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リアルメモリーは冒険を導く  作者: 緋色の魔人
第1章 始まりの予兆
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1話 帰り道

早速1話。ほのぼのスタートでいきますよ!

 


  「あー、重てぇ。買い物もなんだかんだで俺ん家でやると重労働だよなー。ったく、金なんてねーのにあいつらクソ食べるからな」


  愚痴っているが、頭の中では喜ぶ子供達の姿を想像して口元はにやけている。両手に麻布でできた重そうな買い物袋をぶら下げ帰路に立っている。


  帰り道、草原と繋がる城門の前を通り過ぎようとして、門から4人の冒険者が和気あいあいと話しながら出てくるのが見えた。


  「あいつらが持ってるのはジャガーラットの毛皮か?すげーな。ジャガーラットって言ったら、アイラン大森林まで行かなきゃダメじゃんか」


  外か、いいな。俺もいつか外に……。

 っと、いかんいかん、外に行ったって一瞬で魔物に殺されるわ。しかも、あいつらのこともあるしなぁ。


  うん。そうだ、今日は"カレー"を作ろう。そんで、喜ぶ子供達あいつらの顔見てまた忘れよう。そうしよう。


  「そんでさー、ジャガーラットの巣に……お!ユージじゃん!元気してるかー?」


  げ。あの冒険者達カインのパーティだったのかよ。カインはいい友達だけど、いちいち自慢話がウザいんだよな。


「あ、ああ。元気だよ。」


「そうか、なによりだ。見てくれよユージ。すごいだろ!ジャガーラットだぜ。今鉄級では俺らのパーティくらいじゃないか?こいつ狩れるの」


  うるさいなー。


  「すごいよ、お前ら。うん、すごーい」


  適当に返しとく。


  「だろ!銅級もそろそろだと思わないか!?」


  「ああ、なれるといいな」


  こっちの返事を聞く前にパーティで勝手に盛り上がってやがる。クソが!おっとと、感情的になっちゃいかん。

  ちょっといじめるか。


  「ん?そういえばカイン。そのジャガーラット、メスに見えるが。メスか?」


  「お?おぉ、メスっぽいな」


 やっぱりな、ふっふっふ。


「じゃあ、当然胎盤も持ってきたよな。知ってると思うけど、ジャガーラットのオスはメスより毛皮の質がいいから価値があるけど、メスに毛皮の価値はほとんどない。代わりに、メスの胎盤の中にある魔石は実用性が高いからオスの毛皮より価値がある。知ってる、よな?」


  伊達に外に憧れてない。外に出た時のために、魔物と冒険に関する知識は勉強したのだ。


  「な"!?マジかそれ!そ、そんなん知らないぞ!」


  だろーなぁ。これは王国図書館にあったスコニレイ著「銀級冒険者のための諸知識」を読んで知ったし。お前ら鉄級やん。知ってるはずもない。


  悔しがって毛皮を地面に投げつけてグチャグチャにするカインとそれをなだめる周りの3人。それを尻目にユージは再び帰路についた。


「ま、あの毛皮見た感じオスっぽかったけどな」


  ボソッと呟いた。


 ---------------------------------------------


  家の門の前に着いた。自分の物心ついた時から住んでいる場所を家と呼ぶなら、ここは俺の家だ。

  古びた木の柵に囲まれた木造の建物。外側から少しだけ見える洗濯物は、大小、色も様々だがどれも古っぽい。そしてなにより数がたくさんある。

  ここは孤児院。ダネフ王国3番地ボイネ孤児院。俺の育った家だ。


  時刻はもう夕方。あいつらも腹を空かせているだろうから、早く戻らなきゃな。

  そう思い孤児院の門を開けようとした瞬間、知っている声に呼び止められる


  「お、ユージじゃねぇか。探したぜ。おつかいかぁ?」


  「そんなガキみたいな感じで呼ぶなよ、八百屋のダンナ。こう見えてももう17歳なんだぞ、俺。」


  八百屋のダンナ。いつも融通を利かせてもらっている八百屋の主人だ。ごっつい体はまるでクマみたいだ。本名は確か、ビーター?だった気がする。まぁ、本名で呼ぶことなんてこれからも無いだろうからどうでもいいけど。


  「はっはっは。そうかそうか、あんなチビのガキンチョがこんなにたくましくなっちまって。孤児院もお前がいれば安泰だな!」


 ダンナは筋肉に修飾された太い腕を組んで笑った。


  「いやいや、ボイネ孤児院はいつでも貧困に困っていますよ。どうかご慈悲というなの現金を〜」


  「なんでぇ、いっつも特別価格で野菜売ってやってんじゃねーか。お前んとこの買い物の度に寄付してやってるようなもんだぞこのやろうが。……まぁそれも、お前がショーユとマヨニーズの作り方教えてくれるってのが条件だったが」


  ショーユもマヨニーズも、俺が八百屋のダンナに作り方を教えてやった調味料だ。

  ある日、食卓に不満があるとダンナの相談を受けた時、昔の記憶を思い出したかのように得た作り方だ。

  俺には時々こういうことがある。自分に全く身に覚えのない記憶。曖昧であったり、明確であったりするその記憶は、思い出すというより与えられるという感じの方が当てはまっているのかもしれない。与えられる……誰から?


  ま、まぁそれは置いといて


  「冗談さておいて、ダンナ。何か用があったんじゃねーのか?」


  「おぉそうだそうだ。さっき店にな、お前と同い年くらいで、白髪の可愛い女の子が訪ねてきてな『孤児院はどこですか?』って聞いてきたもんでな。とりあえず俺の店から1番近い5番地の孤児院の場所教えといたが、もしかしたらユージの知り合いか?」


 俺と同い年で、白髪美少女?……誰それ。


  「知らないな、そんな子。てかそもそも俺と同い年ってだけで俺の知り合いって、ダンナ馬鹿?」


  「くそ、てめぇおちょくってきたな。まぁ知り合いってんじゃなけりゃいいわ。ただな、白髪ってこの国じゃかなり珍しいだろ?俺の知ってる限りではあの女の子だけだ。ほんで、ユージのその黒髪も珍しい。俺の知ってる限りではユージだけだ。だから、もしかしたらって思ったんだよ」


  「ダンナの顔が狭いだけだろ」

 

  「なんだとっ!?」


  「あ、顔は広いか。物理的に」


  「てんめぇぇぇ、クソガキっ!」


  あ、怒った怒った。やりすぎか。さっきのカインのイライラがまだ残ってたのかな。

  まぁ確かに、俺の知る限り黒髪は俺だけだ。白髪なんて1人も知らない。


  「悪りぃダンナ、また今度な!」


  そう言って孤児院の門を開けて中に入った。門の向こうではダンナが「逃げやがって!」とか、「もう野菜売ってやんなーかんな!」とか騒いでいる。あんなこと言ってるけど、買う時にちゃんと謝れば売ってくれる。それもすごい安く。優しい大人だ。



  太陽がもう城壁に隠れる寸前の時刻。

  門の先、孤児院の扉。古びた引き戸のその扉は、小さな頃から何度も通っている。錆びたドアノブに手をかけ捻った。


  ドドドン!バン!ババン!


  開こうとした瞬間、扉の先から聞こえる不吉な音。扉がものすごい勢いで開き、ユージは吹っ飛ばされた。


  「ぅあぅっ!」


  奇妙な声を出しながら石畳に尻餅をつくユージの耳に、八百屋の「ザマァねーな!」という声が聞こえた気がした。

  そして、扉の先から


「「おかえり!」」「ユージ兄だ!」「おかえりなさい」「お腹減ったよぉ!」「ユージ兄さん、おかえり」「おあえい」「ユージにぃぃぃ!」「お、おか、おかえり、、なさい!」「ん」「はらへった!」


「あらあら、大変ねユージ」


  12個の様々な喜びの声が聞こえた。10人の子供達はみんな口々にはしゃぎまわって、中にはユージに飛びかかる子もいた。最後にユージに語りかけたのは、この孤児院の運営責任者ボイネだ。


  「あぁ、ただいま。みんな」


  やっと帰れたな。


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