第4話 ジュなんとか条約
おつかれさまです。
今回も視点の切り替えがありますので、「◇ ◇ ◇」に注意を。
では今回もお楽しみあれ。
あの後、数台の黒塗りのトラックが周囲を包囲すように止まり、作業服姿の人間が大勢出てきた。
これはSF映画とかにでてくる情報の隠蔽を専門とする部隊か何かだろう。
遠目でキャシーが指揮官らしき人物と話しているのが見える。
彼女は立場上、彼等より上に位置するのか?
ますます彼女が欲しくなってきた。
キャシーが俺のヒロインになれば、俺は大勢の下僕を手に入れることができるのだ!
そうなれば俺は王様だ。
案外、守られ系主人公も悪くないかも。
しばらくすると俺も保護されたかと思いきや、いきなり小部屋に案内された。
窓なしで中央にテーブルとパイプイスが二つ、向かい側には大きな鏡。
取調室だ。さしずめ鏡はマジックミラーかな?
まるで刑事ドラマのワンシーンみたいだ。
おそらく俺は取り調べを受け、情報の黙秘を条件に元の生活に帰される流れになるのだろう。
そうはいくか!
こんなおいしいチャンスは滅多にない。
どうにかこの組織に入れるよう取り合わねば。
そうしたら事務職らしきオッサンが入ってきて俺の向かい側の席に座った。
俺の身を案じる会話から始まって、俺が何を見たのかの流れに入っていく。
ここまでは予想通り。
ここで俺がとるべき行動は、
「叫福夫、私立千零学園高等学校一年C組、帰宅部。リーダーに会わせろ。」
ジュなんとか条約の捕虜の義務っていうヤツのように、自分の名前と身分を言い続けボスに会わせるようひたすら訴え続ける。
◇ ◇ ◇
一息ついた私はマジックミラー越しに取調室を眺めていた。
取り調べが終わった後キョウは元の生活に戻されるだろう。
正直安心した。
別に彼には大した思い入れはないけれど一クラスメイトだし。
ところが彼は取り調べに応じようとはせずに自分の氏名、所属学年及び部活名、さらにはうちの司令官を呼び出すよう淡々と述べていた。
あまりのことに尋問係がキレて声を荒げるが、彼はそれを無視するように言葉を繰り返す。
これはもしかしなくてもアレよね?
ジュネーヴ条約にでてくる尋問中の捕虜の義務ってヤツ。
狙いは解っているけど、それって学生には必要だろうか?
かえって事態をややこしくするだけだと思う。
それに、司令を呼び出してどうするつもりかしら?
ただの馬鹿か、それとも何か考えがあるのか?
そしたら取調室の扉が開き、司令本人が登場。
『司令のルドルフ・マローンだ。私に話したいとのことだが?』
尋問係は立ち上がり、マローン司令と入れ代わるように取調室をあとにした。
すると今度はさっきまで非協力的な態度をとっていたキョウが突然叫び出す。
『話さない!見たもの口外しない!!バラさないッ!!!!』
ホントにどういうつもりよ。
◇ ◇ ◇
やっとボスっぽいヤツが出てきた。
黒髪茶目のイケメンお兄さんだ。
まずはコッチが従順だということを示さなければ。
「話さない!見たもの口外しない!!バラさなーいィ!!!!」
「…フム。キミの従順な意志が良く伝わったよ。」
よし!第一段階クリアだぜ!!
「怖かっただろうに。我々が責任を持ってキミを元の暮らしに戻すよう取り計らおう。」
なぬぅ!?冗談じゃない。
「バラす!喋る!!口外するぅ!!!!」
「…キミは一体何がしたいのかね?」
よし。ここで…。
「仲間にしろ。」
「ん?」
「俺を仲間にすりゃお前らの秘密は守られる。」
しゃーっ!俺カッコイイ!!
「取引…いや、この場合は脅迫のつもりなのかな?」
イケメンお兄さんが苦笑いをする。
まぁ、すんなり仲間に入れるとは思ってねーよ。
こっちには取引材料が三つもあるんだからな。
「こちら側にキミを引き入れるメリットはないと思うが。」
「あるぜ?」
「ほぅ?」
「俺は超能力者。」
「ウチにはキミよりも強い能力者が何人もいるんだが?」
ま、そりゃそうだろうね。
俺を『超能力者』と呼ぶんだ。
どうせ他にもいることは予想できる。
「俺を入れたら役に立つ部下が一人増えて、いずれ司令官の名が世界に轟くでしょう。」
「先の戦いでは何もできなかったと聞いたが?」
これでもダメかよ。
なら最後はとっておきのヤツだ。
「最後は、俺という存在だ。」
「…は?」
「俺がいれば全てうまくいく。俺がいれば勝つ。俺がいれば天下。俺が俺であり続けることで俺の名の下に『俺達』が絶対になる。」
「随分自分に自信があるようだけど、根拠は?」
「俺が未だに『俺』だからだ。」
「………」
舌噛まなくて良かったぁ~。
そういえば…。
「あと、」
「まだ何か?」
「イングラム嬢は俺に惚れてるんだ。俺が取り調べを受けてると知ったら飛んでくるだろう。」
「おもしろい話だが、冷静な彼女がここに現れるわけ…『ちょっと!』」
案の定キャシー登場。
ホントは俺に惚れてんだろ?
かわいいやつめ。
「…まさか本当に現れるとは。」
「うッ……し、失礼しました司令。」
「よろしい。そこまで言うなら君の入隊を認めよう。」
バンザーイ!!
「本気ですか司令!?コイツは…。」
「君の言いたいことは解っているつもりだが、ウチも人手不足だということもまた事実。」
最後の言葉は、イケメン司令官がキャシーの耳元で喋っていたため聞き取れなかった。
「あとのことはイングラム君に一任する。叫福夫くん、ようこそMEXへ。」
そう言って司令官様は出て行った。
俺は立ち上がりキャシーへ向き直る。
「…照れずにもっと正直にいようぜベイビィ…イッ!?」
俺の言葉が終わる前にキャシーが俺を壁に叩きつけた。
「アンタ、本当にどういうつもり?バカなの?マゾなの?遊びじゃないのよコレは!!」
「…俺は本気さ。こんなまたとないチャンスを逃すほど俺はバカじゃない。」
「どういう意味?」
「わからないかなぁ?ワクワクしたスリリングな日常。」
「ヘタしたら死ぬわよ?」
「死ぬほどつまらない日常を送るよりはマシさ。」
「イカレてる。」
「そうかな?」
しばらく睨み合いだ続いたため、キャシーの胸へと目を向けてみる。
それに気付いた彼女が思いっきり俺の股間を蹴り上げる。
「最低のクソバカね。」
俺は股間を押さえながら転がり回る。
「着いてきなさい。アンタが脚を踏み入れた世界を見せてあげるわ。」
床からキャシーを見上げながら俺は呟く。
「ヘヘッ……了解ッ。」
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次回もお楽しみに。