Episodio 3 ll mondo di cambiareー変動する世界ー
あの日、5000人以上の死者、3万人以上の重軽傷者がでた。
イザナミの宣告の後、数時間後に攻めてきた《神兵》と呼ばれる、からくり人形たちはまだ思考が抜け落ちていた人々を容赦なく追いつめた。
パニックになり、唯一の対抗手段の武装化をすることもままならぬ人々はただ逃げ惑うしかなかった。
たまたま武器を持ったまま転送された自衛隊、武装の初期装備である質素な剣だけで戦った勇気ある消防隊や警官の奮戦がなければ、死者は数えきれないほどなっていたであろう。
俺と広人も2人で8体の《神兵》を倒すことに成功した。
およそ100体ほどで攻めてきた《神兵》たちの全滅を確認したときの街の様子は悲惨なものだった。
絶望に肩を落とすもの、現実から目を背け自殺を図るもの、険悪な雰囲気が漂い、今にも発狂して暴れ出すような者が現れると思われたその時、1人の男が空気を変えた。
「陸上自衛隊 第一普通科連隊 《連隊長》 真田幸隆 」
と名乗ったその男は、人々に自衛隊が指定した区域にいる限り、絶対の安全保障と1か月以内の練馬区解放を約束した。
そこからの動きも素晴らしく、自衛隊の練馬駐屯地周辺を安全保障区域とし、区域内の《神兵》の殲滅、人々の迅速な移動を補助し、生活環境をある程度安定させるなど、思わず賞賛の言葉を贈らなければならないほどだった。
その後、パニックが収まり、生活が安定し始めると、いくつかの問題が判明した。
1つ目は、どうみても人口が合わないことだ。練馬区の人口は約72万人とされているが、あの日の侵攻での死者を含めても、5万人ほどしかいないのだ。消えた人々は、23区外に無事に脱出しているのか、はたまた、もうこの世にはいないのか、確認する手段は俺たちにはない。また、消えた人々の中には、練馬区長や自衛隊第一師団長なども含まれていて、現在この区の防衛は、例の真田さんに任されている。
2つ目は、地形が少し変わっていることである。自衛隊の偵察部隊の調査によると、練馬区役所の場所は、完全に変わっていて、今も探索中だということだ。そのほかにも、以前との変化がみられる場所がたくさん確認されている。
3つ目は、イザナギに渡された《文明の利器》が現在科学の技術を凌駕する性能だったことだ。利器の使用法は実に簡単で、武装の意思に反応し、自動で換装してくれ、解除も軽く念じるだけですぐに解除する。
また、装備は基本実体の持っているままだが、装備を登録し、利器の中のメモリーに保存すれば、武装中なら、いつでも装備できるようになる。また、自衛隊は、それをなんとか解析し、SDカードに自衛隊の武器を保存し、無償で配布することで利器にSDカードを入れれば、だれでも自衛隊と同一の武装をできるようにした。それにより、自衛隊と共に解放を目指す一般人も現れ始めた。
練馬区の約4万5000人中の95%は、安全保障区域で今までどうりの生活を取り戻すため、苦労している。生活が安定し始めているのはすべての人々が協力し合っているからであろう。
そして、残りの5%は、練馬解放を目指し、日々奮闘している。そのうちの6割は自衛隊で、安全保障区域の防衛のため、半分近くが駐屯地に残っている。残りの4割は、我々民間人兵たちだ。ほとんどは、消防隊や警官だが俺や広人のように命知らずのバカも何人かまじっている。
あの日から、3週間が経過。約束の練馬解放まであと1週間を切り、今日、駐屯所で真田が緊急会議を開くらしい。
安全保障区域から1kmほど離れたところで俺は神兵と対峙していた。すでに片足を切り落とした奴との間合いを測り、呼吸を整える。そして、一気に間合いを詰める。
体に、何故か英語ではない外国語で、ヒルビーと刻まれた目の前の神兵の装甲の間を祖父の刀はいとも簡単に切り裂き、神兵の首を飛ばすことに成功した。からくりらしく、血液の一つもでないそのがらくたには目もくれず、くるりと振り返って、そっとつぶやく。
「帰るか...」
俺はゆっくり駐屯地を目指して歩み始めた。