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のんびりした感じの小説

神の見えざる手

作者: オリンポス

専門用語とかあって、読みにくいかもしれません。

なるべく減らしたつもりですが、お楽しみいただければ嬉しいです!

1.


 僕にとって、人とは道具だった。

 成功するための道具。


 他人は、僕に利用されるために存在しているし。

 僕は、他人を利用するために存在しているのだ。


 だから友人から上場企業を立ち上げると聞いたときも、僕はムヤミヤタラに出資するつもりはなかった。資本金はどの程度あるのか、社員数はどれくらいか、会社の経営方針は大丈夫か、将来性は……と様々なことに頭をめぐらせてから決めるのだ。


「お前が株の占有率を半数近く保ってくれるから、俺も助かるよ」

 ある日、友人にそんなことを言われた。

 新進気鋭の株式会社では、提携してくれる相手先が見つからないのだろう。


 通常の企業では、株式持合いを行う。


 僕とその友人は、簡素なカフェにいた。

 そこの喫煙室には副流煙が充満していて、室内が白くにごって見えた。


「じゃあなんだ? 株主総会の議決権は僕にあるって言うのか?」

 もしそうなったら、会社の経営方針からなにから、すべて僕が裏で操ることになる。

 しかも、ほぼノーリスクで、ハイリターンだ。


 そうタバコの灰を受け皿に落とす。

 うずたかく積まれた包み紙が白と黒の粉に染まる。


 順当に利益を上げていければ、配当金の支給が始まるだろう。

 ただ株券を持っているだけで、お金が手に入るのだ。

 それに株主優待も合わせれば、まさに濡れ手で粟だ。


 会社が左前になっても、株価が下落する直前に売りに出せばいいし、そのまま凍結させてもいい。

 株主は、例え会社を倒産させても、その責任を負う義務はないのだから。


「ああ、個人投資家としても名を馳せたお前になら、一任できると思ったんだ」

「そうか。そういうことなら引き受けるよ」

「本当か? じゃあよろしく頼むよ」


 僕は表情では満面の笑みを浮かべて、腹の中ではどす黒く笑った。

 筆頭株主か。この権利は悪くない。

 だが、もっと面白い使い方をしてやるよ。


 もみ消したタバコの火が、ニコチンの山に灰を落とした。


 僕にとって、人とは道具だ。

 成功するための道具。

 現在の総株式保有率、51%




2.


「なに、筆頭株主にしてくれるって本当か?」

「ああ、悪くない話だろう?」


 僕は個人投資家のAに電話をかけていた。

 左手からタバコのにおいが漂う。


「だがそういうのは、企業同士が提携して、過半数の株券を保有しているはずじゃないのか?」

「上場したばかりの企業は信頼が薄い。よっぽどの資本金や伝手がない限り、協力は得られないさ」


 僕は無意識にタバコのふたを開ける。

 包み紙を取り出そうとして、片手がふさがっていることに気付いた。

 いっそのことBluetoothを使って、ハンズフリーにしてしまおうかと考えしまう。


「だったら、その友人の信用まで売ることになるぜ?」

「ふん、信用なんか金で買えるだろ」


 ノートパソコンの液晶に目を転じると、日経平均株価のリアルチャートが表示されていた。

 今月はOPEC総会もある。この案件にばかり手を焼いてはいられなかった。


 携帯電話を持つ手が震える。


「お前のその頭脳は悪魔の産物だな」

「そうか。誉め言葉として受け取っておくよ」


 そう日本経済新聞に目を落とす。

 米中相互の経済制裁。

 それに伴う世界経済の動きも調べておく必要があるな。


 僕の頭の中では、すでにべつの思考が始まっていた。


「その権利、買った!」

 鼻息を荒くしてAは名乗りを上げた。

「よし、売った!」

 僕は日経新聞を丸めて膝を叩いた。


 こうして株式・信用取引は終わった。




 僕にとって、人とは道具だ。

 成功するための道具。

 現在の総株式保有率、46%




 売却した株式は全体のわずか5%

 そう簡単に、筆頭株主の座を明け渡すつもりはない。

 同じことを、個人投資家B,Cにも行った。


 現在の株式保有率、36%

 さあ、ここからが本番だ。




3.


「悪い。前回売った株券だけでは、お前を筆頭株主にすることは出来なくなった」

「はあ、どういうことだよ。説明しろ!」

「例の会社が新たに株券を発行したせいで、その権利が外資に移譲されたんだ」

「畜生。いくらだ。いくら払えばいい?」


 電話越しに個人投資家Aはため息をもらした。

 いくら、だと?

 こいつには僕の作戦が見えているのだろうか。


「どうせそれもあんたの想像の範疇だろうよ」

「ハハ、まさか。そんなはずがないだろ」


 あわててタバコを吸うと、目のあたりに熱さを感じた。

 僕はさきっぽの灰を落としてから、水の入った缶コーヒーに包み紙を投入する。

 ジュッと小さく音がして、煙が消えた。


「単刀直入に言わせてくれ。あんたの狙いは何だ?」

「僕の狙いか? それは大金持ちになることだ。そのためには何だって利用する」

「あのことを、まだ、気にしているのか」

「ハハ、まさか。そんなことは忘れたよ」


 うっかり失念していた。

 個人投資家Aは、僕の父親が自殺した理由を知っている。


 建設会社の社長候補だった親父は、僕が子どものころに、3代目の社長として就任を果たした。


 一級建築士の資格を有する親父は有望で、若くしてその辣腕を振るっていたのだが、あるとき、前社長の汚職事件が明るみに出てしまった。社長というポストにあったため、その全責任を取らされた親父は、間もなく、自宅のガレージで首を吊ってしまったのだ。


 しかし、この一連の事件は仕組まれたものだと、残った社員から聞いた。

 前社長は、親父を嵌めるために、その役職を退いたのだと。

 それ以来、僕は人間不信に陥ってしまった。

 それは今でも継続中だが、その残った社員の息子が個人投資家Aなのだ。


「もしも悩みがあるんだったら、相談に乗るぜ?」

「いいんだよ、そんなことは。放っておいてくれよ」

 そう怒鳴ってから、冷静になって続ける。

「それよりも商談だ。市場に出回っている株を集められるだけ集めてみた。そうしたら例の筆頭株主よりも多くの株式が手に入ったんだ」


「そうか。うんうん、大体読めた。お前のやろうとしていることが」

 個人投資家Aは、うんうんと電話越しに頷いているようだった。

「つまり、こういうことだろ」

 よどみなく話し始めるその声音は、確信に満ちたものだった。


「あんたは俺のほかにも、複数の個人投資家に同じような商談を持ち掛けている」

「なぜそう思った?」


「最初は、筆頭株主の権利が()()に移譲されたと、まるで相手が企業みたいな言い方をしていただろ。だけど次の言い方だと、()()()()()()になっている。まるで相手が個人であると特定できているかのようだ」

「それは言葉のあやだ。こじつければどうとでも解釈できる」


「だけど、ほかにも個人投資家がいると考えるには十分すぎる条件だ」

「だったらどうしたって言うんだ?」

「そうなれば、事後の行動は明白だ。俺を含めた個人投資家に、このままでは筆頭株主の権利が損なわれる、もっと買うべきだと吹聴して、俺たちからのさらなる出資をつのる」


 手のひらにじんわりと汗がにじみ出てきた。


「そうやって競売方式で値段を吊り上げていって、俺たちから金を巻き上げるつもりだったんだろ」


 僕は何も言わない。


「個人投資家は責任を負わないからな。友人から任されていた筆頭株主の権利であっても平気で売れるよな」

「僕は、悪くない。悪いのは社会だ。父さんだって」


「それとこれとは、話が別だろ。よくわかった。次の株主総会までにこの権利は返すつもりだったけど、こんなもの今すぐに返してやる。買え!」


「いやだ。僕は大金持ちになる。そうしないと、また父さんみたいに……」

「信用は金で買えるかもしれないけど、信頼は金じゃあ買えないんだぞ。今ならまだ間に合う」




 僕にとって、人とは道具だ。

 成功するための道具。

 なのに、なんでこんな悲しい気持ちになるんだ?




「あんたが一番、わかっていることじゃないのか?」




4.


「会社の経営方針についてなんだが、グリーン活動を取り入れてみてはどうだろう。これからは未来の地球にも投資をして、より住みやすい社会を作っていくべきだと思うんだ。自然が豊かで、みんなが安心して過ごせるような……」


 僕にとって、人とは道具だ。

 それは株主総会で意見を発表している今でも変わらない。

 この世界の人々は、この世界を動かしていく、大切な歯車どうぐなんだ。

あー、小説書きたい!

毎日書きたい!

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