Episodio 7 grido di battagliaー鬨の声ー
-区長討伐当日ー
ついにこの日が来た。
全てが終わり、そして始まったあの日から約1か月。
自衛隊駐屯地に集まった俺たちは、目標の練馬区役所を目指し、出発直前の会議を行っていた。
「このたびの区長討伐に参加する人員はだいたい100人というところだろう。自衛隊半数をここの防衛に残していることを考えれば十分な数字だと思っている。俺たち練馬駐屯地の人間だけでも9割近くが、朝霞に至っては、1人残らず自衛隊員がいなくなっているこの状況で、これだけの期間でこれだけの戦力を整えられたのは、奇跡ともいえる。だから俺は、死者を1人も出すわけにはいかない。いや、絶対に出さないという覚悟でここに来た。だから、換装が解けたら、落ち着いて即戦闘から離脱。これを徹底してくれ。じゃあ、他に確認事項があったら遠慮なく言ってくれ」
あいかわらず真田の司令官としての資質には目を見張るものがある。
これほどの逸材がもしいなかったら、俺たちはどうしていただろう。と、関心していると、すぐ近くに座っていた体つきのいい男が立ち上がる。
「消防隊員の後藤だ。一つ確認したいことがあるんだが発言いいか」
「もちろんだ。言ってくれ」
パワフルな男どうしの会話にはなんとなくオーラを感じる。
「俺が確認したいのは、《敵に俺たちと同じ人間がいた場合》の対処だ」
俺に衝撃が走り、周りもざわめきたつ。当然だ。俺たちの敵は神の他にはいつものからくり《神兵》だけだとばかり思っていた。そのような存在は思い浮かべたことも無い。
「なぜ、そのようなケースが存在すると思うんだ。実際に確認したのか」
と、あくまで落ち着いて返す真田に後藤も落ち着きながら返答する。
「イザナギはあの日、天界民という言葉を使っていた。これはつまり《神の世界にも俺たちと同じような人間がいる》ということを指しているのではないか、と俺はこの1か月考えてきた」
確かにそんなことを言っていたような気がするレベルの俺に対し、真田は後藤と同様の結論にたどり着いたようで、
「俺もそのケースが思考の片隅にあった。だが、確信の無いことをこの場で言っても、困惑が生じるだけだと思っていた。しかし、この際はっきりと対処方法を確認しておくべきだと思う」
俺は正直、敵に人間がいるなど考えたこともなかった。だが、そのようなケースが存在するのならば、敵を殺すというのは、からくり人形を壊すのとはまったく違ってくる。
どうするつもりだ、と真田の決断が心配になるが、真田はあいかわらずの落ち着いた口調で話を再開する。
「皆の中には、八つ裂きにしてやりたい、という者もいるだろう。だが、復讐が生むのは新たな復讐だけだ。俺は、今後のことを考慮し、捕虜、もしくは、武装を剥奪して解放、という処置を取りたい。おそらく奴らも利器を使用する。だから、戦闘で遠慮することはない。だが、とどめは刺さず、捕縛、無理なら敵の利器だけでも奪って解放してほしい。我々に必要なのは、奴らのテクノロジーだけだ。
無駄に殺す必要はない」
その判断を聞き、俺は心底安心していた。周りのほとんどの者も同じだろう。
家族や友人を殺され、恨みが深い者には例外もいるだろうが、正直自分たちと同じような人間に無慈悲にとどめを刺せる自信がある者はほとんどいないはずだ。
「他に質問は無いな。では、部隊ごとの役割は先ほど確認した通りだ。各隊の隊長はしっかり頼むぞ。
最後に一つ、くどいようだがこれだけは言わせてもらう。俺たちは今、この23区中で解放を待ち望んでいる人々に希望を与えなくてはならない。絶対に元の世界に戻せると。そして、そのことを伝えるためにここに再び戻ってくるとき、誰一人欠けてはならない。つまり俺が言いたいことはただ一つ・・・」
冷静沈着な司令官真田はその拳を天へと高々と振り上げ、
「・・・勝つぞ!!」
沸き起こった鬨の声は、天まで響き渡るほどだった。
「前方に敵確認。神兵です。数は・・・80はくだらないかと」
「やはり待ちかまえられているか。総員戦闘体勢。部隊ごとでは無く全員で正面突破で行くぞ」
駐屯地を出発後1時間が経過。区役所が見え始めてきた時、レーダーに敵の集団が映った。
「やっぱ、人いるんスかね。だとしたら側面、背後も警戒ッスね」
「油断すんなよ。未知の神兵もいるかもだ。常に周りのカバーを意識しろよ」
「見えてるのだけが敵の全部と思うなよ。増援も警戒しろよ」
各隊長が指示を出し始めたので、俺も一応出しておくことにする。
「作戦は昨日確認した通りだ。ガッといって全部吹っ飛ばす。いいな」
『了解!』
我ながら恥ずかしいが、これしかいうことがない。
「藤堂隊、井伊隊、本多隊、後藤隊、真田隊は前衛で攻撃準備。銃手は真ん中の敵から集中攻撃だ。近接武器持ちとそれ以外の隊は側面の敵を攻撃。交代のタイミングは指示する。いくぞ!」
真田の掛け声と共に戦いの火蓋が切られた。