第3話/迫る怪物とデビュー
刑事、流星全はある事件をきっかけに、謎の組織、UCTを知り、その中の文明発展阻害班、CDI-Squadの一員となってしまった…。
選抜理由、活動目的、未知の特殊装備。謎だらけの中、全はトレーニングを積み重ね続けているのである。
奥日高村
午後9時半、日高平野じゅうに、パトカーのサイレンが鳴り響いている。畦道には3台ほどのパトカーと30人ほどの村人が集まっていた。
田んぼの稲が直線約9メートルほど倒れており、トラクターも田んぼのど真ん中にある。
「駐在さんどうしたのぉ?」
女性が駐在員に声をかけた。
「広岡さんが稲刈りの途中で居なくなったて。」
「え?」
サイレンがうるさく、女性はほとんど聞こえなかった。
「広田さん居なくなったて!」
駐在員は耳元で大きく声を出した。
「広田さん⁉︎」
女性は駐在員に劣らないほどの大声を叫んだ。
すると、今度は水道局の車が畔道にとまった。
「駐在さん。なんか、水道から汚物が出てきたってので来たんですけど、どうしたんです。」
「こっちも行方不明の人いててんてこ舞いなんよ!」
ヒヒッ…
サイレンの赤い光の陰で、一人笑っている男がいた。
黒いロングコート、黒いアタッシュケース…
黒く染まった男がいた。
キシャー…
水路から何か聞こえた。
トレーニングが始まってから早2週間。
バシューン!
ラインブラストの反動に負けることなく、全は的を黒焦げにした。
「やりましたね全さん!」
「あぁ。」
喜一の端末が鳴った。
「…こちら胡竜です。流星さんにオペレーションルームで顔合わせをと言っておいてください。では。」
胡竜からだった。
「全さん!オペレーションルームデビューですよ!」
オペレーションルーム
喜一が入り口で全に端末を渡した。
「これが無ければ入れないんです。かざしてみてください。」
全はドアの前にかざした。
ドアは横に開いた。
「ようこそ、CDI-Squadへ!えーと…名前忘れたけどようこそ!」
妙にハイテンションな女、蘭留が出迎えた。しかしハイテンションに出迎えたのは彼女だけであった。
「ほら迅も渚ちゃんも一緒に!」
2人ともガン無視だ。
「今出迎えたのが巽蘭留さんです。あなたと同じ実働担当です。そして、コンピューター使っているのが浅見渚さんで、本読んでるのがこの前顔合わせた迅さんです。」
テンションが思いっきり下がった蘭留に変わって喜一が全に説明した。
「そう、なのか…」
微妙な空気だ。
「そして、このCDI-Squadにもボスがいるんですけど今居なくて…」
「いるぞ。」
立派な正装の男がオペレーションルームに入ってきた。
「私は、宮内俊介。CDI-Squadの班長だ。流星 全くんか、よろしく。」
ボスこと宮内俊介は全と握手を交わした。
と、その時だった。
「本部より緊急の入電。エリア43-B-12、奥日高村でι(イオタ)-ブロブヒレンが原因と思われる行方不明事件が発生した模様。直ちに処理せよ。とのことです。」
渚が指示を出した。
「何?では、迅…そして全!全にとっては新人研修も兼ねた重要な事件だ。向かってくれ。」
「ボス、全くんがですか⁉︎」
蘭留が聞いた。
「うむ。彼は訓練をし、任務を遂行できると認められたからここにいるのだ。行け!」
「了解です…」
ウェイティングルーム
全は迅に案内されて入ったこのウェイティングルームには、たくさんの武器と一つのドアがあった。
「なんだこのドア?」
「触んないほういいわよ。」
部屋の上部のスピーカーから蘭留の声がした。
「ι-ブロブヒレンということは、寧ろラインブラストだけのほうがいいな。」
迅がいきなり喋った。全は迅をジーっと見た。
(喋るのか…喋るとこ一度も見てなかったからなぁ…)
「フン!」
迅は目を背けた。
「で、ι-ブロブヒレンって、どういう…」
全は蘭留に聞いた。
「簡単に言うと…生きてるスライム。しかも、肉を食べて成長するの。」
「……。」
渚から連絡がきた。
「あと1分で出動です。準備は終わらせてください。」
「行くぞ。」
「ゲートオープン。」
奥日高村
ある廃屋のトイレのドアが開いた。
「臭っ!」
ポットン便所のため、臭さが下から湧いている。
と、いつの間にか迅は廃屋からでていた。電柱の住所を見た。
「無事、奥日高村にワープできました。」
オペレーションルームに報告している。
「おい流星!早く出ろ!」
迅は全を怒鳴り、全は急いで出てきた。
「で、これから何処に?」
全は迅に聞いた。
「まずは現場の田んぼを見に行く。どうせ野次馬が群がってるだろうがな。」
「はぁ。」
田んぼ
迅の予想通り、野次馬が集まり、テレビ局の記者が取材している。
「平日の昼間だってのに暇やってるなぁ野次馬は。」
全はそう呟いたがそれはそうだ。
稲刈りは数日前にほぼ全ての農家が終えており、今回被害に遭った広田一男は他人のトラクターを借りており、最後に回った農家だった。
という警察官のメモを、全はごくごく普通に見ていた。
「ちょっと!なにやってるんですか⁉︎」
警察官が全を怒鳴った。
「いやぁちょっと待ってください手帳が…。」
そう、他の警察官のメモを見て調査をより進めるのが全の刑事時代の癖であった。
「次見たら逮捕しますよ。」
割と軽めに言われた。
迅は側溝を見ながら歩いていた。
「おい、何処に!」
全は迅を追いかけた。
迅は冷静に喋った。
「ι-ブロブヒレンはおそらくこの水路を通って別の場所へ逃げた。この跡でわかる。」
跡、というのは非常にネバネバし、コンクリートが若干溶けている跡であった。
「おい流星、これ写真に撮っとけ。」
「はぁ。」
全は端末のカメラを使い、写真を撮った。
すると、突然渚から連絡がきた。
「写真を撮りましたね。すぐに調べておきます。」
全は少し戸惑った。
「え…なんで写真撮ったことを?」
「この端末は常に監視されています。このことは忘れずに。」
連絡が切れた。
「…あれ?」
目を話した隙に、迅が思いの外離れてた。
「ちょっと待てよ!」
全が迅を追いかけた時だった。
「うわぁぁぁぁ!」
先ほどの警官の悲鳴が後ろから聞こえた。
全は急いで駆け出した。
「どうしたんですか!」
近くにいた人に聞いた。
「警官さんが…警官さんが…。」
少しパニック状態になっている。
ボチャン!
排水口から何か落ちた音がした。
全は周りを見渡した。
すると、約300メートルほどの距離に「日高総合浄水場」と書かれた建物があった。
(排水口から落ちたものがι-ブロブヒレンなら、排水路を通って浄水場に行くに違いない。急がないと!)
「…あいつ何処に行くんだ?」
離れていた迅も全を追った。
日高総合浄水場
全はドタバタと入ってきた。受付係も困惑した表情になっている。
「どうしたんですか?」
「……水路に、どうやらスライム状のものがいたらしくて、排水口からこっちに向かってるかもしれない…。」
受付係はさらに困惑した。
「……はい、上に報告しておきます。」
と、受付はさらっとかわしたと思った。しかし。
「早くしろ!」
全は急に口調が変わり、受付係を怒鳴りつけた。
「はい!」
受付係は急いで駆けていった。
「ハァー………。」
全は疲れていた。
その時、何人かの悲鳴があがった。
「誰かー!」
「死にたくない!」
「助けてくれー!」
そう声がしたが、すぐに消えた。
全は何か得体の知れない気配を感じた。
ブュゥイーン!
窓口のドアから、泥のような、グチャグチャのスライムのようなものがはみ出してきた。
これがι-ケロブヒレンなのか…
全は浄水場から出ようと駆け出した。
ブイャン!
だが行く手を阻むようにι-ブロブヒレンが回り込んできた。
ブリョオオオオオオオン!
うめき声をあげて四肢を生やそうとしている。
全は下がることしかできなかった。
すると出来上がったばかりの腕が全を掴んだ。
「ぎゃは!ぐは……。」
全の首から下は、今腕の圧力で潰されそうになっていたのだった。
つづく