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Take It All!~異世界転生でチート級の超絶イケボに!冴えない営業マンが勘違いで伝説の英雄を掛け持ち美少女ハーレム無双? だけどスマホの充電がきついっす~  作者: 硫化鉄
第二部 水の章

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第六十八話 俺を殺す理由。

 セレンの手を滑り落ちた短剣が地面に突き立った。

 セレンはがっくりと膝をつき、両手で顔を覆っていた。指の間からこぼれる、涙。



『生きていきたいんです』



 彼女が泣きながらメモ帳に書いたのは、その一言だった。涙で汚れたメモ帳に、やっと判読できるその一行。それが何故この短剣につながるのか俺にはさっぱりわからなかったが、彼女の狂おしいほどの思いは伝わってきた。きっと何か深い事情があるんだろう。


「生きていきたい、か……。わかるよ。水の民達から逃げ出してきたのも、それが理由?」


 俺は優しいイケボでそう囁いた。彼女は頬を染めながら、小さくうなずいた。


「脚を傷つけたのも、生きていきたいから……?」


 そっとセレンの肩を抱いて、撫でた。セレンは身体を震わせ、それでも少し安心したようにうなずいた。


 脚を傷つける事が生きていく事につながるってどういう事なんだろう。


 ……もしかすると。


 もしかすると、彼女は心の痛みが大き過ぎて耐えられないんじゃないだろうか。

 脚を傷つけ、その痛みを感じる事で、心の痛みを少しの間だけでも忘れようとしているんじゃないだろうか。


 仲間達に幽閉されていた彼女は、自由と引き換えに仲間を失った。自由と引き換えに全てを失った彼女にとっては、苦痛だけが生きている証なのかも知れない。


 俺の心が軋むような悲鳴をあげていた。彼女の痛みに、少しでも共鳴できた証かもしれない。


 そうか。なら俺を自分の手で殺そうとしているのも、彼女にとっては生きるために、心が死なないために必要な事なのか……?


 ならば打つ手はある。彼女の心を救う事ができれば、彼女は自傷をする必要も、俺を殺す必要もなくなるはずだ。心から笑って生きる事が出来るはずだ。

 そして、それこそが「生きていく」って事なんだ。


 俺はそう決意を固めて、最後の質問を口にした。


「セレン。君が俺を殺そうとするのも……生きていきたいからなんだね」


 優しく見つめる俺の視線の中で、セレンは、首を横に振った。





 ……え? どういうこと?


 いや、生きていきたいっていうのはわかるよ。それで逃げ出したり自傷しちゃったり色々したのも理解できる。俺を殺そうとしたのもそういうことなのかなぁと思っていたんだけど。


 え? 違うの? じゃあなんで?


 俺は混乱してセレンを見つめた。俺、なんで殺されなきゃならないんでしょうか。


 そうこうしている間に、神殿の方は険悪な雰囲気になりはじめていた。


「話にならんな。こちらの要求が飲めないのなら、交渉などするだけ無駄だ」


 マスク野郎が偉そうにふんぞり返っていた。


 どうやらマスク野郎達は、人質の解放と引き換えに、白き鎧と緑の鎧の引渡し、そして青の鎧の操者の身柄をも要求しているようだ。ってことは、人質の解放といってもティティだけという事になる。何故ならサヤとシェリーは神の鎧の操者だからだ。


 こんな一方的な取引などありえないし、そもそも水の民はその要求を飲める状況にない。青の鎧の操者は不明だし、鎧二つも見つかっていないのだ。マスク野郎がこのままニミュエを捕えてしまえばさらに人質が増える事になる。水の民側にとってはまさに窮地と言ったところだろう。マスク野郎が偉そうにしているのもそのせいだ。


 しかし。しかしですよ。これね、営業マンやってた俺から見たら、結構水の民側も不利な立場じゃないんだよな。


 だって、実際に水の民は白の鎧も緑の鎧も、青の鎧の操者も持っていないわけだ。無い袖は振れないというヤツで、マスク野郎達の要求を飲む事が出来ないわけ。


 これって実はかなり強かったりする。「出来るけどやらない」事については交渉なり脅迫なりして引き出す事ができるが、「そもそも出来ない」事は何しようが引き出す事は不可能なのだ。どんな交渉も、脅迫だって無駄な労力というわけだ。これはマスク野郎達にとっては厄介な話なのである。


 それに、水の民が人質奪還をあきらめ、総力を挙げてマスク野郎達をつぶしにかかろうと思えば、かなり楽にそれを行う事ができる。


 つまり、マスク野郎達は人質を使って水の民を脅迫しているように見えて、実は人質を盾に延命しているだけに過ぎないという見方もできるわけだ。


 まぁもちろん、マスク野郎達に従う水の民が、ディーノ達以外にもいれば話は別だ。


「俺、やっぱり彼女達を見捨ててはおけない」


 俺はセレンから手を離して立ち上がった。セレンが座ったまま俺を見上げた。


「俺は君に生きていて欲しい。そして同じくらい、彼女達も死なせたくないんだ。だから、彼女達を助けて、また戻ってくる。みんな、俺が守る。命だけじゃなく、心もだ」


 軽く言霊が乗った俺の言葉に反応して頬を染めるセレン。でも彼女の、青の鎧のサポートは受けられないだろう。


 さて、どうするか。


 なんて考えてる暇は無かった。っていうか、考えたって結論なんかありゃしない。その時その時のベストを考えるしかない。


 まずは、心理的に優位に立つ事だ。そのためには……。


 俺は、セレンに一つだけお願いをした。セレンはこっくりとうなずいて、青い琵琶を奏ではじめた。






「あの男、カイは死んだのだ。今やあの白き鎧の操者はこの私だ。お前達は私の要求にしたがって、鎧を見つけ出せばいいのだ!」


 マスクが苛立っていた。ニミュエの芯の強さに業を煮やしている、といったところだ。


「お断りします! 私達はもちろん白き鎧と緑の鎧を捜索します。ですが、それはあなたのためではありません! 完全なる奏唱者、カイ様のためです!」


「そうだ! ピクシーオーナーであるおにいちゃんのためだ!」

「……閃光の魔術師様も、ですっ!」

「カイ様が死んじゃうわけないでしょ、バーカ!」


 ニミュエ、シェリー、サヤ、ティティが俺の生存を信じている。涙と共に熱いものがこみ上げてきた。もうね、行くっきゃないでしょ。


「ふっ……愚かな。あの状況で生きていられる人間などあり得ん! お前達もその目で見たはずだ! あの男が海中深く飲み込まれていくのを! あれがあの男の……」


 その時、神殿内に熱いイントロが流れ始めた。


「な、なんだ……!? この、音楽は……!」


 マスク野郎達が慌てふためく姿が傑作です、マジで。


「カイ様……カイ様っ!」


 サヤの声が涙ぐんでいる。


 そう。俺のスマホで再生している【蒼翼の獣戦機トライセイバー OPフル】だ。

 グランデ・トルチュの力を借りて、この熱い魂のソングを神殿内に流しているのである。


「闇あるところ光となり!」


 イントロに乗せて俺の声が響き渡った。急遽考えた登場の名乗りだ。


「絶望あるところ希望となり!

 悲しみあるところ喜びとなる!

 傾聴せよ! 我が魂!

 ……えーと」


 やばい、せっかくかっこ良く決まっているのに言葉が思いつかねえ。つうかどう締めればいいかわかんねえ。


「……という事で、歌っていただきましょう!

 今週の注目曲! カイさんで、【蒼翼の獣戦機トライセイバーOP】

 はりきって、どうぞ!」


 ……なんか、昭和の歌番組の曲フリみたいになっちゃった。しかも最後かなり早口になっちゃったけど、まぁいいか。


 俺の熱唱が神殿内に響いた。サヤ達はもちろん、マスク野郎に寝返った水の民の連中までうっとり聞き惚れてるな。


 こうしている間に、グランデ・トルチュは首を伸ばし、岸に頭を近づけていた。よし、ワンコーラス歌いきったら登場だ!


 と、その時、突然グランデ・トルチュが大きく首をうねらせた。


 激しく首を振り回すグランデ・トルチュ。



 俺達はグランデ・トルチュの口の中であちこちに跳ね飛ばされ、その挙句、ぺっ!! と勢い良く吐き出された。

次回予告。


サヤです。


カイ様の歌声!そして頭から滑り込んでくるような……えーっと……

と、とにかく、登場の仕方はかなり個性的だったけど、感動の再会ですっ!

ここからカイ様の大活躍が始まります!……と、思います!


次回、Take It All! 第六十九話

「荒ぶる亀神。」お楽しみに!



もう一人現れた女の人……誰だろう……。

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