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第九十話 連絡船の闇。

 浮遊島の間を往復する連絡船は、魔力を動力とし、空を飛ぶことが出来る帆船のようなものだった。そう言えば、この町に来た時に乗ったタクシーも、魔力を動力としてるって言ってたな。


 火の領域なんて言うから火力で動いているのかと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。


 さすが王都への直通便が発着しているだけあり、ムキチョウステイションはかなり大規模な駅? 港? だった。まぁ「ステイション」と言ってるんだから駅なんだろうな。


 ……待てよ。という事は。このステイションを駅とするならば。


 ムキチョウステイション=ムキチョウ駅。


 なんだろう。口に出した時の、このなんかちょっといやな感じ。永遠に自由を奪われちゃいそうな感じ。まぁ気のせいなんだろうけど。


 王都行きの船は既に乗り場に停泊していた。豪華客船の十分の一スケールモデルといった雰囲気の、小ぶりだが豪華感満載の船。「マティック⇔ムキチョウ」の表示板が付けられていた。王都の名前は「マティック」と言うらしい。王都マティック。なんか色々と便利そうな名前だ。


 船に乗り込むと、俺達は最上階にあるゴージャスな客室に案内された。この船のチケットも、あのホテルの支配人に取ってもらったんでこうなったんだろうな。


 モエはもちろんこんな客室には入った事がないらしかったが、プライドが高い彼女は「こんなのたいした事ないわよ顔」をしている。しかしやっぱり、ついきょろきょろと室内を見回してしまっていた。


 強がってはいるが、モエの美貌がだんだんと通用しなくなっているのは俺の目から見ても明らかだった。


 「村一番の美人」が、ムキチョウに来れば「アイドルグループの一人」くらいになり、この船では既に「平均レベル」くらいの扱いに変わっていた。と言っても俺からすれば全部同じ顔なんだけどね。


 同じ顔とは言え、その中でも個性や美醜はあるらしかったし、その方向性はかなり統一性があるようだった。


 俺から見れば同じ顔に見えるAとBがいたとして、火の民の目から見ればAの方が美人だという場合、100人が100人、Aを美人だと言う。ちゃんと見分けもついているし、共通認識としての美的感覚もあるということだ。うーん、わからん。


 すっかり「平均」になってしまったモエは、しかしそのプライドだけは失わず、美人然として過ごしていた。さすがハートが強いな。






「王都に着くまでまだ時間もあるみたいだし、デッキに出てみようか」


 暇をもてあました俺が声をかけると、シェリーがぱっと顔を輝かせた。


「うん!」


 昨日のホテルといいこの客室といい、豪華な部屋ってのは居心地いいものなんだけどさ、慣れてないってのもあって、長くいると息が詰まりそうになるんだよな。あー貧乏性な俺。


「……私も行くわ」


 セレンも立ち上がった。


「私はここで結構です」


 モエはソファに座ったままそう言った。まぁ、人が大勢いるところには出たくないんだろうな。






 デッキは日当たりがよく、とても涼しい風が吹いていた。この船は空中を移動しているわけだから、落ちたら大変なんだけど、デッキを囲う柵はかなり低く、心許ない感じがした。高所恐怖症の俺としては、そこに近づくことを考えただけで足がすくむレベルだ。


「おにいちゃんもおいでよー!」


 シェリーとセレンが柵のそばで俺に手招きしていた。いや、そんなとこいたら危ないって!


 しかし、他の客達も柵から身を乗り出して景色を眺めたりしている。こんなん事故が起こらん方がおかしい。


「あ、危ないからこっちおいで……っ!」


 俺はかすれ気味のちょっと情けない超絶イケボで二人に呼びかけた。ちょっと声を想像しづらいかも知れないが、無理やり想像してくれ。


「結界が張ってあるから落ちないよー!」


 シェリーはそう言うと、柵から身を乗り出して、そのまま外側に……。


 やばい、落ちる! ……と思った瞬間、シェリーの身体は空中で、何かにぽよんと弾かれるように、デッキに戻ってきた。なるほど。結界か。安全なのか。なるほど。


 だが、絶対に柵のそばへは行かないぞ。


 シェリーが身を乗り出したのを見ただけで気絶しそうになったんだから。もう。






 デッキにいる客は、ムキチョウからマティックへ行く者というより、マティックからムキチョウへ行っていた者の帰りという客がほとんどだった。

 例えるなら、東京から沖縄に旅行した帰りの飛行機、みたいな感じ。なんとなく都会のお金持ち感がある。けっ。


 連中は旅行中に食った食べ物の話やら、名所の話やら、そんな話ばかりをしていたが、その中でふと気になる言葉を耳にした。


 『人買い』というワードだ。


 良く聞いてみると、この便に、人買いが乗り合わせているらしい。船に乗り込む時、四等客室用のタラップから団体客が乗り込んで行くのを見たというのがその根拠だった。




 あんな所、特別な事情でもなければ切符自体売ってないでしょう?


 行楽帰りにそんなのと乗り合わせるなんて。


 やあねえ。




 俺は思わず立ち上がった。人買いだと? ふざけんな。この俺がぶっ潰してやる。


 黙っていたが、俺は完全にぶちギレていた。そりゃそうだ。そんなやつらがいるからサヤは……!


 ただならぬ俺の空気に、シェリーとセレンが駆け寄ってきた。


「おにいちゃん……?」


「……この船に、人買いとか言うやつらがいるらしい」


 俺は押し殺すような声で言った。感情が制御できなくなりつつあった。

 俺の表情を見て、セレンが息を飲んだ。


「……絶対に許さない。捕まってる人達も全員解放する」


 シェリーとセレンはこっくりとうなずいた。


「四等客室ってのは……」


 セレンがスカートの中からこの船のパンフレットを取り出してぱらぱらとめくった。やっぱすごいなそのスカート。


「……船の最下層ね。行き来は出来ないようになってるわ」


 どうやら四等というのは逆特別待遇とでも言うのか、三等以上のエリアとは行き来できないようになっていた。むしろ船倉に近い。


「かまうもんか。いくぞ!」


 俺は船内に戻ると、四等客室を目指して階段を駆け下りた。


「おにいちゃん、もしかしたら……」


 俺のすぐ後ろを走りながら、シェリーが言いにくそうに言った。シェリーの危惧は俺も考えていた。そう。サヤが一緒に捕らえられている可能性だ。あり得ない話ではなかった。


「……急ぐぞ」


 俺はシェリーを振り返って一言そう言い、さらにスピードを上げた。


 次の瞬間、俺は階段踊り場の壁に思いっきりおでこを激突させた。







 気がついた時、俺の目の前はおっぱいだった。


 仰向けに寝転んで見上げる視界のほとんどを占めるのは、ゆさゆさと揺れるたわわなおっぱい。

 ええと、ここはどこの極楽でしょうか。


「大丈夫? おにいちゃん」


 俺の視界に、心配そうに俺を覗き込むシェリーの顔が入ってきた。とすると……?


 記憶が蘇ってきた。


 そうだ。俺は四等客室に囚われた人達を助け出し、人買いどもを成敗しようとしていたんだった。


 ってことは、このおっぱいはセレンだな。


 セレンに膝枕されて、シェリーの回復魔法をかけてもらったってとこだろうな。うん。極楽。


 ……いやいやそんな事言ってる場合じゃない。

 俺は立ち上がると現在地を確認した。降りてきた階段の一番下だ。左手にドアがある。


「……この先が四等のエリアよ」


 セレンが立ち上がり、パンフレットを見ながら言った。よし、間違いない。



 俺が扉に触れると、音もなく鍵があき、四等エリアへのドアが開いた。

次回予告。


シェライアだ。


四等エリアには、とんでもない物が隠れていた。

こんなひどい事をするなど、許すわけにはいかない……!

そして、おにいちゃんの大作戦が始まった!


次回、Take It All! 第九十一話

「正義の大作戦。」お楽しみに!



さすがおにいちゃん、完璧なさくせ……って、ええ!?

ちょ、ちょっとやりすぎじゃない?

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