは作者別に分けて……」
「……なんでそれをリディアがやってるの?」
「え?」
「こんな事、学園の関係者にやらせればいいのに……」
ノア皇子は、あいかわらず全てがめんどくさいと言い出しそうな顔で呟いた。
本の整理をしている令嬢の姿というのは、生まれつき王族であるノア皇子には理解できないことらしい。
それがめずらしいから、こうして見物しているのだろうけど……。
「楽しいからですよ」
「楽しい……? 本の整理が……?」
ノア皇子は思いっきり解せぬといった顔をしている。
『お前おかしいぞ』って思ってるのがそのまま顔に出ている。
うん。この遠慮のない正直なところ、エリン皇女にそっくりだわ。
むしろ清々しくておもしろいわ。
「楽しいですよ。本をチラッと中身確認するのも楽しいし、どのジャンルかなーって悩むのも楽しいし、これが全部キレイに並び替え終わったら……って想像するのも楽しいし……」
「……よくわかんない」
でしょうね。
ここで皇子からわかるわかる〜なんて返事がくるなんて、私も思ってません。
すると、ノア皇子は突然立ち上がり私のすぐそばまで近づいてきた。
今は無表情に戻ってるので、その意図がわからない。
「……どうされたのですか?」
「リディアがさっき言ってたのはわからなかったけど、リディアが楽しそうなのはわかった」
「それは良かったです」
ん…………? だからって何でこっちに来る??
なんかめっちゃジーーーっと見られてるんですけど……。
「……また笑って?」
「え?」
「さっき話してる時、笑ってたのが可愛かったから……また笑った顔が見たい」
「へ!?」
驚きすぎて変な声が出てしまった。
でもその反応に笑うこともなく、ノア皇子はジーーッと私を凝視したままだ。
な、なに言ってんのこの人!?
笑った顔が可愛いって、ノア皇子でもそんなこと思うんだ……なんて驚いてる場合じゃない!
え!? なに!? どういうこと!?
これは口説かれてるの?
ただ思ったことを素直に言ってるだけなの?
私を見つめるノア皇子の顔は、恥ずかしそうでもないし照れているようでもない。
ただの好奇心で言っているだけなのか。
……ノア皇子ならあり得る。
「ノ……ノア様。そういう言葉は、女性に簡単に言ってはいけません。
誤解されてしまいますよ」
「誤解? 何を?」
本当にわかっていないような、純真無垢な顔で聞かれて答えに迷う。
『私に好意を持ってると勘違いしてしまう』なんて、恥ずかしくて言いにくい。
「えーーと、男性から可愛いと言われると、女性は好意をもたれているかもと思ってしまう場合があるってことです」
「……好意って、ルイード様がリディアにむけてるような?」
「!!」
「あっ……真っ赤になった」
いきなりルイード様の名前を出されたので、過剰反応してしまった。
持っていた本を落としそうになってしまい、ノア皇子が咄嗟に手を伸ばしてくれる。
本を落とさずに済んだので、手を離されると思ったのだが……なぜかノア皇子は私の手に触れたままだ。
「リディアはいつも、ルイード様の名前を聞くと顔が赤くなるね」
「…………」
「顔が赤くなるのは見てておもしろいんだけど、その理由がルイード様だと思うとおもしろくないんだよね。
なんでだろう……」
「…………」
なんでって…………え!?
それって……い、いやいや!! まさか……ノア皇子に限ってそれは……。
頭がグルグルしていて、何も答えられない。
そんな無言状態の私に、マイペース皇子は気にせず話を続ける。
「……今の困ってる顔のリディアも可愛いって思ってるんだけど。これって、さっき言ってた『好意がある』ってことになるの?」
「……そ、れは……」
「俺はリディアが好きってこと?」
「!!」
そんなこと聞かれましても!!!
え!? なにこれ告白!? 質問!?