邂逅 3
「おはよ」
眠れない少女が、一層眠れなくなる缶コーヒーを手にしたまま声をかけると、少年は「おはようございます」と丁寧な言葉で呟いた。俯きがちな視線を新聞受けに向け、さっさと前かごから取り出した新聞を一部突っ込む。まるで、二日前の脅迫文句など忘れてしまったようなその姿を、缶を持った指を軽く振りながら少女は眺めていた。
「あんた、中学何年?」
紙から手を離し、彼はようやく首を曲げて彼女を視界に捉えた。
「中三です」
ぽつりと落とされる言葉に、少女は納得して頷く。彼は細身で痩せているが、今年で十五歳だと言われれば、確かにそれ以上にも以下にも見えない。
「じゃあ、私の二つ下なんだ」
ほんの一瞬だけ、暗い瞳が少女の目を見る。見つめる、というような時間などない、確認するように向けただけだ。
「高校生、なんですか」
「そうよ。私のこといくつだと思ってんの」
責めたつもりなど彼女にはなかったが、彼は上げかけた視線を再び外してしまった。
「考えたことなくって……」
ハンドルを握り締める彼が、ごめんなさいと呟いた理由が少女にはわからなかった。
致命的に会話のキャッチボールが下手な奴だ。人の目すら見やしないで。少女は中身を飲み干した空き缶で軽く塀を叩いた。自転車の軋む音はすぐに聞こえなくなり、時間をかけてようやく手を伸ばした朝日のせいで、夜霧は少しだけ白く染まり始めていた。