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無色騎士の英雄譚(旧題:無色騎士 ニートの伝説)  作者: 浦賀やまみち
第九章 男爵 百騎長 領主奮闘編
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第02話 領内改革




「では、ご苦労様でした。来月もよろしくお願いします」


 会食から始まった会議が終わり、三人の男達が部屋を出て行く。

 彼等は『コミュショー』にある村々の村長。まだ三十代の若い者も居れば、五十代の白髪が頭に目立ち始めた壮年の者も居る。

 会議中、厳しい叱責を何度か行ってしまったせいか、その表情は一様に疲れ切っていたが、会議が終わった開放感に笑顔が晴れ晴れと零れていた。


 ファンタジーと言ったら、真っ先に浮かんでくるイメージはやっぱり剣と魔法だろう。

 次点が前の世界における中世時代のヨーロッパっぽい世界観。王様や王子様、お姫様が存在して、貴族と平民の身分格差がある社会か。


 では、三番目は何だろうか。

 恐らく、その答えは千差万別。勇者と魔王、モンスター、伝説の剣などなど、答えは様々なモノとなるに違いない。


 そうした概念の数々を照らし合わせてみると、この世界は正にソレだと言える。

 嘘か、真か、魔王と呼べる存在すら過去に三度も現れ、この大陸に多大な恐怖と破壊を撒き散らし、それを見事に打ち倒した勇者の伝説も一緒に残されており、その驚異を忘れてなるまいと大陸共通の年号にもなっている。


 しかし、これ等の概念の中、俺が持っていたイメージと違っていた点が一つだけ有る。

 それは二番目に挙げた世界観に関わる社会体制だ。


 国王とは絶対的な権力を持つ万民の支配者。

 そう考えていたが、国王は絶対者では決して無い。極論を言ってしまえば、国王とは同じ旗の下に集った貴族の代表者でしかない。


 国王が絶対者なのは王都とその周辺の直轄領のみ。

 中央集権に非ず、地方分権。絶対君主制ではなく、封建制の色合いが濃い。


 王都から離れるほどに国王の威光は薄れてゆき、真の絶対者は土地を治めている領主達となる。

 国民達は国王の存在は知っているが、その忠誠は領主に対して向けられており、それは領主に使える貴族『陪臣』も同様である。


 領主は国法と義務を守り、定められた税を国に支払っていれば、その統治方法は領主の裁量次第。どんな事も許される。

 一例を挙げると、国が定めた国民に対する税率は三公七民だが、これを素直に守っている領主は一人も居ない。この税率は国に献上する税であって、領主の収入とはならない為、この上に税を重ねる。

 自領の防衛と発展の為、それは仕方が無いのだが、さすがに六公四民が限界。七公三民を超えたら暴挙と言うしかない。


 ところが、この暴挙を平気で行う領主達が居る。

 特に国王の直轄地を治める国王の代理人たる代官がそうだ。


 彼等の殆どは爵位は持っていても、役職を持っていない王都の貴族。

 その支配する土地に根付いておらず、任期は長くても五年を超えない一時的な支配者でしかない為、ここぞとばかりに財産を貯め込もうと何事もやりたい放題の暴君と化し易い。


 事実、俺が領主となる前のコミュショーは国王の直轄地。前任の代官ときたら、それはもう酷い奴だった。

 税率は驚きの八公二民。あばら屋ばかりの村の中、立派な領主館に住み、食事は美食三昧。絵に描いた様な肥満体の傲慢貴族で爵位が俺より上の『子爵』故に金蔓の役職を奪われたという不機嫌な態度を隠さず、最後の最後まで嫌味を垂れまくってくれた。


 それだけじゃない。そいつが王都へ旅立った後に発覚した事だが、領民の中から自分好みの年若い女の子達を教養を学ばせる名目で侍女として集め、『摘み食い』を行っていたらしい。

 領主館に残された彼女達を雇用し続ける余裕が無い為に暇を出したら、まだ成人前の胸も膨らんでいない少女達が俺の元へ贈られ、その理由を戸惑いながら問いたら上記の信じられない事実が判明した。


 余談だが、まだ成人前の胸も膨らんでいない少女達が献上品として選ばれたのは、俺の愛妾であるアリサの胸が控えめであり、ララノアに至っては子供にしか見えず、どうやら俺はアブノーマルな性癖の持ち主と誤解されたっぽい。

 二重、三重の意味で唖然とするしかなかったが、それは領主が領民に対して絶対的な権力を持っている何よりの証拠と言えた。


 だが、その実情を目の当たりにして、目が醒めた。

 俺は『だったら、俺も好き放題にやってやるぜ!』と領主一年目にして遠慮を捨てた。 


 そう、異世界転移や異世界転生の物語にて、よく見かける魔法『NAISEI』である。

 正しく、前の世界の記憶を持つ俺だからこそ、可能な魔法。この世界より発達した文明と文化の一欠片を用い、その技術格差によって、ド田舎の寒村でしかない『コミュショー』を南方領を代表する黄金郷にしてやると決意した。


「うん……。まずまずだな」


 ドアが閉まり、一人残った会議室。会議の内容を書き記した羊皮紙を流し読んで満足にウンウンと頷く。

 よっぽどの天候不順にならない限り、この分なら秋の領内収穫高は去年の二割強は上回るのは確実だと、その内容から読み取れた。


 結論から言うと、残念ながら『NAISEI』の魔法は効果を発揮する以前の問題、俺には使えなかった。

 その理由は極めて単純なもの。魔法を使いたくても、その呪文を知らないからだ。


 前の世界の俺は地方都市のごく一般的な住宅街で育ち、高校は普通科、大学は経済学科へ進み、卒業後はある有名建築会社の営業マン。

 趣味は戦記や戦史に関するモノを除けば、ゲームや読書、インターネットといった在り来たりなモノしか持っていなかった。


 要するに尖った専門の知識を持っていない。

 税の源であり、主食の材料である『麦』の栽培とて、この世界に生まれてから。

 前の世界における農業経験は小学校の頃に夏休みの課題で育てた朝顔とヘチマくらい。


 肥料、千歯扱き、ノーフォーク農法。農業における三大定番の『NAISEI』は憶えていたが、肥料と千歯扱きは既に普及済み。

 ノーフォーク農法に至っては知識そのものがあやふや。四品の作物を順番に栽培するのは辛うじて憶えていたが、その肝心の四品が解らないときている。


 結局、俺が持っている前の世界の知識はそんなモノばかり。

 この世界でも作れそうな『ポンプ』の存在は知っていても、水を汲み上げる過程の仕組みが解らず、それを形に出来ない。


 正直、泣きたくなった。俺の前の人生は何だったのかと。

 以前、『揚浜式塩田』の知識をうっかり漏らして、サビーネさんを驚かした事が有るが、そう言った雑学の数々は聞きかじったり、何となく憶えた程度の知識でしかない。

 自分ですら頭の何処にソレをしまったのかが解らず、その場面を直面する事によって、初めて『ああ、そう言えば』と例に挙げた『揚浜式塩田』の様に思い出す。自分から掘り起こすのは困難と言わざるを得ない。


 しかし、俺は考えを切り替えて諦めなかった。

 門外漢が頭を幾ら悩ませたところで『下手の考え、休むに似たり』でしかない。

 だったら、専門と言えるほどの優秀な成績では無かったが、自分が大学で学んできた富を増やす学問『経営学』を生かせば良いと。

 その効果は『NAISEI』の様な即効性は無い。長い年単位の時間がかかるだろうが、コミュショーを着実に発展させてゆく筈だと。


「だけど、この程度で満足していちゃ駄目だ。

 もっと、もっと頑張らないと……。その為には……。」


 椅子から立ち上がり、採光の為に半分空けている木窓のつっかい棒を外して全開にすると、新鮮な空気が顔を撫でてゆき、これが実に心地良い。

 俺が居を構えた領主館は歴代の代官が使っていたもの。村唯一の二階建てであり、この二階角部屋にある会議室からは視界を遮る木も生えておらず、村半分の様子が眺められる。


 コミュショーは南方領の最北西に位置する。

 高原地帯な為、南方領に属しながらも温暖であり、冬になると雪は積もるが、うっすらと積もる程度。一年を通して、とても過ごし易い。


 だが、北は南方領と西方領を分断するジブラー山脈に、西は大樹海に行く手を阻まれ、内陸部でありながらどん詰まりの地。

 只でさえ、地理学的に栄えるのが難しいのに加えて、歴代の代官が無茶な政策を行ったおかげで住民達は総じて貧しい。


 唯一の救いは牧畜業が盛んな事か。

 特にコミュショー産のチーズは定評が有り、その買い付けにわざわざ訪れる商人が少ないながら存在する。


 村はキファ村、モバーエ村、ブレーム村、バルデラ村の四つ。

 全てが一本の同じ川沿いに在り、総人口は約千二百人。上流へ上るに従い、村の人口は減ってゆき、最上流に位置するバルデラの村の人口は百人も満たない。


 おまけに貧しさ故の過疎の兆候が見える。

 二十代から三十代の働き盛りの男達が極端に少なく、それと逆に子供は女の子が男の子の半分以下しか居ない。


 その理由は考えるまでもない。

 財産が継げない次男、三男は成人した後、家族を助ける為に出稼ぎか、村自体から出ていったのだろう。

 女の子が少ないのはもっと簡単だ。凶作ともなったら、八公二民で食べていける筈が無く、やはり家族を助ける為に奴隷として売られたに違いない。


 現実を直視するなら、お手上げの状態だったが、遣り甲斐はあった。

 ゼロどころか、マイナスからのスタートなら、何をやってもプラスになる筈だとポジティブに考えた。


「んっ!? ……随分と早いな。まだ一週間はかかると思っていたのに」


 ふと聞こえてきた馬の嘶き声。

 釣られて、その発生源へ視線を向けると、館の玄関に三台の幌馬車が連なって停まっている。

 あれこれと何やら指さしながら先頭の御者に指示を出している見知った顔を見つけて思わず苦笑する。


 俺が実施した政策は一言で言うなら、コミュショーという領地の会社化である。

 まずは生産量を増やす為、領民を専門とする職毎に分けて、それ等全てを三つの村に再分配。バルデラの村は廃村とした。


 その内訳は農業を専門とする者達をキファ村とブレーム村に約五百人づつ。

 領主館があるモバーエ村は約二百人。兵士と猟師、鍛冶屋などの職人が屯田して、畜産を専門とする者を配置した。

 会社風に言うなら、キファ村は農業第一部、ブレーム村は農業第二部、モバーエ村は畜産部を主として、総務部と治安部が混在している感じか。


 それと共に個人が所有していた土地や家畜の財産全てを公的化。

 領民はそれぞれ割り振られた村の役目を専従として、今まで一家族単位で行うのが当たり前だった作業を村単位で行う大規模なものへと切り替えた。


 この改革に辺り、領民達から当然の事ながら強い反対があった。

 しかし、歴代の代官があまりに酷かったせいだろう。税率を六公四民に下げて、ゆくゆくは五公五民にしたいと告げたら、あっさりと承諾。涙を流して、是非にと喜んでさえくれた。


 但し、この専従による大規模化の仕組みはより多くの収穫を得る為の下地に過ぎない。

 大事なのは領民一人、一人の意識。今までの様にただ漠然と今日を生きていてはいつまで経っても豊かにならない。

 どの様にしたら、明日は今日よりもっと豊かになるかを常に考えて貰わなければ困る。


 それ故、立場に応じた責任と義務と目標を課した。

 村長なら部長、名主なら課長、名主を補佐する立場の者に係長と言った様に。

 先ほどまで行っていた会議も意識改革の一貫であり、責任と義務と目標を強く認識して貰う為の術である。


 今ある問題を解決する短期目標、今年度の利益がどれだけ上げられるかの中期目標、来年度はどの様にして今年度を上回るかの長期目標。

 これ等の目標を考え、俺が領内に居る、居ないに関わらず、この領主館に村長は一ヶ月毎、名主は季節毎、名主を補佐する者は春と秋の二回を集まって討論する。


 その後、この会議で決まった事は部下達に伝えて指導する。

 そうする事によって、領民の一人、一人に俺の意志も伝わってゆく。


 当初は戸惑い、俺の顔ばかりを窺って、発言が少なかった村長達も慣れ、今では積極的に意見を交わし合い、お互いに良い点を吸収し合っている。

 例えば、前の世界では当たり前だった皆が一斉に揃って仕事を始める『始業時間』の概念がキファ村のある名主の元で生まれ、それが好評を博して今では全ての村で『始業時間』が採用されている。


 無論、やる気というモノは縛ってばかりでは向上しない。

 目標を達成したら、その目標の難易度に応じた特別手当を与える。

 前述の『始業時間』の概念を生んだ名主の場合、何が欲しいかと尋ねたら、酒という答えが真っ先に返ってきたので酒樽三樽と豚二頭をボーナスに贈り、贈った立場なのに酒宴へ呼ばれ、皆と一緒に大いに盛り上がったのは良い思い出だ。


 逆に目標の未達成が何度も続いたり、不祥事を起こした場合は罰則を与える。

 俺を若い新米の領主と侮ったのか。去年の秋の終わり、村の生産物は全てが公的な物だと口を何度も酸っぱくして教えたにも関わらず、ある名主が商人と個人的な契約を結び、チーズや干し肉の売買を行っていた事件が発覚した。


 これは政策の根底に関わる事件だった為、所有している金銭の没収こそは行わなかったが、その名主と家族全員を領外追放処分とした。

 ある意味、今まで先祖代々で受け継がれてきた地位が決して永遠不変で無い事を解らせる見せしめでもあった。

 

 これに伴い、その名主を補佐していた者達の中から評判が良くて、計数がそれなりに出来る者を名主へ昇進。

 持っている技能と働き次第によって、誰もが昇進の可能性がある実例を見せて、領民達のやる気をより促す結果となってもいる。


 ちなみに、キファ村とブレーム村で生産している品は税の源たる『麦』だが、ヒトは『麦』のみで生きてはいけない。

 どの村も野菜に関しては認められた農地で自由な栽培を許可しており、これ等は最小単位である名主補佐のグループ毎の私的財産として認めている。


 それと言うのも、野菜はどうしても日持ちしないモノが多い。

 コミュショーが僻地であり、流通の速度が遅く、冷蔵も出来ない以上、野菜を資本として扱うには無理があった。


「おっ!? また知らない顔が一人居るな」


 幌馬車達が向かう先は領主館の目の前にある家の裏にある馬屋。

 その家こそが我がコミュショーの営業部であり、俺が領主となるまで領内に一軒も無かった商店。


 領内の生産物は全てが商店隣の公用倉庫に一旦収められ、これを資産とする。

 この資産から公約の六公四民に応じた富を領民達へ月初めに再分配。国に支払う税と領内運営金を差し引き、残りを資本として、この商店を介しての外貨獲得を得るのが俺の描いた政策の全貌だ。


 唯一の懸念は何て言うか、俺のやっている事は共産主義っぽいと言う点に尽きる。

 前の世界における共産主義国の行く末を知っている者として、その点がちょっと不安でもあったりする。


 そして、会社風に言うなら、営業部長。政策における最重要ポストを担っているのが、先ほど三台の幌馬車を指揮していた男『ハーリ・ボッター』である。

 今、幌馬車達を見送り、この館の玄関の扉を叩いている。もう間もなく、この部屋を訪れるだろう。


 年齢は三十六歳。丸眼鏡をかけていて、インランド王国周辺では珍しい褐色の肌であり、一見すると歴戦の傭兵か、冒険者かと思える鍛え抜かれた身体を持つ。

 元々は海を隔てた遙か東にある島々の国に生まれ、一人行商を自由気ままに行いながら流れに流れて、この国へやって来たとか。


 彼と知り合ったのは俺がトーリノ関門に居た頃の話。

 個人の行商故に規模は小さいが、販売している香水が女性陣に人気でアリサ達も欲しがり、俺も利用していた。


 ところが、トーリノ関門での三年目の夏。季節毎に訪れていたのが、唐突にプツリと途切れ、どうしたのだろうと心の片隅で思っていたら、活動拠点を北方領から南方領へと移していたらしい。

 去年、アリキサンドリア大王国が侵攻してきた際、おっさんの居城があるバカルディの街で偶然にも再会。その俺の値切りに負けない手強い舌を思い出して、御用商人をやってみないかと誘ったら、これを快く承諾してくれた。


 ハーリ自身、歳も取ってきたので腰を落ち着ける場所として、バカルディの街にするか、ワイハの街にするかを悩んでいるところだったとか。

 即座にバカルディの街に支店を構えて、コミュショーとバカルディを販路で結び、これ等をハーリに任せた。


 詰まるところ、コミュショーの資本を南方領最大の街であるバカルディへ送り、バカルディでは各地から集った売れ筋の品を買い、それ等をコミュショーとバカルディの間の販路で売る。

 この交易を重ねる事によって、本店に戻ってくる資産はコミュショーを出発した資本以上の価値となり、コミュショーはゆっくりと発展してゆく仕組みである。


 計画は順調に進んでいる。

 ハーリは俺の期待に応えてくれ、まだ計画開始から一年にも満たないが、春までの半年の売上金推移が予想の二倍を超えている。


 だが、足りない。つい今年の春前までは十分だと考えていたが、まだ足りない。

 おっさんや長女様から借りている莫大な金額を速やかに返済する為、更なる外貨を稼げなくてはならない。


 最低でも、南方領二番目の大都市であるワイハに支店を構え、今ある南方領西回りの販路と正反対の南方領東回りの販路が欲しい。

 その次はやっぱり王都だ。北方領、西方領、南方領、東の海を隔てた諸外国から様々な物が集まる王都は金儲けの臭いがプンプンと漂っている。


 贅沢を言えば、南方領から最も近いアレキサンドリア大王国の大都市『ハンブルク』だったか、ここにも支店が欲しい。

 知っての通り、アレキサンドリア大王国は敵対国だが、俺の存在を薄くさせて、商人であるハーリの存在をもっと前面に出せば、この案は可能な筈だ。


 しかし、それ等の支店を任せられる力量を持った知り合いが居ない。

 俺が持っている伝手はトーリノ関門に出入りする北方領を拠点とする商人達とおっさんとの旅の道中で出会ったジョシア公国の商人達ばかり。

 反対に言えば、王都とハンブルクに支店を構えさえすれば、伝手を頼っての更なる発展も夢じゃない。


 だから、ハーリをバカルディから呼び寄せた。

 二十年近くも流浪の行商を行ってきたハーリは顔が広い。それ等を任せられるだけの候補者に心当たりが有るに違いないと。


 実際、二組の行商がコミュショーとバカルディの販路を行き来しているが、その責任者はどちらもハーリが見つけてきた商人が担っている。

 当初は領民の中から選んだ適任者をハーリに任せて、一から育てる予定だったのを考えると嬉しい誤算である。


 先ほどの幌馬車三台目の御者台にも以前は見なかった顔が座っていた。

 見たところ、二十代後半の年齢。駆け出しの見習いにしては歳を取っているのを考えると、商人経験を持った者に違いない。

 それはヒト一人を雇うだけの余裕が出来た確かな証拠であり、この分なら俺の新たな期待にも応えてくれそうだと知らず知らずの内に笑みが浮かぶ。


「失礼します。ニート様、お客様をお連れしました」

「どうぞ、お通しして!」


 ハーリの来訪をちょっと待ちきれず、腕を組みながら部屋の中をウロウロと行ったり来たり。

 暫くして、ノックの音が鳴り響き、ドアの向こう側から聞こえてきたアリサの呼びかけに思わず声を弾ませて返した。




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