第12話 マクケビン
おつかれさまです。
今回は主人公の一人称です。
では、お楽しみを。
――私立千零学園、とある日の昼休み
俺はこれから昼飯をとろうとしている。
いつもなら購買部で何か買って食べるのが普通だが、今日はちょっと違う。
目の前にあるのは弁当箱。それもただの弁当箱とは似ても似つかないほどの上品な見た目。
いざ開けて中身を見てみると、そこにはお節料理顔負けの豪華な食事があった。他の奴はどうか知らんが、俺はこんな豪華な弁当を食べたことはない。
そして向かい側に座っているのが、この弁当箱の持ち主の白雪桜月。俺の彼女。
普通なら、これからキャッキャウフフなカンジに弁当を食べるのだろうが、あいにく俺はこの間の起動実験に立ち会った身だ。
目の前の美少女の恐ろしさを知っているがため、俺は今無性に緊張している。周りを見てみれば、男女問わずに皆羨ましそうな視線と嫉妬心をこもった視線を向けてくる。
そんなに羨ましいなら、誰か代わってくれ!
誰でもいい!!俺を助けてぇ!!!!
俺の心の叫びをよそに、白雪桜月が俺に笑顔を向けてオカズを食べさせようとする。
これはアレか?『あーん』っていうヤツか?
食べるだけならいいが、仮にも不味かったらどうする?この手のヒロインは料理が不味いていうのが定番だ。
正直に言ったら俺は殺されるだろう。むしろ学園が吹っ飛ぶかもしれない。
なら、我慢してでも食べるか?
毒でも入っていたら俺だけが死ぬことになる。学園は無傷だ。
でもそれじゃあまりにも理不尽ではないか?
俺が一体何をした!?
あ、そういえば白雪桜月を騙そうとしたんだっけ・・・・。
うん。これが天罰なんだ・・・・。
イヤイヤイヤ、まだ不味いと決まったわけではない。もしかしたら美味しく・・・・。
「・・・・どうかしたのかフクオ?」
「ッ!!」
しまった、つい考え込んでしまった。
えぇい!こうなったら享福夫、突貫します!!
――パクッ。
うまっ?
「美味い!」
ナニコレ、マジウマッ!!
「そ、そうか?作った甲斐があったぞ。」
この子、最高じゃね?容姿は良く、成績やスポーツも抜群、おまけに料理もできるなんて。
チート能力さえ目を瞑れば、最高の嫁じゃん!
今更ながら、恋人になって良かったと思う俺であった。
――放課後
帰り道、俺の隣には桜月ちゃんがいた。今後は仲良く登下校する毎日が続くのだろう。
そしてこのまま晴れてゴールイン!生きてて良かった。
だが今日は違う。何故なら俺の反対側にはキャサリンが歩いていたのだから。
端から見れば、俺は現在両手に花の状態で俺達に対して様々な視線が送られているのが解る。
まさか俺と桜月ちゃんに対して嫉妬している・・・・なんてことはなく、ちゃんとしたMEX絡みの用事だった。
「・・・・それで何の御用でしょうか隊長?」
「別に今は作戦中じゃないから『隊長』って呼ばなくて良いのよ?」
「じゃあ、何の用かなキャサリン?」
途端、キャサリンは顔をムスッとする。
どうしたんだ?
「・・・・ま、『キャシー』よりはいっか。」
「はい?」
「何でもない!」
いきなり怒鳴られた。
なんなんだ一体?まさか本当に嫉妬心か?
「今日アンタに相談したいのは、アンタの装備について。」
「装備?」
例の自衛隊から支給されたヤツの?
「表面上、MEXは自衛隊と協力関係にあるけれど、いつまでも装備品を支給するのは期待できないと考えた方がいいわ。」
表面上ね。なんか自衛隊とMEXに妙な確執があるような言い方だが、今は黙っておこう。
「それに今MEXは金銭的にも貧しい状態で、わざわざMEX総本部から発注する事もできない。」
MEX総本部とはEUにあるロンドン支部のことだ。
「だったらどうする?俺に生身で異星人と戦えと??」
そんなことになったら今度こそ俺は死ぬだろう。それは流石に勘弁してほしい。
「だから、こんな時のために裏社会に精通している、闇市場を利用するしかないわ。」
「闇市場?」
なんか雲行きが怪しくなってきたような?
「現在、うちと協力関係にある情報屋が小さな闇市場を経営しているの。今回は彼に相談するわ。」
闇市場の次は情報屋か。本格的に裏社会ってカンジだな。
「それで?俺も一緒に来いと?」
「あたりまえじゃない。もしもの時は頼りになる人だから、会った方がいいわよ。」
これで俺も裏社会の一員ってか?
おもしろい。会ってやろうじゃないか!
「ワタシも行っていいか?」
さっきから静かだった桜月ちゃんが口を開く。
「…そうね。サツキさんも会った方が今後の為にもなるし。」
そうして俺達は三人でその情報屋のところへと向かう。
「そういえば、なんで桜月ちゃんは下の名前で呼ぶのに、俺は名字なんだ?」
「『キョウ』のほうが呼びやすいから。」
「あ、そっ…。」
――千零区、商店街
「・・・・なぁ、本当にここか?」
「えぇ。ここで間違いないわ。」
「ただの家具屋じゃないか。」
俺達は現在、商店街の一角にある家具屋の前にいた。
この家具屋は名を『MKホームズ』といって、俺自身何度かお世話になっていた。店長は気さくなアメリカ人のオッサンで、近所でも割と人気な人だ。
ここがその闇市場だったなんて、俄には信じられない。キャサリンが店内に入っていくのを見て、俺と桜月ちゃんがあとに続く。
店の奥まで入ると、奥から渋めの白人のオッサンが出てきた。
「いらっしゃいませ。店長のマクケビンです。」
このオッサンが人気の店長だ。俺を初めとした皆は気軽に『マクケビンおじさん』と呼ぶ。
「おやおや、お得意様のイングラムさんじゃないですか!」
「久方ぶりね?マクケビン。」
どうやら二人は面識があるようだ。驚かないけど。
「・・・・アナタがここに来たということは、もしや?」
「えぇ。奥の部屋をお願い。」
「畏まりました。少々お待ちください。」
マクケビンおじさんは店を閉めて、俺達を小さなエレベーターに案内した。
俺達のエレベーターに乗り、が降下していく。そして一分以上が経つ。
やっとのことでエレベーターの扉が開くと、そこは見慣れた家具屋……ではなかった。そこは大量の箱が立ち並ぶ倉庫みたいな部屋だった。
「こちらへどうぞ。」
マクケビンおじさんに案内されて、俺達は小さなオフィスへと行き着く。大きなソファーがあったので、俺達はそこに座る。
もちろん、俺が真ん中。
向かい側にはテーブルを挟んでマクケビンおじさんが座る。いつの間に着替えたのか、おじさんは黒のレザージャケットを着込んでいて、サングラスをかけていた。
「さて、ビジネスの話をしましょうか?」
この時俺は直感した。
目の前にいるのは気さくなマクケビンおじさんではない。裏社会の情報屋マクケビンだ。
彼の雰囲気が全てを物語っている。
「単刀直入に言うわ。私達は装備がほしい。」
キャサリンが切り出す。
「そちらのキョウ君専用の装備ですね?」
「相変わらず耳が早いわね。」
「職業柄当然ですよ?」
流石は情報屋。
俺達の目的を知っていたか。マクケビンは突然立ち上がり、部屋を出て行く。俺達もあとに続く。
しばらくすると大広間へと到着し、目の前には以前見た『クロップ』とは違う強化外装が立て掛けてあった。ゴツい見た目だった『クロップ』とは違い、コイツはスリムな見た目だった。
防御力があまりなさそうに見えるが、その姿形はどこか生物もしくは昆虫を思わせた。
「どうです?あなた方が所有していた『クロップ』ほどの防御力はありませんが、その分スピード感と瞬発力を持ち合わせています。動力源も念動力量ではなく、装着者の体温を利用しますので、使い勝手はいい方だと思いますが?」
コイツ、俺が超能力者だということもお見通しか。もうなんでもアリだなこのオッサン。
「・・・・たしかに使えそうね。ボディーが結構真新しそうに見えるのは気のせいかしら?」
「気のせいでしょう。これはこう見えて旧式なのだから。」
マジか。これで旧式とは驚きだ。
いや、まてよ?本当に旧式なのか??
「まさかとは思うけど、試作機をEUから密輸、もしくは盗んだとか言わないでしょうね?」
「・・・・イングラム様、それは聞かない約束ですよ?」
そうか。
闇市場を経営しているんだ、後ろめたい事情があるのかもしれない。だが俺達はそんな事情を無視しなければいけないほど懐が小さい状態だ。
どうするキャサリン?
「・・・・そうね。私の一存でアナタに手を出したら、私が怒られるもの。見なかったことにするわ。」
「ご理解頂けて光栄です。」
まぁ、こうなるよな。キャサリンも残念そうな表情をしていた。
「どうしますか?うちの『マンバ』買います?」
この強化外装は『マンバ』という名前なのか。なんか蛇っぽい響きだな。
「貰うわ。今回は何をすれば?」
「『何をすれば?』とはどういうことだ?」
疑問に思ったのか突然桜月ちゃんが挟む。
「今の私達じゃ金を払う余裕がないの。だからかわりに、マクケビンから仕事を頼まれることになるわ。」
「そんな。」
「ご名答です。」
キャサリンの説明に桜月ちゃんが驚愕し、マクケビンが同意する。その『仕事』ってのはなんなんだ?
ま、まさか!?
もしかしなくてもアダルティーでエッチな仕事か!?!?
「・・・・キョウ君、君が思っているような仕事ではないからね?」
赤面した俺の表情で考えを読みとったのか、マクケビンが呆れた表情をする。横を見ると女性陣が俺に軽蔑の眼差しを向ける。
「『アキハバラ』」
「ッ!」
マクケビンの一言でキャサリンが驚愕する。ってか、『アキハバラ』ってあの秋葉原??
「アキハバラ・バトル・スタジアム。これに参加して貰いますよ?」
お読みいただき、感謝致します。
次回もお楽しみに。




