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夜行者

よろしくお願いします!

ーーたまに、同じ夢を見る。


忘れられず、忘れたくなく、永永と見ていたい。そんな夢。


家の庭に四人の家族がいる。

燦燦と輝く太陽の下、無邪気に走り回る幼少期の自分と妹。その二人を笑顔で見守る父と母。

ただただ温かい「家族」という形がそこにはあった。


妹?

父?

母?


なぜ自分は、その三人を家族だと、妹だと、父だと、母だと思ったのだろうか。

自分にはいないはずの家族。会ったことのない家族。存在しない家族。



輝く太陽?


輝く太陽など存在しない。

闇を照らし、世界に光をもたらす。

それは昔の話だ。



自分でも馬鹿げた事だと思う。

なにが家族だ、なにが太陽だ。そう思っているのに、あの家族の光景を忘れられない。忘れなくない。


憧れているのかもしれない。家族がいる環境を。

望んでいるのかもしれない。家族と過ごす日々を。


そうやって、様々な御託を並べても結局辿り着くのはたった一つの願望なのだ。

「愛されたい」

そこに行き着く度、夢は終わりを迎える。


そして、また日常が始まるーー。





今から百年ほど前の二千九百七年、地球は純黒の闇に包まれた。書にはそう記されている。

なぜ起こったのか、自然現象なのか気象現象なのか、はたまた故意的なものなのか。これらは現代まで何一つ解明されてはいない。


そして、この現象は世界に大きな災厄をもたらした。


中でも代表的なものはこの二つだろう。


太陽の喪失とモンスターの出現。


闇は出現して一時間ほどで光を世界から奪い、モンスターを召喚したとされている。


最悪にして災厄の天災。「世闇(よやみ)」と言われたその災害を止められるものはいなく、世界は終焉を迎えると誰もが思っていただろう。

彼らが生まれるまでは。


夜闇から一年経った頃。世界中で体の一部に十字の痣をもつ者達が確認された。

その者達は人外の身体能力と、特別な能力を有し、迫り来るモンスターを打ち倒し続けたという。


人々は、彼らを夜を行く者「夜行者(ナイトウォーカー)」と称し、彼らの組織をHOPEと呼ぶことで人類の希望とした。


ーー記述-災厄よりーー





チッチッと時計の音だけが鳴り響く部屋。

時計の短針は正午前を指しているが、部屋から見える空は煤黒い。

そんな闇にそびえ立つ高層ビルの最上階、三方がガラスによって外界と隔てられたその部屋で二人の男が向かい合っていた。


望月奏汰(もちづきかなた)君。先月から話していた通り、君は明日から国立聖光大学付属第一高等学校に新入生として所属してもらうことになる。」

そう話すのは両肘を机に乗せ、漆のように黒い髪を全て後ろで括っている男。

机の脇には社長と書かれたプレートがあり、その風体などからも大物であると察することが出来る。

成川一鉄(なりがわいってつ)。日本国特殊防衛機関『HOPE』を束ねる、第四代目社長である。


そんな上役と相対するのは、目付き顔立ち全てから凡庸という表現が似合うであろう少年。しかし、見た目とは相反し彼はとても優れた夜行者なのである。

齢十一歳にして下級オーガを単独討伐するやいなや、男爵級ヴァンパイア、侯爵級デビル、公爵級グリフォン討伐など数々の偉業を残した異端児。

十六歳になる頃には、HOPE初の特S級の称号を与えられた男。それが望月奏汰だ。


「学内での使用許可が降りた特殊魔法は反射(リフレクト)消失(ロスト)未来予測(プレディクション)の三つだ。そして身体強化以外の魔法の使用は非常時を除いては禁止する。」

一鉄は、すべてを射抜くような鋭い目を奏汰に向ける。

「なお、非常時の場合は機密回線にてオフィスに連絡を入れろ。三分以内に能力の使用許可を検討する。」

話し続ける度に、一鉄の目には力が込められていく。

厳格。彼を表すならばこの言葉が一番であろう。

差別、待遇、贔屓、優待。この全てを一鉄は嫌う。彼に「特別」は存在しない。存在するもの全てが平等であり同価値なのだ。

そして、彼は規則を重んじる。規則こそが皆を纏める力だと信じて。


故にこの視線なのだ。自らが課した規則、これを破ることは許されない。そう意思を込め相手に伝える。

大体の人間は、一徹を前にするとたじろいでしまうのだが奏汰だけは違った。

両手を後ろで組み、表情を何一つ変えずに佇む奏汰は一鉄の視線を気力のない青の双眸でしっかりと受け止めていた。

一徹は視線を自身の右手首にある時計へ移し、秒針、長針、短針全てが十二に重なったと同時に告げた。

「では、三千七年四月五日、正午十二時をもって特S級望月奏汰の任務着任を命じる。」

「了解しました。着任いたします。」

口を開いた少年の声は、大人びた低く強い声だった。



奏汰の退出と同時に、社長室に満ちた沈黙。それを壊したのは、黒目がちの星のような一双の明眸と柔和な顔立ちを、大きなレンズがついたメガネで隠している白衣を身にまとった少女だ。

「高校に通う事が任務だなんて、面白いことをするものですね。」

フフッと可愛らしくほくそ笑む少女。

柴崎凛(しばさきりん)。対夜獣兵器技術開発室の室長を務める少女だ。十七歳で室長を預かることは前代未聞。彼女も奏汰と同じく、天才に部類されるものだろう。


「どうせ君が私の立場だったなら、同じことをするのだろう?」

一鉄は厳格な表情を崩さず、柴崎に問う。

「それはそうですよ。実験というものは楽しいものですからね。」

柴崎は両手を広げてその場でクルッと一周、白衣の端が中を踊った。

しかし、一鉄は柴崎の行動を前に何も言わない。平等主義者の一鉄が目の前で行われている不祥事に口出しをしない。これだけで柴崎がいる立場の大きさが認識できるだろう。一鉄はただただ深くため息をつくことしか出来ない。


「彼は兵器としては一流ですが、人間としては三流以下。感情や欲求があまりにも無さすぎる。それでは、これからの敵とは戦っていけません。」

大公級(グランデ)の出現か。」

夜獣達の王に君臨する世界の敵。それが大公級だ。

五年前に同時出現したとされる大公級は二体。

巨人王サイクロプス、魔王サタン。この二体を確認したA級夜行者達は全員口を揃えてこう言うのだ。

あれは悪魔だ、と。

「姿や容姿は目撃者の証言でしか情報は得られていないため、あまり認知されてはいませんが王となる夜獣は必ず存在するはずです。」

先程までのふざけた態度から一変。柴崎は真剣な表情へと変わっていた。

「大公級ともなれば、いくら奏汰君といえども一人で勝ちきることは不可能でしょう。これからの戦闘では連携がより重視されていきます。」

個人の力量よりも隊としての能力。これから変わっていくであろうHOPEの戦闘方針に奏汰はついていけなくなる。これが二人の認識なのであった。

「彼は特S級だ。人類の希望であり、敗北は許されない。」

一鉄の険しい表情から紡がれる言葉には、奏汰に対する強い期待が込められていた。

「親ばかですねぇ。」

「親ではない。」

一鉄の素っ気ない態度を横目で流す柴崎。

「意地を張るのも結構ですけど、折を見て話すことも必要だと思いますよ?まぁ、彼にとっては知らない方が幸せなのかも知れませんが。」

柴崎と一鉄。二人にしか理解できえない会話が続く。

「私の口から真実を話すことは決してない。それが奏汰のためだ。」

そう言った一鉄が部屋を出ることで二人の会話は終わりを告げた。

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