第3話 主人公
今日もお読みいただきありがとうございます。
今回も視点の変化がございますので「◇ ◇ ◇」に注意を。
「…あれは巨漢タイプ!」
突然現れた異星人に私は驚愕した。
情報ではサイン星系のザコ軍団が20体あまりだと聞かされていた。
でもまさかこんな用心棒が現れるとは思いもしなかった。
巨漢タイプは文字通り大柄で怪力な異星人にカテゴライズするタイプだ。
しかも見た感じ、コイツはザコ達とは種族が根本的に違うのがわかる。
まるで表面を岩に覆われたような皮膚をしていた。
おそらくワクイ星系あたりの異星人か何かだろうか?
こんなヤツじゃ並みの銃は頼りにならない。
私はすぐさま耳元の通信機に触れた。
「こちらイングラム。問題発生。ワクイ星系らしき巨漢タイプを確認。」
『ワクイ星系!?しかも巨漢とは……運がないですねぇ。』
通信機越しからオペレーターの青井樹が喋り出す。
「対象はゆっくりと此方に近づいてるわ。何か手はない?」
『そう言われましても…。銃は役に立ちませんし、逃げることもできないと思いますよ?』
そう。
逃げることはできない。
ワクイ星系の巨漢タイプは見た目の反して瞬発力も高いのだ。
逃げ出してもすぐに追いつかれる。
「どうにかここで倒すしか……って、アンタ何やってんのよ!?」
『どうしました?』
私が思案していると馬鹿が突然巨漢タイプ目掛けて走り出していた。
◇ ◇ ◇
「うおぉーーーーッ!!!!」
俺は今ラスボス異星人目掛けて駆けだしていた。
何故かって?
俺が主人公だからだ!
地球外生命体に拉致られる少年。
突如目覚める超能力。
イカすセクスィーなクラスメイト。
これだけの判断材料があれば馬鹿な俺でも気付くわ。
俺こそが選ばれし者だということを!
そして目の前にいるコイツは俺のかませ犬的なヤツに違いない。
俺はボス異星人と対峙した。
不思議と恐怖はない。
なぜならば俺が主人公だから。
俺は勝つ!
辺りを見回すとちょうどいいサイズの岩が目に入った。
さぁ集中だぁ!
この岩を持ち上げて異星人にぶつけるのをイメージ…。
くらえッ!
と、異星人に手のひらサイズの小石が当たる。
「あ…。」
俺はあまりのことに硬直した。
そして異星人が俺の目の前まで来て大きく腕を振りかぶった。
あ、俺死んだかも。
突如として衝撃を感じた。
異星人の腕は俺に当たらず、庇いに来たキャシーの背中に直撃。
俺とキャシーは二人共々吹き飛ばされるが、キャシーは体をくねらせて体制を立て直す。
俺はそんな運動神経などないため地面に激突。
すかさずボス異星人が迫ってくる。
キャシーはポケットから手のひらサイズの物体を異星人に投げつける。
眩い光が目の前を包みボス異星人が派手に地面を転げる。
あの物体はいわゆるスタングレネードだ。
キャシーは俺を担いでその場を離れる。
少し離れた物陰でキャシーが俺を壁に叩きつける。
「アンタどういうつもり!?」
あぁ…背中が痛い……。
「まさか何かの主人公になったつもりじゃないでしょうねぇ?」
――ギクッ。
さすがに言い逃れできないため俺は目を泳がしてみる。
「いい?今度邪魔したら足の骨折るからね!」
ま、そうだよな。
結局これはアニメや漫画じゃないんだ。
超能力持ってたって役に立たなければ宝の持ち腐れだ。
ついでに言うと俺はケンカもしたことないし、戦いのプロでもない。
ただの平凡な学生だ。
観念しておとなしくしよう。
「ごめん。これでけは信じて。必ず私がアンタを守るから。」
……うん。君に惚れたよ。
◇ ◇ ◇
とは言ったものの、これからどうすれば?
満身創痍な状態で手持ちの銃も役立たず。
スタングレネードもさっきので最後。
…ここは賭けに出るべきね。
「オペレーター聞こえますか?新型のSAP-04の使用許可を願います。」
『なっ!?何を言っているんですか!?アレはまだテストもしていない試作品ですよ!』
「問題ありません。目の前に丁度良いモルモットがありますので。」
『しかし、今更許可が下りるのは……『許可する。』ッ!!』
通信機の奥で別の声が聞こえた。
マローン司令の声だ。
「ありがとうございます。」
『どうなっても知りませんよ…。』
青井さんの声を最後に私は駆け出す。
「こっちよこの木偶の坊!」
私の呼びかけに気付いた巨漢タイプが追いかけてくる。
なるべく障害物の多い場所へ誘導しながらも私は小石を拾って投げる。
足止めにもならないと解りつつただ投げる。
そして突然土煙を上げながら巨漢タイプへ私が乗っていた深紅のバイク、
『クリムゾン・デューマー』が迫る。
恐らく青井さんが遠隔操作しているのだろう。
遂にクリムゾン・デューマーが巨漢タイプに体当たりする。
咄嗟のことで体制を崩す巨漢タイプだったが、クリムゾン・デューマーを持ち上げて私の方へ投げつける。
それを紙一重にジャンプしながらかわす。
「わざわざ私の元へ寄こすなんて、ありがたい。」
『格納スペース開きます。』
クリムゾン・デューマーの一部が変形しアタッシュケースサイズの物体が現れる。
私はその物体を手に取り変形させる。
すると、みるみるうちにライフルの形へと変わる。
私の行動に気付いた巨漢タイプが突進してくる。
だがもうおそい。
「展開完了。ターゲットロック。ファイアッ!!」
閃光と騒音と共に光の弾丸が巨漢タイプへ直撃する。
巨漢タイプが吹き飛ばされ地面を激しく転げまわった後、ゆっくりと立ち上がる。
「…これでもダメか。バケモノね。」
私はクリムゾン・デューマーの収納スペースからもう一つの物体、グラップリングフックを取り出し、建物の方へ駆け出す。
巨漢タイプは先ほどの威勢はどうなったのかヨロヨロと歩いてくる。
どうやら結構効いたようね。
『どうするんです?残弾数はあと一発ですよ?』
「わかってるわ。それよりも、ワクイ星系の異星人の人体構造は地球人類と大差ないのよね?」
『はい。怪力と瞬発力以外は我々地球人と同様の生体機能を持ち合わせています。』
「そう?だったらちょっと、やってみたいことがあるわ。」
建物を背にし、しばらくして巨漢タイプが私の目の前まで迫ってきた。
私の片手にはSAP-04、もう片方にはグラップリングフック。
体制を低くして、巨漢タイプの両足の間を潜り抜ける。
すぐさま背中に取り付いて建物目掛けてグラップリングフックを発射する。
私を振り下ろそうと巨大な腕が迫る。
それをかわしながらワイヤーを巨漢タイプの首に巻き付ける。
ついに巨漢タイプの巨大な手が私の腹部を掴み激痛が走る。
でも今度こそもうおそい。
片手でSAP-04を首に巻かれたワイヤーの少し上、つまり巨漢タイプの喉元へ銃口を当てる。
「GAME OVER。」
SAP-04が火を噴くと同時に私は巨漢タイプから吹き飛ばされる。
やはり弾丸発射時のリコイルは半端なかった。
巨漢タイプも首が『く』の字に曲がり、ワイヤーに繋がりながら壮大に倒れる。
即死だった。
「ミッション・コンプリート。回収班を寄こして。」
『了解しました。おつかれさまです。』
どうにか倒せた。
キョウも無事みたいだし、どうにかなったわ。
◇ ◇ ◇
物陰から戦いが終わったのを俺は眺めていた。
結局キャシーが一人で異星人を倒しちゃったよ。
そしてふと思った。
「……もしかして俺って、守られ系主人公ってヤツ?」
おつかれさまです。
キョウくん、守られ系主人公になっちゃいましたね~。
今後どうなることやら。
次回もお楽しみに!