第十三話 いけすかない男たちと優しい巨乳
突然生じた光に、俺とシェライアは驚いて扉から手を離した。
よく見ると、くっきりと浮き上がった紋様はところどころで途切れていた。扉を縦横に区切る切れ目があり、正方形のブロックに区切られていた。その区切れ目で紋様が途切れている。
ブロックは勝手にスライドして配置を変え、紋様が一つにつながっていった。
「わぁ……」
サヤが感心して声を出した。シェライアも驚きと感動の眼で扉を見つめている。
俺たちの眼の前で、扉の紋様は一つの絵になった。光り輝く黄金の鎧の絵だ。
「きれい……」
「マスター! あたしあれ欲しい!」
サヤとミュウの反応の差よ。ミュウは俺の肩に飛び移って、扉に描かれた黄金の鎧を指さして騒いでいた。全くうるさい。
黄金の鎧の絵の輝きがおさまると、扉がゆっくりと横にスライドして行き、祠の入り口が開いた。
「カイ殿ならば開くと思っていた。さすがはピクシーオーナーだ」
何故かドヤ顔のシェライア。
「さすが閃光の魔術師様ですね! 光が満ち溢れて、とても素敵でした!」
サヤが対抗して言った。いや、これ多分、俺の【鍵】の能力だから。
しかし、触れるだけで解錠できるとはなかなか驚きだった。強いと言う感じはしないが、相当便利な気がする。
「さぁ行きましょ、カイ様!」
サヤが俺の左腕に腕を絡ませてきた。な、なんか大胆だぞサヤ。ひ、肘に胸が当たってる……っ!
「そうだな、行こうカイ殿」
シェライアが対抗意識を燃やしたのか、俺の右腕を取って腕を絡ませてきた。が、身長が足らずにただ俺の腕を抱きかかえた感じになっているのが可愛い。
二人に引っ張られるように祠の中に入ると、床に描かれた魔法陣がぼうっと光り、明るくなった。差し渡し5メートル程の正八角形の一間になっており、その床いっぱいに魔法陣が描かれている。
「わぁぁ……」
サヤが声を上げて周囲を見回した。壁や天井にも様々な紋様が描かれていて神秘的だ。シェライアも興味津々な目できょろきょろ見まわしている。
「……で?」
ミュウが俺の肩に座ったまま周囲をくるっと見回して言った。確かに。何も起こらない。
「うーむ……」
シェライアは少しうつむいて、その小さな顎を軽くつまんで考え込んだ。そして、俺を見上げた。
「やはり、カイ殿の力が必要なのだろうと思うが……」
いや、そんな事言われても。これも【鍵】の能力でいけるもんなのか?
このシステムの封印を解く、という意味では解錠と言えなくはないけど。そもそも触れるべき扉や鍵の類はどこなんだ。
俺は周囲の壁を一通り触ってみたが、紋様が光る気配はなかった。
「おかしいですね……。扉はあんなに光ったのに……」
サヤが俺と腕を組んだまま言った。
光……?
なるほど、そうか。
「サヤ、ごめん、ちょっと放して」
俺が右手でそっとサヤの腕に触れると、サヤは慌てて組んでいた腕を放した。真っ赤になっていた。
「あ、あのあのっ、カイ様、ごめんなさいっ!」
いやいやいや、謝ることじゃないんだけどね。いい思いもさせてもらったわけだし。
なんて思いが顔に出ないよう苦心しながら、俺はその場にかがみこんだ。
「いや、いいんだ。もしかしたらこっちかと思ってね」
光を放っている魔法陣が描かれた床にそっと手を当てると、祠の中は強烈な光に包まれた。
光がおさまると、俺たちはやはり祠の中にいた。背後で扉がスライドする音が聞こえた。
祠の中の様子に変化はなかったが、先ほどまで聞こえていた滝の音がすっかり消えている。これは、もしや……。
「シェライア、どうなんだ?」
開いた扉から外を覗いていたシェライアは俺たちを振り返ってうなずいた。
「正常に作動したようだ。滝の上……大地の神殿の島へ上がった……らしい」
シェライアに続いて祠を出ると、からりと晴れ渡った川のほとりだった。石畳で舗装された小道が川上の方へ続いている。滝として下の大地に水を落とす地面の端からは数百メートルほど距離があった。高所恐怖症の気がある俺としてはありがたいことだ。
滝になっているあたりの川の上に橋が架かっていて、その中央に小さな小屋があった。【水の道】の上側の駅というか、出入り口なのだろう。あんなところに出たら足がすくむこと確実だ。【光の道】が動いてくれて本当に良かった。
俺がほっとしていると、石畳に靴音を響かせて、三人の人影が小走りに近づいてきた。
近づいてきたのは、リーダーらしい女性と男が二人。三人とも、シェライアと同じような尖った耳を持っており、すらりと背が高かった。190㎝は越えているだろう。かなりの高身長だ。男二人はしゅっとしたイケメンだったが、女性の方は柔和な雰囲気の美人だった。しかも結構……巨乳。
「ファミルエリシャ。久しぶりだな」
シェライアが一歩前に進み出た。
「ええ、お久しぶりね、シェライア。【光の道】に光が満ちているという報告が入ったので来てみたのだけど」
ファミルエリシャと呼ばれた美人が優しい口調でシェライアに尋ねた。もちろん俺たちが関係していることは百も承知だろう。だが予断をせずに一から事情を聞こうとするあたり、冷静で公平な考え方をする人のようだ。
「昨日、ピクシーオーナーと思しき方を保護した。記憶を失っておられるが、間違いないだろう。長老へのお目通りをお願いしたく、お連れしたところだ」
シェライアは胸を張った。が、彼我には圧倒的な身長差があった。まるで大人と子供だ。
「へぇ。おちびちゃんにしてはよく頑張ったねえ」
ファミルエリシャの右側にいた男が嘲るように言って、シェライアの頭を撫でようと手を伸ばした。
「……触るな」
彼の手が頭に触れる前に、シェライアはその手を払いのけた。必要以上の力がこもっていた。
「痛っ! ……このチビ……」
「やめなさい!」
逆上しかけた男は、ファミルエリシャの鋭い制止に従い、気をつけの姿勢で直立した。
「ごめんなさい、シェライア。私の部下が失礼をしてしまって。そちらの方が、ピクシーオーナー様かしら?」
やはりこの女性は公平な人のようだ。大人の色気もあって、とても感じがいい。まぁ、難があるとすれば俺より背が高いというところだろうか。でも、そういうのも悪くないな。
「ああ。こちらがピクシーオーナーのカイ殿だ。そして同行していた人間の娘、サヤ。カイ殿の肩にいるのがピクシーの生き残り、ミュウだ」
一人一人紹介されるごとに、ファミルエリシャは会釈をしたが、おつきの男二人はそっぽを向いたままだ。いやほんと、こいつらマジ感じ悪い。
サヤは大柄な三人に気圧されて、申し訳なさそうにお辞儀をした。ミュウは男の態度が気に食わないのか、そっぽを向いてふくれている。
「突然お騒がせして申し訳ない。ところで、あなた方は?」
俺は礼儀をもって、しかし必要以上にへりくだらずに言った。相手にとって価値のある商品を持っている場合、へりくだり過ぎると商談としてはむしろ逆効果になる。
「申し遅れまして大変失礼致しました。私は大地の神殿を護る民、長老直轄の警備兵長を務める、ファミルエリシャと申します。以後お見知りおき下さい」
ファミルエリシャの挨拶は完璧だった。その後、男二人が渋々という感じで自己紹介したが、敢えて書かない。こんな感じ悪いクソモブなんか二度と出てこないだろうからだ。「いけすかない男A」「もっといけすかない男B」程度で充分だ。けっ。
「しかし、人間がピクシーオーナーとはね……。何かの間違いだと思いますが」
ファミルエリシャの左側にいる、いけすかない男Aが言った。「人間が」というところに、何か見下しているような響き。
「よく出来た人形なんじゃないか?」
シェライアの頭を撫でようとした「もっといけすかない男B」がミュウを覗き込むように顔を近づけた。
「しっつれいね! あたしはピクサリーのミュウ! 人形じゃないんだから!」
ミュウの怒りの飛び蹴りが「もっといけすかない男B」の鼻に直撃した。ミュウ、よくやった!
「痛てぇ! ほ、本物なのか……?」
男達は実際に飛びまわり、喋るミュウを見て唖然とした。まだ信じられないといった表情だ。
「あなた達、いい加減にしなさい」
ファミルエリシャは部下の二人に静かに言った。
「私が、この方々のお話を伺いながら、長老の下へご案内します。あなた達は先に戻って、長老に報告しておきなさい。いいですね?」
いけすかない男達はファミルエリシャにお辞儀をして走り去った。
次回予告。
伝統と革新が融合した、最高級の宿。
最高級の料理、そして「お庭風呂」。
な、なんかめっちゃ高そうだけど、いいの?
次回、Take It All! 第十四話
「なんと! 【ティターンの懐へINN】へ!」お楽しみに!
ごめん、出来心で、俺、主人公のカイ自ら予告やったんだけど、
需要ないよね、やっぱり。




