第八十九話 ムキチョウステイションホテル。
【迎賓の間】に通された俺達は、支配人をはじめ大勢の従業員達から挨拶を受けた。それでも料理長やらメイド長やらといった、ある程度の役職以上の者に限定されているようだ。なんかすげえ待遇。
ここでもやはり女性はみんなモエと同じ顔をしていた。なんなんだろうな、一体。
俺達には四人の専任メイド(もちろんみんな同じ顔)が付く事になった。さすが特別な部屋だ。本来は三人のメイドが付くらしいんだが(三人部屋だから当然だけど)今回四人で泊まるので急遽増員されたらしい。
【迎賓の間】に併設されているメイドの詰め所も三人用だった。ここにも急遽追加の椅子などが運び込まれていた。
「ご滞在中の事につきましては、全て何なりと私どもにお命じ下さい。宿泊に関係のない事でもかまいませんので」
支配人が最後にそう締めた。なるほどそうか。それならお言葉に甘えるしかないよな。
「ご配慮ありがとうございます。早速で申し訳ないんですが、実は俺達は仲間を探しているんです」
俺はそう切り出した。ここでの交渉は、王都で王様と交渉する際の予行演習になる。サヤを傷つけさせないように、一刻も早く保護するために、念には念を入れなきゃな。
「我々が探しているのは、サヤという娘です。赤の鎧の操者で、もちろん火の領域の民です」
シェリーが「娘」という表現を使うのがなんか面白かったが、話すシェリーも聞く支配人達も真剣そのものだ。
「サヤの人相は……、ちょっと待ってくださいね」
写メを見せた方が早いだろうと思い、俺はスマホを……あれ? どこだ?
俺は愕然とした。スマホがない。あれ? どこかに落としたのか? これはやばいぞ。
俺は自分の記憶をぐるぐると辿ってどこで落としたか思い出そうとした。これはマジでシャレにならない。スマホがなければ俺は単なるカギ開け職人だ。泥棒になるくらいしかできる事はない。
まぁ誰かに拾われた所で俺の指紋じゃないから起動できないだろうし、そもそも充電が切れてるから悪用される事はないだろうけど……。
ここまで考えた時、俺ははっと思い出した。
そうだ。充電が完全に切れてたんだった。大きくしてガイオウにセットした時点でスマホは力尽きてたんだっけ。
俺はスマホをガイオウのコンソール上に置きっぱなしにして出てきてしまった事を思い出した。
そっかー。あそこかぁ。まぁでも、あそこなら拾われる心配はあるまい。
いやいやちょっと待て。あそこに置き忘れたってことは、おいそれとは取りにいけないぞ。これマジで不便だ。家も食べ物も出せないし。
そんな事をぐるぐる考えていると、支配人が不思議そうな顔で俺を見ているのに気付いた。
「人相……で、ございますか? その、サヤ様とおっしゃる方も、火の民の女性なのですよね……?」
支配人の後ろで、宿のスタッフ一同もみな不思議そうな顔をしている。そうか。火の民の女性はみんな同じ顔だから、人相で探すと言うのがピンとこないのか。
「あぁ、いや、そうなんだけど、サヤはここの人達とは随分見た目が違うから……」
さぁ、言ったぞ。こいつらがどんな反応を示すのか……。もしサヤの事を蔑むようなら……。
「なるほど……。にわかには信じ難い事ですが、何かご事情がおありなのでしょう。かしこまりました。私どもにお任せ下さい。この浮遊島内しか捜索出来ませんが、この範囲内でしたら必ず私どもが保護し、カイ様のもとへお連れいたします」
さすが支配人の返しは完璧だったが、やはり俺には腑に落ちなかった。
顔が人と違うことってそれ程信じがたい事なのか? そして、容貌が違うと言うのはなにか事情があるって事になるのか?
俺にしてみれば、女性の顔が全員ほぼ全て同じという方がよっぽど信じ難いんだけどなぁ。
まぁでも、彼らはサヤを最初に出合った四人組のように扱うなんてことはしなさそうだ。これだけはまぁ信じても良いだろう。
「俺達はこの地に来たのが初めてで土地勘が全くありません。俺達も捜索したいんですが、どこをどう探したらいいのか見当もつかなくて……」
俺もサヤを探す気満々だった。支配人たちが信じられないわけじゃない。ただ、じっとしていられない気持ちだった。そして、一秒でも早く、サヤに会いたかった。
「お気持ちは拝察いたしますが、それはおやめになった方がおよろしいかと愚考いたします」
支配人は言いにくそうに言った。なんだ。なんでだよ。
「私どもが全情報網をあげて、全力でお探し致します。
もちろん、カイ様がどうしても自らお捜しになるのでしたら協力を惜しむものではございませんが、もし私どもがサヤ様を探し当てた場合、カイ様が外にいらしてはすぐにお引き合わせする事が出来ません。
サヤ様発見の際の確認をいち早く行っていただくためにも、カイ様方にはこちらにお留まりいただきたいと考える次第でございます」
支配人の言っている事の方が100%正しかった。確かにその通りだ。でも、この気持ちをどうしたらいいのか……。
「おにいちゃん、王都でサヤを捜索してもらう事になったらもっと時間もかかるだろうし、待つ練習しよ? 支配人殿は信用できる人だってシェリーは思うよ」
シェリーが俺の肩に手を置いて言った。俺はうなずいた。
「ありがとうございます。シェライア様のご信頼にお応えするためにも、我々、全力を尽くします」
支配人達は恭しく一礼して、【迎賓の間】を退出した。
「あの、カイさん」
リビングが俺達四人だけになると、モエが俺に話しかけてきた。
「赤の鎧の操者というのは、すごい魔力を持っているって聞いているんですが、サヤさんって方は違う顔をされているんですよね?」
やっぱりそこが疑問なのか。支配人も不思議そうな顔してたっけ。でも、このモエの方は単に不思議そうなだけではなかった。【違う顔】という言葉を口に出す時、ちらっと侮蔑的な顔になったのを俺は見逃さなかった。
あの四人組と同じだ。やはり火の領域では、顔の違う女性は被差別対象であるという事なのか。
「ああ。そうだけど?」
俺は少しぶっきらぼうになって短く言葉を返した。そんなつもりはなくても、気分悪いんだからしょうがない。
「そうですか。どんな方なのかお会いしてみたいわぁ」
俺の気分を察知してか、モエはうっとりするような顔を作ってそう言った。だが本気じゃないのは目を見れば明らかだった。もう、これはむしろ嫌味だ。
専任メイドたちが俺達にお茶を用意してくれたのをしおに、俺はベッドルームに入った。
今は、ここ火の領域の女性の顔は、見たくなかった。
支配人達は本当に八方手を尽くしてサヤを捜索してくれたようだった。
しかし、翌日俺達がホテルを発つまでに、サヤは発見されなかった。
申し訳なさそうに頭を下げる支配人達に、俺は笑顔で礼を言った。
この島に、サヤはいなかったのだろう。
でも、必ず俺はサヤに再会する。見つけてみせる。
俺達は宿を出て、直通便の出ているムキチョウステイションへ向かった。
いざ、王都へ。
次回予告。
……セレン。
王都へ向かう連絡船。
それは光と闇を運ぶ。
そして、闇を垣間見たカイは……。
次回、Take It All! 第九十話
「連絡船の闇。」
……まったく。いつもいつも世話が焼けるわね。




