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11 可愛い皇子


待って待って待って。



今、私はルイード様の隣に座って講習を受けている。

今日最初の講習は、隣の国でしか栽培されてないという貴重な植物についてだ。

効能や取引に関する注意事項など詳しく説明されているが、申し訳ないくらい内容が頭に入ってこない。


なぜなら、先程のルイード様とエリン皇女の会話がずっと頭の中でリピートされているからだ。



「リディアだから大切にしているのです」

「リディアのことが本気で好きということ?」

「それは貴方に言うことではありませんから」



うあああああ。


頭を抱えたい! 顔を両手で隠したい!

でもそんな事をしたら、隣にいるルイード様に変に思われるからできない!



私は平静を装いながら座っているが、頭の中はパニック状態だ。

チラリと横目でルイード様を見るが、いつもと変わらない爽やかな美少年がそこに座っている。



なんでこの人はこんな余裕なの!?

自分がさっき何を言ったのかわかってます!?

どうしてこんな涼しげな顔で真面目に講習を受けられるの!?


初めて会った頃のルイード皇子は、会話するだけでも顔を赤くしていたというのに!

あの可愛いピュア皇子はどこへ行っちゃったの!?


え!? 私が勝手に自意識過剰に反応しているだけで、勘違いなのかな。

まるで告白でもされたような気でいたけど、別に好きだって直接言われたわけでもないし!



「リディア……どうした?」



ふと気づくと、すぐ近くにルイード皇子の整った顔がある。

私の顔を覗き込んで、小さな声で話しかけてきていた。


内心飛び上がりそうなほど驚いていたが、私は笑顔で聞き返した。



「なっ……なにがですか?」


「え? うーーん……と唸っていたけど」



マジか。

全然平静を装えてなかった。



ルイード皇子が真剣に私の心配をしているのが伝わってきて、余計に恥ずかしくなってくる。

まさか、あなたに好きって言われたと思っちゃってパニックになっていました〜とは言えない。



「大丈夫です。ちょっと考え事をしていただけなので……」


「そう? 今日は朝から顔色も悪かったし、体調が悪いなら遠慮せずに教えて欲しい」


「……はい」



私がそう返事をすると、ルイード皇子が優しく微笑んだ。



うううっ!! 出たっ!

アイドル最強スマイル!!

今日も素敵な笑顔をありがとう!


爽やか100%! そして優しさも100%です!



可愛い皇子の笑顔に、胸がギューッとなる。



……私はいつも、ルイード皇子の笑顔を見ると心臓を掴まれたような感覚になるけど……これってどういう事なのかな。

私も皇子が好きっていうこと?

それとも、ただのアイドルファンのような感じ?


自分の気持ちがよくわからない……。

アイドルに向けての気持ち? それとも……。



つい、ルイード皇子の顔をジーーッと見つめすぎていたらしい。



「な……なんでそんなに見るの……?」



皇子が頬を赤く染めて、焦ったように言った。

この照れ顔は以前と変わらなくて可愛い。



「いえ……。ルイード様って可愛いなと思いまして……」


「なに、それ……」



そう言うと、ルイード皇子は赤い顔を隠すようにプイッと反対側を向いた。



うあああああ。可愛い!!

可愛すぎです皇子!!!


もう胸がキュンキュンしてヤバいんですけど、これは恋なの違うのどうなの!?


ルイード様との中途半端な婚約の件もあるし、エリン皇女の件もあるし……この気持ちがなんなのか、これからもっと真剣に考えてみよう……。



なかなかこちらを向いてくれなくなった皇子を見ながら、そう思った。



次の時間は男女で分かれての講習だったため、ルイード皇子と分かれて私は次の講習が行われる教室へ向かおうとしていた。

荷物を持って廊下に出たところで、同じ教室にいたマレアージュに呼び止められる。



「リディア様!」


「マレアージュ様」


「今朝も食堂にいらっしゃらなかったので心配しましたわ。

その……エリン様のこと、大丈夫ですの?」



マレアージュとは、昨夜エリン様から婚約解消して欲しいと言われ食事もせずに逃げた状態のままだったことに気づく。

気遣うように私を見るマレアージュの優しさが素直に嬉しい。



「大丈夫です。心配かけてごめんなさい」


「……顔色は少し悪いけど、昨日よりは元気そうで安心したわ」



私が笑顔で答えると、マレアージュもホッとしたような顔で笑った。

その時、廊下の奥から講師が何かを叫びながら慌てて走ってくるのが見えた。



「ごめんなさい! 淑女のみなさん!

次のデザイン講習、こちらの都合で自由時間に変更させていただきます!」



すでに移動を始めている生徒もいたため、講師は叫びながら私達の横を走り抜けて行った。

校内放送がないって不便なんだなと冷静に考えてしまう。

先を行く令嬢達に次は自由時間になったと伝えている講師を遠目に見ながら、マレアージュが言った。



「自由時間ですって。今日のデザイン講習は他国のドレスデザインを比べるという事だったので、とても楽しみにしていましたのに……残念ですわ。

リディア様はどうなさいます?」


「私は、図書室に行ってみますわ。

図書室があると聞いてから、ずっと行ってみたかったんです」


「そうですか。私はドレスの見本が置いてある教室に行ってみますわ。

どんなデザインなのか、次回まで待てませんもの」


「わかったわ。ではまた昼食で会いましょう」



そう言ってマレアージュとも分かれ、私は1人で図書室に向かうことにした。

隣の建物の奥にある図書室付近は、全く人気が感じられないほど静かだ。

誰もいない長い廊下に出ると、突然後ろから声をかけられた。



「リディア様」



げっ……きた。



その嫌味を含んだような高い声を聞いた瞬間、私は心の中で毒づいてしまった。

振り返ると、私の想像通りの人物達が後ろに並んで立っている。

この学園に来た最初の頃、女子寮の食堂で侯爵令嬢である私を『勘違い女』と罵り、この交流会から追い出そうとした……あの3人組の令嬢達だ。


誰にも言っていなかったが、実はこの3人からはあの後もずっとちょっとした嫌がらせを受けていたのである。



「……なんでしょうか?」


「貴女……まだおわかりになりませんの?

侯爵家の分際で、皇子様や皇女様と仲良くなさるのはおやめなさいとお伝えしたはずですが」


「ルイード様と婚約者のフリをされるのも、いい加減おやめになった方がいいわ。

見苦しいですわよ」


「まだお帰りになりませんの?」



いつも私の行動を見ているのか、この3人はこうして私が1人になったタイミングで現れては、罵ってきたり帰れと命令してきたりするのである。

ひどい時には突き飛ばされたこともある。



「……何度もお伝えしておりますが、エリン様はそんな身分など気にされる方ではありませんわ。

それに、ルイード様との婚約もフリではございません」


「貴女のような人とルイード様が本当に結婚できるとでも思っているのですか!?

身の程をわきまえなさい!」



ああ、もう! めんどくさい!

毎回毎回同じことばっか言って!!


言い返したいけど、3倍になって返って来るからそれもまた面倒なのよね。

また黙って聞いてるしかないのかな。

ああーーもう!



イライラしながらも黙って3人組と向き合っていると、突然その後ろからここにいるはずのない人物が現れた。



「なにしてるの?」



ノア皇子だ。


振り返ってノア皇子を見た3人組は、驚きと困惑した表情をしている。

私達しかいないと思っていたのに、突然皇子が現れたのだから驚くのも無理ないだろう。

どこから見られていたのか、どこから聞かれていたのかと焦っている3人の令嬢達。



「ノ、ノア様……これは、その……」


「リディアをいじめてるの?」



怒ってる訳でもなく、責めているでもなく、ただ普通な顔をしてド直球な質問をするノア皇子に、3人組は目を丸くしてさらに慌て出した。


私は思わず吹き出しそうになってしまった。



い……いじめてるの? って……小学生か!

ルイード皇子とはまた違う意味のピュア皇子ね。



「いじめてなどいません!」


「ふーん……まぁなんでもいいけどさ」



慌てて否定する令嬢に、興味なさそうな返答のノア皇子。



いいんかーーい!!

え!? なんでもいいって何!?

これ助けてくれる流れじゃないの!?



ノア皇子の意外な反応に、ホッと3人組が安心しかけた時……ノア皇子が低い声でボソッと言った。



「ただ……リディアをいじめた事がルイード様にバレたら、ここから追い出されるのは君達だと思うよ。

……気をつけてね」


「!!!」



やけに威圧感のあるその言葉を聞くなり、3人組の顔は真っ青になり、逃げるように走って行ってしまった。

急に静かになった廊下にポツンと佇む私とノア皇子。



「……ノア様。ありがとうございました」


「え? 別にお礼言われるようなことしてないけど」


「そうですか……」



ノア皇子はいつも無表情なので、謙遜なのか本気なのかわからない。

本当に不思議な皇子だ。



「ところで、ノア様は何故ここに?

男性の講習はもう始まっているのでは?」


「…………」



ノア皇子はその質問には答えずに、すぐ目の前にある図書室をジッと見ている。



「……この図書室の担当者、なにしてても怒らないんだ」


「……まさか、ここで講習をサボっているのですか?」


「たまにだよ」



そう言うと、ノア皇子は図書室の扉を開けた。



「……入らないの?」



まさか講習をサボっている皇子がいるとは考えたこともなかったので、ポカンと呆れている私に向かってノア皇子が言った。

悪びれている様子などは全くない。



この双子は……本当にどこまで自由人なんだろう……。



「……入ります」



とりあえず私は、当初の目的通り図書室の中へ入ることにした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ラブラブで良いですね……リア充爆発しろ?(毎回恒例) [一言] うわぁノア皇子がカッコいい!リディアなんてやめて(ごめん) 私にしない? とか言ったら不思議そうな顔でド正論言ってきそうだか…
[一言] ひぃ~。二人で並んで授業を受けるなんて!素敵~。 ルイード皇子ときどきやりますよね。ふっと見ると顔がめっちゃリディアに近いところに居る~。ふふふ。 リディアはルイード皇子見ているだけでド…
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