第5話 入隊
引き続き読んでいただき感謝致します。
今回も視点切り替えがありますので「◇ ◇ ◇」に注意を。
では、お楽しみください。
俺とキャシーは取調室を出て長い廊下を歩いていた。
「イテテテテ…、もうちょっと優しくできなかったのか?」
「自業自得じゃない。」
キャシーが立ち止まり、俺に向き直る。
「まずはこの世界が今どうなっているのか説明するわ。」
そしてキャシーは話し出した。
俺はなるべく聞き逃さないように、黙る。
異星人の存在は古の昔から常に存在していた。当時の人間達は宇宙の存在を知らなかったため異星人を神や悪魔、聖霊や幽霊などといった空想上の存在だと定義した。異星人が初めて人類に目を向けたのは第二次世界大戦中の原子爆弾の実験が成功したときだった。ただ彼等にとっては原子爆弾の開発は、人類がマッチを開発したのと同程度の価値にしかならなかった。
「原子爆弾がマッチと同等って…」
あまりのことに俺はつい口を挟んだ。
「異星人の科学技術は私達人類より遥かに進んでいるのよ。彼等が原子爆弾の理論を解明したのは最初の人類が初めて火を作った頃だと聞いているわ。」
ナニソレスゴイ
彼女は言葉を続ける。
冷戦時代、キューバ危機などの大事件が起こる中、人類の歴史上トンでもない事件が起こった。アメリカ合衆国で秘密裏に異星人類とのファーストコンタクトに成功。だが、アメリカ側の一部の人間が原因で友好的な反応を示さずに交戦が発生する。当時、様々なサブカルチャーによる異星人への先入観により『異星人は悪』という考え方が定着してしまっていた。科学技術の違いで苦戦した人類だったが、アメリカ側の数の有利を生かしたごり押しでなんとか撃退に成功する。事件は隠蔽され、『ソ連軍による電撃作戦の失敗』の記事が出回った。
異星人の死骸や装備は回収され研究が始まった。しかし彼等の科学技術があまりにも高く、解明は困難を極めた。
そんな時、新たな事件が起こった。ニューヨーク上空にて謎の飛行物体が出現。過去の戦いから考えて、アメリカ政府はこれを報復攻撃だろうと捉え、公式に空軍にスクランブル要請する。結果、謎の飛行物体は大した抵抗を見せずに敗走。またもや政府は異星人の存在を隠蔽し、謎の飛行物体をソ連軍が開発した新型の爆撃機だということにした。
けれども、僅かの国民はこれを政府の陰謀だと信じ、異星人の存在を認識始めた。
それから約一年後、ロンドン上空に多数の未確認飛行物体が飛来する。アメリカのUFOとは違い、地球の戦闘機と同サイズのUFOが威嚇飛行を繰り返す。膠着状態となったイギリス政府にUFO側から彼等は銀河共同星系連邦国家『ロフラスク連邦』を名乗り、会談の場を設けたいとの通信が入った。政府はその要請を受け入れ、地球と異星文明初の会談が行われた。会談の結果、連邦はEUを地球人類の代表組織と捉えて友好条約を締結。地球が星間国家として独立するまで経済支援及び文化交流を行うことを約束し、治安維持を名目にロフラスク連邦星間治安維持部隊XANMEX指導の元、地球に対異星文明特殊対策情報機関MEXを組織する。
現在、表向きアメリカが世界を引っ張っているよう情報統制されているが、実際はEUが最先端の科学技術と軍事力を誇っているのだ。
「…つまり私達が今所属しているのがMEXの日本支部ということ。」
「………」
あまりのスケールに俺は言葉を失う。
ということはナニか?
表向きアメリカが世界を引っ張っていることになっているが、実際はEUが一番ってこと?
「私達の主な仕事は日本国内にいる異星人犯罪集団と、不法移民異星人の取締りよ。」
ん?
「不法移民異星人?っていうことは…」
「察したそうね。そう。合法に日本に住んでいる異星人もいるってこと。」
やっぱり?
「なにも全ての異星人が悪ってわけじゃないわ。」
なるほどね。つまるところ、俺達は地球防衛軍ではなく警察官に近いものなのね。
「さて、ここまで聞いたことだけど。辞めるなら今よ。」
「辞めません。」
むしろますます入りたくなった。
こんな日常を俺は待っていたのだ。
「ホントに死ぬかもしれないのよ?あなたの帰りを待つ家族を考えたことあるの?」
「あぁ、その心配は大丈夫。俺の家族は海外だから。」
「だからって…」
「地球人類のためにこの身を捧げられるなら本望だよ。」
嘘だけどな。
「…もう私が何を言っても無駄のようね。わかったわ。MEXへようこそ。」
キャシーにも認められて俺はMEX日本支部の隊員になった。
そしてこれを期にキャシーの肩へ腕を廻す。
「さて、これから二人きりで親睦でも深めましょうかセンパイ。」
キャシーは無言で俺の手を捻って腕を掴み、壁に叩きつけて耳元にで囁く。
「私に触れていいのは好きな男だけよ。アンタみたいな変態には100年早い。」
「そんな~、俺達の仲じゃないかキャシー…ガッ!」
俺の手首掴んだキャシーの手の力が増す。
「『キャシー』なんて馴れ馴れしい。アンタを一任した瞬間から私がアンタの隊長よ。これからはイングラム隊長と呼びなさい。わかった?」
「は、はい。ワカリマシタァ…」
「よろしい。」
そして俺は解放され、イングラム隊長に向き直る。
「わかっていると思うけど、ここでのことは秘密にね。」
そうだ。
たとえ世界の裏でどんなことが起こっていようとも、人々の生活に変化はない。
異星人は存在しないとちゃんと情報統制されている。
おそらく地球が星間国家として独立したとき、初めて情報が開示されるだろうとは思うが、それは俺の問題ではない。
「じゃあ、俺達二人だけの秘密ということで…」
「怒るわよ?」
「了解しました隊長!」
「ウム。」
◇ ◇ ◇
ボクの名はルドルフ・マローン。MEX日本支部総司令代理だ。
わけあって日本支部の総司令が不在のためアメリカ本国からボクが代理として派遣された。
異星人の存在が認知されて数十年、世界の裏では絶え間ない地球と異星人による争いが繰り広げられていた。
実際、アメリカ本土での現状は日本よりも異星人絡みの事件が頻繁に起こっている。
早いところ日本支部の新司令を選出しなければな。
ボクだって故郷が恋しくなることもあるのだ。
本国と比べて日本は平和だ。
むしろ平和すぎるくらいだ。
そせいか、日本支部の隊員達の熟練度は温い。
仮に彼等がアメリカ支部へ派遣されれば、全滅は確実だろう。
司令官の選出だけでなく、隊員の戦力アップもしなければならないのは実に不便だと思う。
道のりは遠い。
唯一の救いは『彼女』だろう。
キャサリン・K・イングラム。EUのロンドン支部から派遣されてきたエリートだ。
イギリス人と日本人のハーフで、未だに高校生の身分でありながらも日本支部最高戦力として君臨するウチのエース。
とある理由で自ら日本支部への派遣を希望し、実力でトップに登りつめた実力者だ。
現状、彼女なしで日本支部の存続は不可能といえよう。
結論、今日本支部では重大な人手不足及び戦力不足にあっている。
それだけの理由でボクは享福夫の入隊を認めた。
正直、彼にはそこまで期待はしていない。
超能力を持っていると聞いたが、こちらが調べた情報と違い些細なものだった。
喧嘩らしい喧嘩も経験が無くド素人同然だ。
良くて囮か弾避け要員ぐらいにはなるだろう。
取り調べ中、何度も自分自身を何か特別な存在だと訴えていたが、実に胡散臭い。
年頃の日本人男子の虚言か何か?
経歴は至って普通。
海外在住の両親を持ち小さな家に一人暮らし。
至って普通の高校生。
たしか彼はイングラム君とは同じ学校の所属だったか?
精々頑張るんだな少年よ。
おつかれさまです。
少し凝った世界観ですが、どこかのタイミングで設定などの解説を致します。
次回もお楽しみに。