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無色騎士の英雄譚(旧題:無色騎士 ニートの伝説)  作者: 浦賀やまみち
第十章 男爵 百騎長 結婚騒動編
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第04話 心の旅 苦渋




「ほら、泣かないの。あぁ~あ……。せっかくのお化粧が台無しじゃない」

「だ、だって……。」


 すっかり冷めきってしまったテーブルの上の紅茶。

 それを飲んで乾いた喉を潤しながら様子をチラリと窺えば、おっさんも同様に冷めきった紅茶を飲んでいた。


 出入口の扉が閉まり、サビーネさんと姫様の声が扉の向こうに消える。

 それを合図にして、お互いが示し合わせたかの様にティーカップを呷り、空になったそれをテーブルに戻すと、おっさんは語り始めた。


「小僧……。初めて出会った時、儂はお前に仕えよと言った」

「ああ」

「あの時の儂の考えを教えると……。ミルトンとの戦いへ行く前、領内に新たな村を開拓する案が持ち上がっていてな。

 お前をその村の猟師にして、頼りになる者を隣に置き、十年も経ったら陪臣に取り立てて、その村を任せるつもりでいた。

 しかし、お前と旅をしてゆく内、その考えが変わった。……いや、変えさせられたと言うべきだな。

 お前の才は国家の才だ。小さな村ではお前の才は収めきれん。国という大きな器を与えてこそ、お前という男は才を存分に注ぎ、その味を発揮するのだと」

「買い被りし過ぎだろ?」


 たまらず失笑が零れる。

 俺を高く評価してくれるのは嬉しいが、背中が痒くなる様な過大評価をし過ぎるのは困る。

 しかし、おっさんの表情は真面目なままだった。失笑を苦笑へと切り替える。


「四年前……。お前が兵役へ向かった直後、トーリノ関門が落ちたとの報が王都に届いた時、儂はもう駄目だと思った。

 あいつは何の心配も要らんと笑っていたが、儂は居ても立ってもいられんかった。

 形振り構わず、持っている全ての伝手を使って、援軍を北へ向かわせると、儂自身も出陣する為の第二陣を編成した。

 ところが、ところがだ。さあ、いざ行くぞと王都を出発しようとしたところに伝令が現れ、勝ったと言うではないか。

 儂は有り得んと考え、誤報と判断した。

 なにしろ、援軍に向かった出発日時と行軍にかかる日数を考えたら、どう考えても早すぎるからな。

 しかし、翌日に届いた第二報も、その次の日に届いた第三報も戦争終結と我が国の勝利を伝え、これは間違いないと判断して驚くしかなかった」


 当時を思い出しているのだろう。

 おっさんは語りながら次第に興奮してゆき、その声に熱が籠もり出す。


 俺もまた当時を思い出す。

 あの時、ジェックスさんが同じ内容の戦争終結宣言を三日連続で王都に送っているのを見て、何がしたいのだろうと首を傾げたが、その理由が今更になって解った。

 おっさんが今語った様に一度や二度の報告では誰も信じないと考えての行動だったのだ。思わず苦笑が深まる。


「当然、儂は一人の武人として、並ならぬ興味を覚えた。

 儂自身、どう足掻いても勝てないと判断した戦況から如何にして、誰が勝利を成し遂げたのかをな。

 それこそ、誰の唾も付いていないのなら、儂が是非とも貰ってやろうとさえ考えていたくらいだ。

 そして、二週間後だったか。戦いの詳細が王都に届いた時、儂も驚いたが、陛下を含めた王宮の誰もが驚いた。

 なにせ、成された作戦の奇抜さもさる事ながら、それを成し遂げたのが騎士になったばかりのお前だったのだからな。儂はもう愉快痛快で仕方が無かった」


「いや、あれはさ。みんなが諦めずに協力してくれたからこそであって……。」


 そこへおっさんの大絶賛も加わり、くすぐったさはマックス。

 ますます苦笑は深まり、たまらず反論を挟む。


「そう、それだ。儂が何よりも驚いたのは……。

 今も言ったが、あの時のお前は騎士になったばかり。新兵のお前より経験も、実績も、階級も上の者は幾らでも居た筈なのだ。

 しかし、それ等の者達を従えて戦い、お前は見事に勝利へ導いている。それは儂が三年間の兵役の中で少しでも鍛えられたらとお前に期待していた将器だ」


「違うって……。俺を評価してくれるのは嬉しいけどさ。それもレスボスの名前が有ったからで……。」


 ところが、おっさんの買い被りは止まらない。

 もう苦笑を通り越して呆れてしまい、肩をガックリと落としながら溜息をこれ見よがしに漏らす。


「ああ、最初のきっかけはそうだったのだろう。

 だが、小僧。平時ならいざ知らず、戦場で家名なんてモノは砂上の楼閣よ。もう逃げるしかない最悪の状況なら尚更だ。

 ましてや、レスボスの名は持っていても所詮は庶子に過ぎん。縁も無ければ、恩も無い。

 しかし、お前は騎士達や兵士達、街の住人達の全てを従えて、戦う一方で見事な撤退を成功させている。これを将器と言わずして何と言う」


 だが、その半ば挑発した態度すら飲み込み、おっさんは尚も褒め称えた。

 正しく、おっさんの言う通りだった。反論が出来なくなり、表情を素に戻して口籠もる。


 時たま、当時を思い出して、自分でも感じる。

 藁にも縋る思いだったに違いないが、全員が不満を漏らさず、俺によくも従ってくれたと。


 無論、小さな不満は幾つも有ったのだろう。

 それ等を影でジェックスさんが苦労して宥めてくれていたのも理解している。


 しかし、たった一人でも声を大にして不満を叫んでいたら、あの苦境を乗り越える事は絶対に出来なかった。

 俺がラクトパスの街へ到着した時点で本来なら街を守る筈の代官とその兵士達は既に逃げており、街の住人達の人数の方が圧倒的に多かった。

 最悪の場合、街の住人達が反乱を起こした挙げ句、俺や騎士達の身柄と引き換えに敵国へ降伏していた可能性も十分に有ったのだから。


「この際だから聞きたい。あのお前が執った奇策、どれくらいの成功を見込んでいた?」

「そうだな……。作戦の要となった『逆籠城戦』は七割と言ったところか。

 あれは援軍が到着するタイミングを誤らなければ、ほぼ成功したも同然だった。

 しかし、最初の『空城計』は一か八かの賭け……。本当に奇跡と言うしかない。

 もちろん、俺なりに自信はあった。敵の司令官だったバラリス卿の性格を考えたら、その日の内に攻めてくる可能性は極めて低い。

 だが、バラリス卿は信じられても、その部下達は解らない。

 欲を掻いた馬鹿が一人でも居て、抜け駆けをして攻めてきたら、アウト。

 バラリス卿の判断に不信を持ち、斥候を独自に送り込んできたら、これもアウト。

 要するにバラリス卿の統率力の高さに助けられた訳だが……。やっぱり、何だかんだで運だろうな。もう一回、あれをやれと言ったら絶対に無理だ」


 おっさんの質問に応えながら、『空城計』を演じていた時の恐怖と不安がまざまざとぶり返してくる。

 今や『トーリノの奇跡』と呼ばれている三年前の戦いは正に針の穴を通す様な奇跡が幾つも積み上げられた結果に成し遂げられたもの。何かがたった一つでも欠けていたら成功はしなかった。


 吟遊詩人達によって、王都などの酒場で歌われている英雄歌の中で俺は自信に満ち溢れた凛々しい若武者ぶりを魅せているが、その真実は大きく違う。

 押し付けられたとは言え、皆の前では指揮官らしく気丈に振る舞ってはいたが、その実は恐怖と不安にビクビクと震えまくっていた。緊張が過ぎて、何度も漏らしたのは俺だけの秘密だ。


 それを語るのはさすがに恥なので語れない。

 だが、思わず引きつった顔に苦笑を再び浮かべると、その一端をどうやら理解してくれたらしい。

 おっさんが腕を組みながら神妙な面持ちでウンウンと頷く。


「なるほど……。」

「解ってくれたか!」

「うむ、改めて確信した。豊かな才が有り、将器も有って、武運にも恵まれている。

 お前こそ、ティラミスの婿に相応しい。お前なら儂の跡を、オータク家と南方領を任せられる」

「えっ!? ……何だって?」


 これで誤解が解けたかと思いきや、そうは問屋が卸さなかった。目を喜びに輝かせたのは一瞬だけ。

 おっさんの買い被りは話し始める前より酷くなってしまい、思わず茫然と目をパチパチと瞬きさせて我が耳を疑う。


「頼む! この通りだ! ティラミスの婿となって、儂の跡を継いでくれ!」

「ちょっ!? や、止めろって!」


 その上、更なる衝撃が俺を襲う。

 おっさんは徐に立ち上がると、座っていたソファーを後ろに押して、その場に空間を作り、何をするのかと思いきや、いきなりの土下座。


 ここに至り、ようやく気付いた。

 姫様とサビーネさんをこの部屋から退出させたのはこの為だったのかと。


 今更の説明など不要だが、おっさんはインランド王国南方領を統括する筆頭貴族であり、この国の重鎮中の重鎮である。

 その高い武名は他国にも轟き、おっさんが率いるオータク侯爵家陪臣団の『赤備え』は恐怖の代名詞にもなっている。


 そう、おっさんが頭を下げる必要が有るのは原則的に国王のみ。

 侯爵の身分でありながら、王妃と公爵家当主ですら対等であり、それ以外は頭を下げる必要が基本的に無い。


 そのおっさんが土下座を行ったのだから、驚きを通り越して焦るしかなかった。

 慌ててテーブルを乗り越えて、その頭を上げさせようとおっさんの肩を持ち上がるが、それは固い意志を表すかの様にピクリとも上がらない。


「儂には息子が三人居り、それぞれが跡継ぎとして十分な能力を持っていた!

 しかし、才能、将器、武運! その内の二つは持っていても、どれかに欠け、三人全員が戦場で命を落とした!

 だから、儂は決めたのだ! 才能、将器、武運、その三つを兼ね備えた者が儂の前に現れたら、その者をティラミスの結婚相手にすると!

 いや、儂がどう足掻いてもあの娘より先に逝く以上、その三つを兼ね備えていなくてはならんのだ!

 儂はあの娘に幸せになって貰いたい! この歳になって、家族が一人しか居ない寂しさを味わって欲しくないのだ!

 だが、その三つを兼ね備えた者など、そう簡単に見つかる筈が無い! あの子が物心着く前から探していたが見つからなかった!

 それでも、儂は諦めんかった! 妥協もせんかった! 絶対、何処かに居ると探し続けた!

 そして、お前を見つけた! お前は儂が課した試練を期待通りに……。いいや、儂が考えていた期待以上に応えてくれた! もうお前以外の誰かなど考えらん!」

「くっ……。でも、俺は……。」


 それは慟哭にも似た魂の叫びだった。

 実際、泣いているのかも知れない。おっさんの肩は微かに震えていた。


 俺にとって、おっさんは今の生きる道を示してくれた恩人。

 その恩人の泣き顔を暴露する事など出来ず、その姿を見ているのも辛く、おっさんの肩から外した手に握り拳を作り、天を仰いで瞼を力強く閉じる。


 また、恩人だからこそ、おっさんの願いに応えたかったが、俺にも譲れないものがあった。

 瞼の裏に浮かんだコゼットの笑顔が俺の首を縦に振らせない。


「コゼット嬢ちゃんの事なら心配は要らん!

 ティラミスもちゃんと納得している! 正妻の座は譲れんが、それ以外なら何の問題は無い!

 問題と言ったら、部下達の中に反対する声が多少は有るが、お前と直に接していれば、そんな声もすぐ消える! あとはお前の気持ち次第だ!」


 その苦労を承知しているおっさんは既に先手も打っていた。

 即ち、重婚の承認。前の世界での常識を考えたら信じられない観点を告げた。


 だが、この世界では男も、女も重婚が認められており、その人数が多いほど器量と財産力の高さを表すステータスシンボルにもなっている。

 その辺りの感覚が未だ馴染めずにいる俺にとって、どうしてもコゼットに対しての後ろめたさを感じてしまい、重婚を許可されても『はい、そうですか』と簡単に頷けない。


 アリサを手放しきれず、正式な妾にする時だって、随分と悩んだ。

 ネーハイムさん達からは『何故、そこまで迷うのか?』と不思議がられたほどだ。


「もう儂も六十半ばを過ぎて、七十も近い! 髪だって、白いものが増えた!

 嘗ての友人達は次々と先立ってしまい、もう残っているのはあいつだけだ!

 頼む! 儂に孫を抱かせてくれ! この目にティラミスの幸せを見ずして、儂は死ぬに死にきれんのだ!」

「おっさん……。そいつは反則だ。狡いぜ……。」


 激しく揺れ動く俺の心に刺さるトドメの言葉。

 それを上回る反論なんて有りはせず、もう頷く術しか見つかりそうに無かった。




 ******




「あ゛ーー……。」


 二日酔いの怠い身体を引きずる様に歩く。

 窓から廊下に射し込んでいる光の角度を考えると、今の時刻は昼前か、昼過ぎのどちらか。


 これほどの朝寝坊は久々だが、昨夜は明け方近くまで飲んでいたのだから当然だ。

 窓から顔を出してみれば、中庭は昨夜の宴の跡を未だ残しており、おっさんを含めた十数人がだらしない姿を晒して寝ている。

 それに比べたら、俺はちゃんと部屋に戻って寝たのだから随分とマシだろう。


 ただ、今朝は日課の鍛錬をとても行う気にはなれない。

 二日酔い特有の酷い頭痛に加えて、昨夜の夢見が悪すぎて、心がどんよりと落ち込んでいる。


 二年前、このバカルディ城へ兵役から帰ってきた時の記憶。

 その夢を繰り返し見せられる度、コゼットが責めている様な気がしてならず、こうなってしまうと今日一日が憂鬱で仕方ない。

 それも酷く疲れている時や今朝の様な二日酔いになる時を狙い、その夢を見せてくるからタチが悪い。


 こんな日は部屋でダラダラと寝て過ごすに限るが、その前に二日酔いの朝に必ず襲ってくる耐え難い喉の渇きを癒す必要がある。

 姫様と正式な婚約を交わして以来、この城に設けられている三階の自室から普段の二倍以上の時間をかけて辿り着いた一階の食堂。開け放たれているドアを潜ると、紅茶の香りが漂っていた。


「あっ!? おはようございます」


 その香りに釣られて項垂れていた顔を上げると、姫様が花を咲かせた様な満面の笑顔で出迎えてくれた。

 朝食を摂るにしては随分と時間が遅い。もしや、俺が起きてくるのをわざわざ待っていてくれたのだろうか。


 常に二十四脚が用意されている細長いテーブル。

 姫様が座っている上座に置かれているのは湯気の立つティーカップのみ。やはり待っていてくれたのだろう。


「おはよー……。」


 だが、そのせっかくの気づかいも今朝に限って言えば、余計なものだった。

 姫様の声どころか、自分が発する声すらも頭痛に響き、たまらず皺を眉間に寄せながら痛みを少しでも和らげようと両のこめかみを右手で強く掴む。


「さあさあ、お席に……。今すぐ、お茶を煎れてきますね」


 その様子に俺が二日酔いだと察したに違いない。

 姫様は心配そうな表情で席を静かに立ち上がり、俺の指定席になっている自分の隣の椅子を引いて、俺が座るのを待ち、上座側の左端の壁にかかるカーテンの奥に繋がる厨房へ足早に向かう。


「お願い。それと……。」

「フフ、うんと濃くですよね? そう言うだろうと思って、ちゃんと用意して有ります」

「そう、それそれ……。頼むよ。あ゛ーー……。」


 その背中を慌てて呼び止めるが、姫様は口元を右拳で隠すと、何でもお見通しと言わんばかりにクスクスと笑いながらカーテンの奥へと消える。

 普段なら、その絶対ににやけてしまう可愛らしい仕草も今朝に限っては効かなかった。ただ椅子に座っているのすら怠くて、テーブルに突っ伏して呻く。


 二日酔いに濁りきった思考の中、改めて感じる。

 姫様は容姿端麗で気立ても良ければ、愛想も良い。侯爵家の箱入り娘として育てられながらも素直に育ち、身分に対する偏見も持っていない。

 敢えて欠点を挙げるとするなら、身体が弱いせいか、食が細い為、身体も細くて、胸も薄い事だが、やっぱり俺には勿体なさ過ぎる相手だ。


 今だって、俺の椅子を引くのも、紅茶を煎れに行くのも、それは本来なら厨房に控えている筈のメイドさん達の仕事である。

 通常、姫様は身分に相応しい行動を取る。それがどんな些細な行為だとしても、それがメイドさんの仕事なら、それを行うのはメイドさん達の仕事を奪ってしまうと知っているからだ。


 なら、姫様はメイドさんを呼ぶ為のベルがテーブルに置かれているにも関わらず、メイドさんを呼ばなかったのは何故か。

 恐らく、ベルを鳴らしたら、その音が俺の頭痛に障ると感じての思いやりではなかろうか。


 元々、姫様は皆に優しいが、唯一の肉親であるおっさんにも、実の姉妹の様なサビーネさんにも、ここまで優しくは無い。

 その確固たる証拠として、中庭で寝ているおっさんは放置されたまま。これは自惚れでは無い筈だ。


 ところが、姫様と正式な婚約を交わして、今年で二年目。

 俺は姫様の想いに未だ応えておらず、キスをした事も無ければ、婚約者らしく甘く囁いた事も無かった。


 しかも、俺の自室がある三階のそのフロアを言い替えるなら、家族棟に他ならない。

 物置と化している空き部屋を間に挟み、それぞれの部屋の距離は離れているが、そのフロアに部屋を持つのは俺とおっさんと姫様の三人のみ。


 即ち、それが意味するモノは『夜這いにいつ訪れてもOKですよ』という保護者公認の合図。

 夜、夕食後の歓談が済んだ就寝の別れ際、姫様から熱っぽい眼差しを送られる事が多々有り、その度に俺は若さの暴走を必死に耐えていた。


 そうかと言って、すぐ近くに婚約者の部屋が有るのだから、アリサ達を部屋に呼ぶ事は出来ない。

 この苦しみが解るだろうか。誘惑を受けながらも誘惑に応えられず、その色々と溜まった鬱屈を発散させる為、アリサ達と会うには昼間の城下町でなければならず、それもまるで浮気をしているかの様にこそこそと隠れて会う必要があった。


「あはは! 君がそこまで飲むなんて珍しいね?」

「……あん?」


 そんな俺の苦悩も知らず、テーブルの対面から暢気な笑い声があがる。

 姫様の他に誰かが居たのかと苛立ちながら顔を徐に上げると、ジュリアスが目の前で紅茶を飲んでいた。


 しかし、ジュリアスはこの国の第三王子である。

 第一王女と第二王子の二人と比べたら、王族に相応しくない閑職に就いているが、その忙しさは俺を上回る。

 その多忙なジュリアスが王都から離れ、このバカルディに居る筈が無い。


「チェンジ……。どうせ、夢なら可愛い女の子を頼む。可愛い男なんぞ、要らん」

「そ、それが一年ぶりに再会する友人へ言う言葉かい?

 き、君が王都へ来ないから、僕の方から来たって言うのに……。ひ、酷いじゃないか……。」


 すぐさま顔をテーブルに再び突っ伏すと、対面から今度は震えた声が聞こえてきた。




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