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リアルメモリーは冒険を導く  作者: 緋色の魔人
第1章 始まりの予兆
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4話 日常ー3

 

  俺は今、両の手のひらで1つずつ"世界"を持っている。1つの世界では争いが絶えなく、もう1つの世界では森や海が破壊されている。俺はそれを見るのが耐えられなくて、その2つの世界を握りつぶした。そうして、たくさんの世界を俺は壊し続けている。破壊の限りを尽くした俺の前にたった1つ、金色に輝く世界があった。こんなに綺麗な世界を見るのは初めてだ。なんて美しいんだろう。なんて愛おしいんだろう。


  この手で壊したら、どれだけ綺麗に散るのだろう。


 ---------------------------------------------


  目を覚ますと、部屋にはもう朝日がキラキラと差し込んでいた。


  「なんちゅー夢だこりゃ。俺には破壊願望でもあんのか?なんてな」


  奇怪な夢だった。自分がまるで破壊神にでもなったかのように何かを壊し続けている夢だ。何を壊していたのかは覚えていない。

 

  「みんなー、起きてー。ご飯の準備できてるよー」


  下の階からモモイの声が聞こえる。そういえば今日は朝ごはんの担当はモモイだったか。急いで身支度を済ませて一階に降りる。階段を降りていると


  「おはよう、ユージ」


  「ああ。おはよう、父さん」


  起きたての父さんに会った。父さんは昨日の庭いじりの疲れが残っているのか、どこか元気がない。俺はというと、すこぶる快調。昨日色々あったけど疲れはない。

  父さんはそのまま洗面所の方へ向かった。


  食堂に入ると、すでに席にはアシレとサナーテがちんまり座っていた。そして机の上にケマが堂々と眠っていた。


  「お、アシレ、サナーテ。早起きだな」


  「ん」「おは」


  「おう。で、この子は何でこんなところで寝てるんだ?」


 すると台所から出て来たモモイが


  「あ、ユージ兄さんおはよう。ケマね、私より早くここにいたのよ?寝るときは一緒だったから、夜中のうちに寝ぼけてこんなとこまで来たんだと思う」


  「けまけまあ」「かわいー」


  アシレとサナーテは、スヤスヤと寝ているケマの頬をむにむに引っ張ったりつついたりしている。何からの干渉も受けずに綺麗に眠るケマは、確かに可愛い。ずっと見てたい。


  「起きたよ!俺が起きたよ!」


  朝からハイテンションなワーサンが来た。よくそんなに元気でいられるよな。


  「むにゃあ」


  「けまけまあ」「起きたあ」


  ワーサンのせいで眠り姫が起きてしまった。くそ、幸せは永遠ではないのか……。まぁ寝ぼけた顔もあどけなくて可愛いからいいけど。


  「「おはよー」」 「はよお」


  ワーサンのはしゃぎ声で目を覚ましたのか、ぞろぞろとみんな目を覚まして来た。10分ほど経ったところで子供達がみんな食堂にそろった。


 モモイの号令


  「みんなそろったね、じゃあいただきます!」


  「「「いただきます!」」」


 。

 。

 。

 。

 。



  「ユージ兄さん、今日はなにするの?」


  皿を洗っていると、モモイが尋ねてきた。


  「そうだな、今日はみんなの養子申請がどんな状況か調べてくる」


  「ってことは教会まで行くのね」


  「ああ、ついでに冒険者組合の方にも行くわ」


  「え?何で冒険者組合なんかに?」


  「......治癒の依頼を出してたんだ。母さんの病気の特徴を書いて、な。だけど3ヶ月経っても誰も来てくれないから引き取りに行く。依頼書の期限なんだ」


  そう、実は俺は冒険者組合の方に母さんの病気のを治してくれ。ということを依頼していたのだ。しかし、出せる報酬は皆無に等しい。さらには母さんのような珍しい症状の病気だ。自信を持って治せるという者などいなかった。依頼の掲載期間は3ヶ月間だ。それ以降も掲載するには金がかかってしまう。なので仕方なく依頼書を引き取りに行くというわけだ。


  「......そっか。じゃあその間私たちは畑でお仕事してるね」


  モモイにも少しだけ悲しさが伝わってしまったかもしれない。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  「じゃ、行ってくる」


  「行ってらっしゃい、気をつけてね」


  ベッドから上体を起こして手を振る母に見送られ、寝室を出て教会に向かった。

  この王国には3つの教会がある。なぜ3つかと言うと、この世界オビスガルドには大きな力を持つ宗教が4つあり、そのうちの特に力の強い3つの宗教が残りの宗教を排斥したからである。その3つの宗教はそれぞれ教会を持っているというわけだ。


  王国の中で西に位置する、グリン・ソル教。豊穣の象徴であり、気候や天災をも支配すると言われている神を讃えている。


  東に位置する、レッド・ソル教。力の象徴であり、戦いの時に限界を超える力を授けると言われている神を讃えている。


  南に位置する、イエル・ソル教。技術の象徴であり、魂のこもった道具に不思議な力を与えると言われている神を讃えている。


  ちなみに排斥されたあと一つの大宗教は「ルナ教」と言い、光と闇を支配する神を祀っているそうだ。


  俺らの孤児院はこの中で、イエル・ソル教に属している。教会には象徴的な黄金に輝く鐘がある。相変わらずでかい鐘だ。めっちゃキラキラ輝いてやがる。こんなことに金をかけて、孤児院にはちっとも便宜を図ってくれない。所詮、司祭どもにとって孤児院なんて、慈悲があるのだというポーズの道具でしかない。


  「養子申請の受理は無しか......。なんか、いいのか悪いのかわかんねーな」


  教会で確認を終え、呟いた。養子申請に受理があったら、あの子供達の中の誰かとお別れをしなければいけない。それも、なんていうか寂しい。まあ、その時が来たら仕方のないことだろうな。


  「よし、組合の方へ行くか」


  イエル・ソルの教会を出てそのまままっすぐ行くと噴水広場があり、その広場に入り口を向けるように建つのが冒険者組合だ。意外と歴史ある木造二階建ての建物で、前回(数十年前)の種族間大戦争の際に受けた損傷が未だに残っている。


  竜をかたどった扉の取っ手を掴んで開けると、カランコロンと気持ちの良い爽やかな鈴の音が鳴った。


  組合の中には料理や酒を出す店もあったりする。昼だからか多くの冒険者が外に出ているので今は閑散としている。まぁ、夜の狩りを中心とした連中や、新人に目をつけるのが楽しみな下衆なやつらは今もここで呑んだくれているのだが。


  「すいません。依頼削除の件でここに参ったのですが」


  一般の受付嬢に話しかける。受付嬢といってももう40代はいってるな。


  「ああ、はい。ユージさん、、ですよね?」


  「そうです」


  「えーと、ではこの書類に署名をお願いします」


  受付嬢はそう言って俺に紙とペンを差し出した。紙には「今回のこの〜の依頼を削除することとする。今後この依頼と全く同じ、もしくは同じ類の依頼を出す場合は報酬とは別に、1ヶ月あたりミュレイツ銀貨4枚を必要とする」と書いてあった。いいさ、別にもう冒険者には頼まない。


  「はい。書き終わりました」


  「ありがとうございました、えーと、それでは他に用件はありますか?」


  「いえ、大丈夫です」


  今日は特にここでやることもないので、呑んだくれに絡まれないうちに帰るとするか。


  帰り道、噴水広場の掲示板をなんとなく見てみると、「王が病に倒れる」の文字を見つけた。俺にとって王が死のうが生きようが孤児院にとってそこまで関わることではないと思うのでどうでもいいことだ。しかし父さんは今代の王を強く支持している。だから、もしかしたら今朝父さんの元気が無かったのはこの発表を気にかけていたからかもしれない。他にも、地下水道でビルダーラットが繁殖し始めているというニュースなどを目にした。


  もう昼下がり。孤児院では基本的に昼食は無いので、まだみんな仕事をしているだろう。子供達もみんな、外が明るいうちは仕事をしている。

  仕事というのは色々あって、孤児院の裏にある畑で作物を育てるのを手伝ったり、近くの工房や店での雑用をしたりして少しでもみんなで日銭を稼いでいるのだ。あまり雇用の条件が良いとは言えないが、孤児への扱いはまだ他の宗教よりはマシな方だ。


  「とりあえず俺も帰ってみんなの手伝いするかな」


  俺は気分的に重たくなっていた足を孤児院へと向け帰り始めた。そう言えば、王の病気あまり詳しく書いてなかったけど、母さんのと似てるな。もし王が治ったら、母さんにも助かる見込みはありそうだ。


 俺は1人になるとずっと考えごとをしてしまう。これは悪い癖でも、いい癖でもあるような気がする。1度物事を客観的に捉えるということは、時に新しい正解へと導いてくれる気がするから。あと、記憶の想起も起こりやすい気がする。気がするだけだ。


  そんなこんな考えていると、いつの間にか孤児院の門の近くまで来ていたようだ。


  「ん?誰だ、あの子」


  ボイヌ孤児院の門の前に、白い透き通った髪の少女が立っていた。


やっとヒロインっぽいひと出せました。

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