第2話/導く胡竜と宮川俊介
警視庁の刑事、流星全。
2015年9月、ある研究所の襲撃事件を追っていた彼は、犯人が人間で無く、アンドロイドだということに気づく。
犯人をパトカーで追跡する中、男女が乗るオープンカーが全たちの邪魔をしてきた。
全は犯人を見失い、オープンカーを降りた男女を追ったが…
「あれ…?」
気がついたら警視庁に戻っていた。
どういうことだ?
警視庁からこのベイエリアの距離は6kmも離れている。
「なんだこれ?」
ここから出ようとドアを開けた。
「いらっしゃい!」
定食屋が目の前にあった。
全の行きつけだ。
「今日は、アジフライ定食とトンカツ定食だよ〜。」
「………。」
全は店を出た。
ビューッ…
砂嵐が舞った。
そこは一面、砂漠だった。
来たか、ちょうど良い……
誰かが全に囁いた。
うっ……………………………………
…………………………………ハッ!
「気がつきましたか。」
全は気がついたらベッドで寝ていた。
「UCTの胡竜です。昨日郵送した概要は読んでいただいたでしょうか。」
UCT…概要…
全には見当もつかなかった…
いや、何かひっかかった。昨日の封筒だ。
「ここはUCT。一応は公的機関です。あなたの本来所属していた職業から強制的に辞めさせる事ができ、一定期間こちら側の構成員となります。これはUCT上層部が定めた規約上取り消せないのでご了承ください。ご親族、職業先等には説明をしています。安心してください。」
胡竜は全の事を気にかけていないだろうと感じさせるほど早口で説明した。
「…何が、どうなってるんだ?」
全は胡竜に聞いた。
「あなたは本来、明日付けでCDI-Sqadに配属される予定でしたが、あなたがジャンプし、意空間に飲み込まれたことによって、急遽我々が救出したのです。請求はしませんがかなりのことをしてしまったということは知っておいてください。」
どうやら全は何かをやらかしたらしいが、覚えておらず、全にとって的はずれな答えであった。
「そういうことじゃなくて、俺の親とかにはどういう風に説明したかとかあと…とにかくどうなってるの?」
すると胡竜は衝撃的な説明をした。
「説明ですか…流星全さんは事件を捜査中に交通事故に巻き込まれ意識不明の重体。本人は面会拒否をしているため病院の名前はお伝えできません。と、いう説明で一貫しています。」
「…⁉︎そんな、なんの為にそんな嘘を!」
全は胡竜に問い詰めた。
「………………。では、2時間後にまたお邪魔します。しばしお待ちを。」」
胡竜は急に話を切って部屋を出て行った。
東京団地倉庫
時刻は午後5時半を少し過ぎた頃だった。
あたりは暗がりになり、天候も曇りであった。
トラックが道端に停められている中に、積荷のコンテナが外されたトラックがあった。「東京ガス」と、側面にペイントされている。
そこから男は助手席からアタッシュケースを取り、トラックから降りた。
あのアンドロイドの男だった。
男はエレベーターを使い、3階に登り、右、左と見て左へ曲がった。
男はアンドロイドではあるが、いや、アンドロイド故とも言えるかもしれないが、何かに反応してしまった。
「ここまでだ。」
アンドロイドの背中に、あの男が銃を突き出した。
「レベル1でもどうせ壊れるだろうが一応、5にしておくか。」
ズギュン…!
この時、鈍い銃声はならなかった。その代わりに鈍い電気が空間を一直線に流れた。
アンドロイドは瞬時に機能を停止した。
「…終わった?」
無造作に置かれた荷物の影に隠れていた女が現れた。
「いや、大元がわかってない以上、終わってはない。」
「あぁ…というか中のデータって大丈夫なの?」
「レベル5で動源をショックで止めただけだ。多分大丈夫だろ。」
男はアンドロイドの眉間を触れ、それを押した。すると、額が縦に割れてカードらしきものが出てきた。どうやらこれにデータが記録されているようだ。
すると、女のスマホが鳴った。
『こちら山岡です。今回のミッションはデータ取得までとします。現在座標特定をしているので帰還準備をお願いします。』
彼らの本部からだろう。
「とりあえず、このアンドロイドはどうするの?」
女は男に聞いた。
「データがあればなんとかなる。ほっとくぞ。」
「ほっとくって…まぁよくよく考えたらその方いっか。」
『こちら山岡です。座標特定完了しましたいまから1分48秒後に先程あなた達の使ったエレベーターに意空間が発生します。」
また連絡がきた。
「早っ、待ち時間込みだったら遅れるよ!」
女は時間がない事に焦った。
「うるさい。行くぞ。」
男はとりあえず上ボタンを押してエレベーターを待った。
『3階です。』
ベッドルーム
2時間が経った。
全は状況を鵜呑みにできないまま、トレーニングウェアに着替ていた。
「トレーニングを始めます。付いてきてください。」
胡竜が部屋に入り、トレーニングルームに連れて行こうとした。
「ちょっと、ちょっと…聞いてないことが。何のために自分が選ばれて、何をするのかってことを…」
全は、部屋を出る前に胡竜に聞いた。
「……………何のために選ばれたかは、時期に分かります。そして何をするのかというのは…人から人を守る、そう考えた方が一番良いと私は思います。行きましょう。」
トレーニングルーム
長い廊下にあるドアを開けると、1人の青年が全と胡竜を待っていた。
「彼は山岡喜一君、あなたの配属されるCDI-Squadのアナライズ担当です。山岡君、こちらが流星全君です。」
「よろしくお願いします!」
随分と物腰の低い青年だ。
「僕が教官ですか…なんだろ、緊張するなぁ…よろしくお願いします!」
喜一は礼をしっかりとした。
「………………………。」
迅は全に目も合わさず、時々睨みつけるだけで挨拶も何もしなかった。
「それでは、まずは基礎訓練からです。山岡君が付き添ってくれます。疾風君は…捜査に戻っても良いです。まだ終わっていないはずです。」
「はい…。」
迅は、何かボソボソと声を出しながらトレーニングルームを出た。
「それじゃあ、まずは屋外で訓練をやるので、ちょっと時間かかりますけど、移動します。」
すると、喜一は何か端末を出した。
「浅見さん。トレーニングルームから訓練場へジャンプしたいので準備お願いします。」
全には何を言っているかサッパリ解らなかった。
「準備OKですか。分かりました。」
喜一は、トレーニングルームを出ようとした。
「…何やってるんですか流星さん。行きますよ。」
「あ…そういうことか。」
全も駆け出した。
「このカード、持っていて下さい。」
喜一は端末からカードを取り出し、部屋を出ようとした全に渡した。
「先に出てください。」
全は言われるがままに、ドアを開けた。
訓練場
ヒューッ……………
さっき開けたドアは、廊下につながっていたはずだ。それなのに急にこの更地だ。
全は後ろを振り向いた。
後ろには、閉ざされたドア“だけ”と喜一しかいなかった。
「説明忘れていましたね。これもUCTでしか使用できな技術です。ドアパスシステムって言うんです。別座標にジャンプする際、現在地と目的地のドアをアナライズ担当が特定します。この時、現在地のドアの向こうに“意空間”という空間が発生します。意空間というのはその名の通り意思が作用する空間です。脳内で何か食べたいと思えば食べ、何か小説を読みたいと思えば読み、寝たいと思えば寝てる空間…とでも言っておきます。それでも、人は脳内で数え切れない意思が動いています。そうなると意空間が意思を持つんです。だからジャンプのみにしか使われないんです。その“ジャンプする”という風に人に暗示をかけるためにドアを入り口にしたんです。そうしてリスクを減らしたうえでこのカードを使うってことです。」
更地ゆえの強風で全く喜一の声が聞こえない上に意味不明な用語が多く飛び交う長い説明だったため、全は聞いていなかった。
すると、銃を構えた男と的が見えた。
バンッ!
更地じゅうに銃声が響いた。
「あれ、疾風さん居たんですか?任務から帰ったばかりなのに。」
喜一が軽く話しかけたあたり、知り合いのようだ。
「流星さん、彼が実働担当の疾風迅さんです。」
(…なんかどっかで見たことあるなぁ。)
全は彼を見てそう思った。
そう、彼こそ全たちの捜査を邪魔した男なのだ。
「あの、前どっかで…」
「………………………。」
迅は全を睨みつけるだけで何も言わなかった
「…とにかく、見ていてください。」
喜一が全にそう言った瞬間。
バンッ!
バンッ!
バンッ!
迅は的を連続で撃った。
どれも8点や9点だ。
「疾風さん。ラインブラストを使ってもらえませんか?」
喜一が話しかけ、迅は別の銃を構えた。
ズシュゥン!
今、迅の構えていた銃は、確実に射撃とは違う音がした。
電撃、と言うべきか。的は黒焦げになっている。
「このラインブラストは、電撃を調節することによってたんなるスタンガンから衝撃波まで15段階にレベルとして操れる、CDI-Squadの専用銃です。」
喜一は全の方を向いた。
「これ、やってもらいますよ。」
警視庁総監室
「流星総監!ご子息が、先ほど重傷を負って病院へ搬送されたそうです!」
流星総監。そう、全の父だ。
「そうか。分かった。早く復帰しろと伝えてくれ。」
弱冠投げやり気味に、それだけ言った。
「…は!分かりました。」
部下も少し動揺しながら部屋を出た。
(ご子息…か。)
訓練場
全は、ラインブラストを構えていた。
ズシュゥン!
閃光は的を大きくずれ、全は吹き飛ばされた。
「はぁ…」
迅は大きくため息をしてドアを開けて戻っていった。
「…なんなんだ?」
全は小首を傾げた。
「結構話しにくいんですよね…彼。」
CDI-Squadオペレーションルーム
迅はオペレーションルームに戻った。
「おかえり。新人に会ったでしょ?」
シュークリームを食べていた女が話しかけた。
彼女が、巽蘭留。迅と、新人である全と同じ実働担当だ。
「…さっきドアに飛び込んだサツのバカだった。」
「え…嘘ぉ⁉︎」
迅も蘭留も、あの現場にいたのだった。
「流星全さんですよね。警視庁の刑事で、警視総監、流星荘司の息子。典型的なボンボン…かもしれません。」
いま鋭い解説を行ったのが、喜一と同じアナライズ担当の浅見渚。
「で、ボスは何処に行った?」
迅は渚に問いかけた。
「さぁ、何かしら極秘の会議を開いている…かもしれません。」
地下最深部
何かと、誰かがしゃべっている。
「何?ZONE-Fに新人が侵入した?」
「意空間を移動した際に侵入したらしい。」
「ということは、シャルドが手招きをした…?」
「シャルドは消滅したんですよ。私ですらこの状態だ。もう復活の兆しはなど無いのだ。」
「となると、ZONE-Fの住人である可能性も無いと…」
「うむ。命一つ創るだけでもそこそこの力が必要だ。」
「では、Battle-Squadの調査はどうします?」
「行かせるだけならな。高杉に伝えておけ。」
「はい。」
誰か。その名は宮川俊介。
CDI-Squadの、ボスである…
つづく