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あの日の夕子  作者: かろりんぺ
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 本のようなノートに書かれた暗号はまったく意味が分からなかった。でも『はくちょう座』と書かれていたことは何かのつながりがあるんだろうと思う。怪談で話していた白鳥のネックレス。ノートに整理してみよう。

 夕子は『宝探し』ノートに記入していった。

・空洞で見つけたノートに『はくちょう座』と書いていた。

・プレゼントがあると書いていた。

・怪談で『白鳥のネックレス』と言っていた。湯来山だと思う。

・おとうととおなじばしょでまっている、が分からない。

・書いた人は男で、女に書いた文か?


 う~ん。弟なのかなあ。これを書いた人の弟? 

 ちょっとはくちょう座について調べてみるか。

 夕子は居間に降り、おしゃべりしているお母さんとお姉ちゃんに聞いてみた。

「はくちょう座って知ってる?」

「え? はくちょう座? 星座? わかんないよ」

 そう言ってまたおしゃべりに戻った。だめだな。お父さんに聞こうかな。

 でも、なんかお父さんに聞いても同じ答えが返ってくる気がした。今までお父さんが星のことについてなにか言っていた記憶がない。

 また図書館か……。お昼を食べてからにするか。


 お昼過ぎの図書館はわりかし空いていた。べつに混んでいてもかまわなかった。そして今度は子供コーナーで星座の本を探した。すぐに見つかる。

 何冊かあった。全部角がこすれて、その一冊はガムテープで補修してあった。適当に五冊抜き出し、机の上に置いた。

 『星座を探そう』と書かれた、星のイラストの本を開く。目次を見る。はくちょう座……、はくちょう座……。

 春の星座、夏の星座……。お。

 とてもわかりやすい目次だ。はくちょう座と書いてある。14ページ、14ページ……と。

 14ページには『夏の大三角』と、見たことのある文字が書いてあった。


『夏の大三角は、はくちょう座、わし座、こと座の3つの星を結ぶ三角形。七夕において、わし座がひこ星、こと座がおり姫。そうです。天の川が有名ですね』


 き……た……。つながった……。

 たしか湯来山から見た天の川がきれいだと、歴史の本に書いてあったはずだ。ということは、男と女が湯来山から天の川、つまりはくちょう座を眺めたということなのではないか。

 だが、天の川は夏。今は秋。湯来山からは今の季節にはくちょう座を眺めることはできない。う~ん。また行き詰ってしまった。でも、収穫はあった。

 夕子は星座の本五冊を借りることにした。ついでに漫画本五冊も借りておく。



 

 会社を終え、真っ暗な空の中帰宅する。もしかしたら雨が降るかもしれない。高いビルや民家の明かりのその上、夜空には星ひとつ見当たらなかった。

 誰もいない部屋は寒いというよりは冷たかった。でもまだエアコンをつけるというほどでもない。

 帰宅の途中に寄ったコンビニで夕子はフルーツ味のキャンディーを買った。部屋着に着替え、見るともないテレビをつけ、キャンディーを一つ無造作に取り出し口に入れる。

 だめか。

 メロン味だった。残念でさみしい気持ちになった。なぜだろう。あのころはみかん味じゃないからといってこんな気持ちにはならなかった。

 冷蔵庫から缶チューハイを一本取り出す。グレープフルーツサワー。最初はオレンジサワーだったのに……。だんだんと好みも変わってきた。

 久しぶりに思い出したことだった。小学4年生のあの出来事。はっきりとあの姿、形、手触りを思い出すことができる。でもあれはもしかしたら夢だったのではないか。思い出すたびにそんなことを考える。

 しばらく実家に帰ってないなあ……。

 父と母とはたまに連絡を取っている。ミロの子供も元気に暮らしているそうだ。

 もしかしたら、もしかしたら。

 星を見ようとカーテンを開ける。当然、星ひとつない夜空があるだけだった。


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