Episodio1 fine di inizio―終わりの始まり―
「なあ、このアニメ会社の場所教えてくんない?」
突然声をかけてきたその男は見たところ俺と年齢はそう変わらないように見える。
失礼なデブだ、と思いながら、70㎏はありそうな男の差し出してきたパンフレットのアニメ会社名を見る。
知らないならそのままスルーすることも出来たが、あいにく俺が行こうとしている駅への通り道だ。
少しばかり悩んだが、良心なる物が俺にも少しはあったのか、
「OK。途中までいっしょに行こうか」
などという俺からすれば親切心の塊のようなセリフが口から出た。
「サンキュー。俺は福島広人。17歳だ。よろしくな!」
「俺は椿創也。16歳だ。よろしく」
と、互いに挨拶をし終えると俺たちは歩き始めた。
「へぇー。じゃあ創也はここの人じゃないのか」
いきなり呼び捨てにしてくる隣のデブに顔をしかめながら、今度は俺も対抗するようにこう言ってみる。
「俺は爺さんの使いで埼玉からわざわざ練馬まで来たんだぜ。逆になんで広人は俺を地元民だと思ったんだよ」
と、さりげなく呼び捨てにしてみたが、相変わらずニコニコして気にもしていないようだ。
「だって、シティーボーイオーラが出てたんだもん」
などと、意味不明な答えを返してくるが、それに似たようなことをたまに言われることがあるのでスルーして、
「背中にでかい荷物持ってるやつのどこからシティーボーイオーラが出てくるんだよ」
と、適当に返しておく。
「そういえばその荷物何なんだよ?」
と、俺の背中を指さして聞いてくるので、多少面倒だが答えてやる。
「うちの爺さん居合抜きやっててさ。たまに刀の修理をこの辺に住んでる知り合いに頼むんだよ。で、そのための使いがいつも俺ということだ・・・」
自分でもオーバーかというぐらい、こんな感じで疲れてるから道案内はほかの人に頼んでくれよ・・と、訴えてみる。だが、重そうな荷物を背負っている人に道案内を頼むような輩にそんなことは通じない。
「じゃあ、これはモノホンの日本刀かよ!スゲー!」
とこちらの話の半分は聞いていない様に目を輝かせている。
「じゃあ創也も居合抜きできんの?見せてくれよ」
「俺はチャンバラみたいのしかできないよ。爺さんが厳しくて練習についていけなかったんだよ」
と、あまり触れたくない自分の話題になってしまっていたので、あわてて話題を変える。
「広人はなんかやってんのかよ。スポーツとか」
と、絶対に運動できないおデブ体型を見ながらにやりとしながら聞いてみる。
「俺はなぁ~タンクなんだぜ!」
自慢げにそう言い放つデブに驚きを隠せない。タンクってなんのスポーツのポジションだ?ラグビーか?いや、アメフトの可能性もあるな、と必死に考えてしまう。俺にデブはさらに自慢げに言う。
「今やってるCFOっていうゲームじゃ《動く要塞》って言われてるんだぜ。どうだすごいだろ」
は?、さっきまで人を完全に見た目で判断していたことを反省してた時間を返せよ、と言わんばかりの衝撃だった。
やっぱただのデブゲーマーかよ、と自分の第一印象が間違っていなかったことに少し安堵して、ちょうど見えてきた目的地を指さし、
「ほら、見えてきたぞあそこがTアニメーションだ。あとは分かるよな。それじゃ、縁があったらまた会おうぜ」
と自称動く要塞君に別れを告げてくるりと背を向ける。
すると、
「ありがとな創也。マジ助かったぜ。また今度飯でもおごらせろやな!」
と、背後から声が聞こえたので軽く手を振るそぶりをする。
デブの歩くペースに合わせたから少し遅れちっまたな、と少し早歩きに再び歩き出そうとしたその時、
世界が歪んだ、というべきか。目の前の景色がめまいを起こした時のようになる。
直後、ふわり、という浮遊感に襲われ、目の前の景色が一瞬で切り替わる。
周りを見渡すと、俺と同じような現象に襲われたであろう人々がざわざわとざわめき立っている。
そして、空を見上げると神の御威光というような光が天から差し込んでいる。
その光と共に天から舞い降りてくる、とてつもなく大きな人影を見た瞬間、俺は悟った。
俺の日常はここで終わり、ここから非日常が始まるのだと―――――