1話
「ユリア誕生日おめでとう」
満面の笑みを浮かべた両親と屋敷の使用人たちに祝われ、私ーユリアーナ・グレンフィディックーは6歳の誕生日を迎えた。
「ありがとうございます」
まだ舌足らずにそう言えば、周りの大人たちは一層笑みを深める。
煌びやかに飾られた屋敷はいつもと違う空間に見えて、ドレスにも、料理にも楽しさが溢れていた。
そんな全てが嬉しくて、お父様に抱きつく。
普段は公爵家令嬢として教育され、普通の親子のようなスキンシップは中々とらない為、少し驚いた顔をされてしまった。
けれど、お父様はすぐに優しい笑みに変わり抱き上げてくださる。
お母様はその側で生まれたばかりの弟を抱え微笑んでいた。
私の誕生日の少し前、跡取りとなる弟も生まれ、グレンフィディック家は幸せの絶頂の最中にあった。
そして、それは私自身の幸せの絶頂期でもあった。
その晩に、婚約の話を聞かされるまでは。
「こん…やく…しゃ?」
「ああ、まだ早いかとは思ったのだがな。なんと、国王様から内々に王太子様とのご婚約のお話を頂いてな。」
名誉な事だと微笑むお父様とは反対に私の顔色は青褪めていった。
理由は簡単。
私は何故か、王太子様に酷く嫌われている。
宰相の娘であり、この国中枢に関わる者の一族として何度かご挨拶をした時も…
「あの女の娘だろう。近づくな。」
「お母様が教えてくださった。お前ら母娘は俺の王位を狙っているのだろう。」
初めて会った時から、初対面にも関わらずこの言われよう。
あの、王太子様に会わなければならないなんて、増してや婚約者など…
その夜、私は誕生日パーティーではしゃぎ過ぎた事と婚約のショックとが重なり、高熱を出して倒れた。
お母様や使用人たちの心配する声が、どこか遠く聞こえる。
熱の怠さと凍えるような寒気の中、突然頭の中にある情景が流れ込んできた。
大量の本に囲まれた、見覚えのある薄暗い部屋で何やら光る画面を必死に見てはコントローラーを操作する一人の女。
「前世の…私…?」
画面を覗き込めば、そこには今の私、ユリアーナ・グレンフィディックの姿が映っていた。
ただし、6歳のユリアーナではなく、少し成長した16歳の姿で。
段々と記憶のはっきりする中、画面の物語は進んでいく。
「よし、王太子攻略完了っと」
そんな呟きと共に、画面には婚約破棄を言い捨てる王太子がいた。
ゲームの、高飛車なユリアーナ・グレンフィディックの最後。
こうして私は、今世がゲームの悪役令嬢である事を知った。