第1話 日常の終わり
一話目です。
それではお楽しみください。
白い砂浜。快晴の空。真夏のパラダイス。
『ウフフフフッ…アハハハハッ……コッチマデオイデ~。』
そんなシチュエーションに意中のあの子が俺を呼ぶ。
『ハハハッ…コラ~……マテ~。』
俺は彼女を追いかけながらひたすら走る。
まさに夢のような出来事だがそれもそのはず。
これは俺の夢の世界なのだから。
俺はこの夢を毎晩見るのを楽しみにしているのだ。
だが、
――ジリリリリッ……
目覚ましの音が聞こえるということはもう朝になったということ。
もっと夢の世界に浸りたいのに、俺は目覚ましの音で目を覚ます。
うがいをして朝食をとり、準備ができたら学校へGO!
といってもそこまでのテンションはない。
申し遅れたが俺はこの物語の主人公の享福夫だ。
今日もいつものように平凡でゆったりした通学をする。
時折挨拶しながら校門を過ぎ去って教室へ到着。
ここで一つ説明しよう。
知っている奴も多いが、学校にはクラス内に生徒間の人気の度合いを表す序列といったスクールカースト的なシステムが自然発生する。もちろんウチも例外ではない。
俺のポジションはクラス内の変人枠に位置しており、陰キャ一歩手前な存在だ。
…もしくは既に陰キャかもしれないが、この際どうでも良い。
俺には近しい友人はおらず、他者からもあまり声もかからない。
その理由は今年の初めの頃に転校してきて未だにクラスに馴染めてないということだ。
まぁ、俺が積極的に交流しなかったのが最大の原因なんだが…。
そんなこんなんで今日も窓際席に座り、誰にも邪魔されずにUFO探しができるわけだが。
都合よく目の前を謎の飛行物体の影が通過するが、気のせいだろう。
今日も相変わらず平和な一日だ♡
授業も順調に進んで昼休みになる。
ふと話し声が聞こえたので目線だけを動かす。
人だかりができており、その中心には黒髪ロングで学年一の美少女、白雪桜月ちゃんがいた。
彼女は俺とほぼ同じタイミングで転校してきた。
さすがにその時は縁を感じて気軽に話しかけようとしたが、その美貌と可愛さのせいか瞬く間に人の波に遮られた。
彼女は俺よりも積極的に周りと交流し、その結果クラスの人気者となった。
普段はクールで気難しいところがあるが、他者に対して優しく正義感のある性格で、成績も優秀そしてスポーツも万能だ。更に付け加えると陸上部のエースと噂になっているとのこと。
結構タイプだったのに俺の手の届かない存在になっていった。
実に残念だ。
「…何を見ているのですか?キョウ。」
そんなときに俺に声をかけてくる変わり者は生徒会のキャサリン・K・イングラムだ。
彼女はいわゆる帰国子女で、日本人とイギリス人の間に生まれたハーフである。
そのため容姿はかなり整っており、炎のような赤毛のショートヘアにポニーテールがチャームの美少女だ。
「また俺に会いに来るなんてうれしいねぇ~。」
「茶化さないでください。今回もちゃんとした業務です。」
別に幼なじみであるわけじゃないのに、俺とこうして会話をする日々が続いていた。
でも悪い気はしない。
なぜなら彼女は学園の中でも割とボン・キュッ・ボンな体系をしているのだ。
そこまでタイプではないが、目の拠り所には丁度良い。
案外俺に惚れているのでは?とも思ったが、生徒会副会長との噂も耳にしているのでそれはないだろう。
「…俺に惚れてるんなら素直に言ってもいいんだよぉ?」
「そんなことより、あなた最近頭痛にあいませんでしたか?」
無視かよ。ってか頭痛って…。
「…ベツニアリマセンヨー?」
「真面目に答えてください!」
「そんなに心配なら付きっきりで看病でもしてくれるぅ?」
「それは…。」
なんかいいよね、こういうの。
女性を困らせながら口説き落とすみたいなの。
「それはセクハラ発言と捉えても良いということかな?」
別の声が聞こえたので振り向く。
廊下から一人の長身な男子生徒が入ってくる。
「イズミウラ副会長!」
イングラム嬢が安泰した顔をする。
うん。完全に惚れてるねコレ。
生徒会副会長泉浦陸。
学園一のイケメンで成績優秀のモテモテキング。
イングラム嬢をからかうと必ずやってくる白馬の王子様的な存在。
「これはこれは。天下の生徒会副会長様じゃないですかぁ。」
俺の発言で泉浦がメガネをクイッと上げる。
「享福夫といったか。先程の発言はどういうことかな?返答次第じゃタダでは済まさないぞ?」
「ただの世間話っすよ。ガールフレンドとの時間を邪魔されて嫉妬ですかぁ?」
「貴様っ!」
「なんすかぁ?」
――ガラッ!
突然廊下扉が開いて担任の雪岡先生登場!
「全員着席!今から抜き打ちテストをするぞぉ!」
泉浦は苦虫を噛みしめた表情をし、イングラム嬢を連れて教室を後にする。
去り際、イングラム嬢が俺の方を向いたので軽くウィンクしてみたが無視される。
教室は静まり返り、皆テストに励んでいた。
だが俺はイングラム嬢が言っていた『頭痛』について思案を巡らしていた。
確かに数日前から偏頭痛っぽいのを感じていたがあまり気にもしなかった。
所詮はただの偏頭痛だろうと。
そしてふと思い出すのはあのムカつく泉浦の顔だ。
俺とイングラム嬢の桃色フィールドを邪魔しやがって。
アンタはイングラム嬢の恋人かっつーの!
いっそのこと、
『悪いな副会長よぉ、俺達付き合ってんだ!』
『バ、バカなッ!』
『いままで黙っていてごめんなさい。私の心はフクオ様のものよ!』
『そ、そんな!イングラムさん!!』
『そういうわけだ。邪魔なお前は失せろ!!』
『うわーん!死んでやるぅ!!』
……なーんて展開にならないかなぁ?
そんな妄想をしてうっかり消しゴムを落とす俺。
ヤベッ!
そしてあり得ないことが起きた。
落下中の消しゴムに手を伸ばした瞬間、消しゴムが急カーブして俺の手に飛んできた。それを問題なくキャッチした俺。
ほぇ?
目の錯覚か?
妄想か?
風のせいか?
世にも珍しい重力の変動??
頭の中真っ白になった俺はテストどころではなくなり、放課後残ることになった。
とりあえずただの妄想だと思うことにして帰路につく。
いつもは下校する学生の姿が周りにいて車の音や猫の鳴き声がするのに、
なんでだろう?
今日はやけに静かだ。
つーか、俺、一人っきりじゃね?
いやまて。
足音が段々と近づいてきて…。
俺の意識がそこで途切れた。
こうして俺がかつて信じていた日常が終わりを告げた。
いかがでしたか?
といっても、ありがちな一話目ですが気に入りましたらご評価ください。