第十六話 俺の戦闘民族
いやもう悩ましいなんてもんじゃなかった。
ファミルエリシャの完璧なプロポーションはタオルで前を隠されているだけ、タオルを巻いているサヤも太ももの上の方まで生脚で、身体のラインもしっかりと出ている。ファミルエリシャがタオルを巻かないのは、タオルを巻いて隠そうとするなら上下二枚のバスタオルが必要になるからだろう。
シェライアもファミルエリシャと同じようにタオルを巻かずに隠していたが、巻いたとしてもドレスくらいの丈にはなると思われる。彼女については機能性というよりも対抗意識なのかもしれない。
「か、カイ様、た、タオルは……?」
サヤが真っ赤になって顔をそむけた。
タオルは脱衣所に置いてきていた。やばい。俺、なんも隠してねえ。
しかも、俺のその付近の状態は確認しなくても明白だった。いわゆる、かなりの【戦闘民族】状態である。
「あ、ご、ごめん!」
俺は慌てて後ろを向き、お湯に身を沈めた。
「いや、わざとじゃないんだ。交代時間が近いの知らなくて……」
俺は必死で言い訳した。だめだ、これは言い訳すればするほどドツボにはまるヤツだ。
それにしても。
俺としてはエルミィを恨みたいところだった。時間交代制なら、しかも交代時間が迫っているなら教えてくれたって良さそうなもんじゃないか。
「交代……?」
背後でシェライアが不思議そうに言った。
「カイ様、ちょっとそのまま向こう向いていて下さいね」
サヤの声がして、ちゃぽん、とお湯に入る音が聞こえてきた。マジか。混浴する気か。
「脱衣所や洗い場は別ですけれど、お湯に入るのは一緒ですよ、カイさん」
そうなのか。こっちの世界はそれが常識なのか。
「はい、カイ様、もう大丈夫ですよ」
サヤの声を聞いて振り向くと、三人ともお湯に身を沈めていた。乳白色のお湯が身体を隠している。シェライアは完全に肩まで浸かっているが、サヤとファミルエリシャは少し肩を出していた。
サヤの水滴を纏わせた肩から視線を下ろしていくと、湯の中の肌色が乳白色に溶けていく。何かが見えそうなのにギリギリで見えないもどかしさが、俺の身体の中心を熱く駆け抜けていった。
ファミルエリシャは、鎖骨付近まで湯の上に出していた。余計に危険だ。また、彼女の前にぽっかりと、豊満なバストが浮かんでいる。以前、何かの本で、「巨乳の人の胸がお湯に浮かぶと、おしりのように見える」と書いてあったのを思い出した。納得だ。
本来のぼせるはずのない露天風呂でのぼせそうになり、俺は上半身をお湯の上に出した。男の上半身なら晒しても大丈夫だろう。
彼女達はちゃんとタオルを外して、近くの岩の上に置いていた。タオルをお湯につけてはいけない、というマナーは日本と同じようだ。なるほど、タオルを巻いたままお湯に浸かるわけにはいかないから、俺に後ろを向かせたのだろう。
あの時俺の背後で展開されていた光景を想像すると……いかんいかん。さすがにこれ以上はまずい。
俺は何か危険を感じた俺の理性に従って、頭をクールダウンさせようと努めた。
所詮、無理な相談だった。
「そう言えばカイさん。サヤさんとシェライアに、とても可愛いバスローブをプレゼントされたのですね」
ファミルエリシャがうらやましそうに口を開いた。あぁ、浴衣の事か。
「ええ。たまにはああいうのもいいかなと思って」
「とても可愛くて、私すごく気に入りました! ありがとうございます、カイ様!」
水音を立ててサヤの身体が俺の隣に近寄って来た。肩が触れる距離だ。ち、近いぞサヤ。
とは言え押し返すわけにもいかなかった。お湯の中は見えないのだ。どこに触れてしまうかわからない。
いや待てよ。逆に考えるんだ。今ならサヤに触れても誰にもばれないし、もし咎められても「見えなかったから」と言い訳が出来る。
「カイ殿。もし良かったら、ファミルエリシャにも、その、浴衣をいただけないだろうか」
「そ、そうだね。どんな色や模様がいいですか?」
俺はこっそりとサヤの方に手を伸ばしながらファミルエリシャに尋ねた。
「それは……カイさんにお任せしますわ」
ファミルエリシャが答えるが、俺は気もそぞろだった。そろそろ指先が触れても良さそうなものだ。
俺が生唾を飲み込んだ時、乳白色のお湯がすーっと透き通ってきた。
「あら、お湯の入れ替えですね」
俺は慌てて手を引っ込め、焦りすぎてその勢いのままお湯の中に倒れた。すぐさま起き上がったが、無様なもんだ。
「お湯の、入れ替えですか?」
「そう、ミルクからクリスタル水に入れ替えているんですよ。一定の時間ごとに入れ替えをしてくれるので、お風呂に入ったまま両方のお湯を楽しめるんです」
ファミルエリシャが解説してくれている間も、早鐘を打つ心臓は一向に落ち着かなかった。
サヤに触ろうとした事がばれてないだろうかという焦りもあるが、今度は湯の中まで全部見えてしまうという状況。いやもう煩悩の塊にならない男がいたらお目にかかりたい。
お湯は完全に透き通った。三人のきれいな肌色が目の毒だった。が、しかし、さっき俺が激しく動いたせいで波立っている水面は、お湯の中の「色」は見せてくれても「形」を見せてはくれなかった。畜生。
まぁ、完全に水面がクリアになったとしたら、俺の戦闘民族が再び晒されることになる。戦闘民族が平和の使途になれるような状況では全くないのだから、助かったと言わねばならないのかもしれない。
どっちにしても、俺はどうにかなってしまいそうだった。
夕焼け空が黄昏に変わり、あたりが急速に暗くなってきた。灯っていたランプがその存在感を増す。ランプの光を反射するクリスタル水の水面は幻想的だった。
「そろそろ上がりましょうか。お夕食の時間も近いですし」
ファミルエリシャがそう言って、タオルに手を伸ばした。
「カイ様、向こう向いてて下さいっ」
サヤの言うとおりに背を向けた俺の背後で繰り広げられる光景。水音と三人の声が想像力をかきたてる。かきたてまくる。かきたて過ぎる。
「じゃあ、カイ様、お先に上がります!」
タオルを巻いたサヤが俺に声をかけた。
「ああ。じゃあ、ファミルエリシャさんの浴衣は部屋でお渡しします」
俺はお湯に浸かったまま三人を見送った。タオルを前に当てているだけのシェライアとファミルエリシャのお尻は、丸見えだった。
浴衣姿で部屋に戻ると、俺は早速【R-DL】でファミルエリシャの浴衣を出した。落ち着いた薄紫の浴衣。大人っぽい雰囲気のファミルエリシャにはよく似合うだろう。これでスマホの充電は残り2%。さすがに結構ヤバい。
俺は隣のベッドルームにファミルエリシャの浴衣を持って行き、ミュウを探した。
「ミュウ? 充電マジやばいから、充電の仕方教えて欲しいんだけど。ミュウ?」
外出でもしているのか、ミュウの返事はない。気配もない。でもまぁ、夕食には戻ってくるだろう。
俺はちょうどその時帰ってきたサヤたち三人に気を取られ、ミュウの事はあまり深く考えなかった。
無論、それは大きな間違いだった。
次回予告。
ファミルエリシャです。
お風呂の後は、御夕食の時間でした。
明日の事を確認しながら、最高の料理を楽しむ私達。
でも、カイ様には何か気になることもおありのようで……。
次回、Take It All! 第十七話
「食欲と○欲」ご期待下さい。
この浴衣、というローブ、とても素敵ですね……☆




