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無色騎士の英雄譚(旧題:無色騎士 ニートの伝説)  作者: 浦賀やまみち
第六章 士爵 十騎長 トーリノ関門防衛司令官代理編
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幕間 その5 ララノア視点




 夕飯を食べて、お風呂も済み、あとは寝るだけの時間。

 自室にて、パジャマ姿の『ララノア』は椅子に座り、机の上に置かれたソレをただただ眺めていた。




 ******




『実を言うとね。君のお父さんは俺の命の恩人なんだよ。

 ……と言うのもさ。おっさんに騙されたんだよ。はぁぁ~~~……。

 俺は絶対に毒キノコだって言ったんだけど、おっさんが美味い、美味いって食べるもんだから、俺もついパクリと……。

 うん、確かに美味かった。キノコなのにジューシーでさ。まるで極上のぶどうを食べている様だったよ。

 でも、二人とも見事に当たってね。次の日になったら、上はゲー、ゲー、下はピー、ピーで酷いもんさ。

 しかも、それが五日も続いたもんだから、とうとう一歩も動けなくなってね。たまたま君のお父さんが通りがからなかったら、俺達は確実に死んでいたね』


 どうして、酷い傷が顔にある私を買ったのか。

 どうして、大金を出して買ったにも関わらず、私を抱かないのか。


 その当然とも言える疑問の答えがコレだった。

 あの私が買われた初めての日の夜、ニート様はそう答えてくれた後、こうも付け加えた。


『なにしろ、その特徴は君のお父さんから聞いていたからね。見た瞬間、君だって、一発で解ったよ。

 ……で、君のお父さんからの伝言。もう怒っていないから、里に帰ってこいってさ。

 まあ、何をしたかは聞かないけど、エルフが幾ら長寿だと言っても『孝行したい時に親は無し』ってね。一度、帰ってみたら?

 ……と言っても、また人間に捕まったら意味が無い。だから、俺の兵役が済む二年半後になるけど、その時になったら近くまで送ってあげるよ』


 絶対に嘘だと思った。

 ニート様が私に付けた値段は猫族の若者の八人分。以前、売られていった同族に付けられた値段と比べたら半分にも満たないが、それがどれだけ大金なのかくらいは解る。

 貴族ですら、これほどの金額を簡単に出せる人間はそう居ない。それをたったの二年半程度を待っていれば、この身を自由にしてくれるなんて有り得る筈が無い。


 ましてや、私が住んでいた里はこの国の南西に広がる『大樹海』と呼ばれる深い森の最奥。

 その森に住んでいる同族の者ですら、目印を頼りにしないと迷ってしまう森を人間が迷わずに出られるなんて、もっと有り得る筈が無い。


 だが、ここでの生活を一日、一日と重ねる度、その考えは『もしかしたら』に変わっていた。

 その『もしかしたら』も今では比重が随分と疑いようの無いモノへと傾きつつある。


 なにしろ、私を含めて、あの日に買われた全員のここでの待遇は奴隷として破格が過ぎる。

 いや、その表現すら間違っている。私達は奴隷としてではなく、ヒトとしての待遇を間違いなく受けている。


 森の外がどうしても見たくて、両親との大喧嘩をしてまで訪れた人間の世界。

 たった三日目にして捕まってからの十三年間。この地を訪れるまで、お腹が一杯になるほど食事をした事など一度たりとも無かった。


 石の様に固い黒パンが一つと屑野菜が入った塩のスープ。

 その美味しさの欠片も見当たらないお腹を満たすだけの食事が夜遅くに一日一回。奴隷商人の機嫌が悪ければ、それすら出ない日も有った。

 お酒やお肉が食事に混ざるなんて、極々希。二ヶ月に一回、有るか、無いかの出来事。


 着ているモノだって、古着のボロ。

 着替えは与えられず、そのボロが擦り切れて、汚れきったボロボロになるまで代えは与えられず、お客がすぐに品定めを出来る様にと下着も与えられなかった。


 挙げ句の果て、そのボロボロになったボロが私の布団代わり。

 無論、自室など無い。奴隷としての価値を殆ど失っていた私は閉じ込めておく部屋すら与えられず、廊下で寒さに震えながら身を丸めて寝ていた。


 しかし、ここは違う。ここは完全に真逆の世界。

 食事は朝夕の二回。ニート様達が食べているモノを同じテーブルで食べて、お酒が夕飯に必ず付く。


 しかも、おかわりが自由で好きなだけ食べられる。

 お酒も次の日に支障をきたさなければ、こちらもおかわりが自由。もう二度と御免だが、二日酔いなんて経験は初めてした。


 部屋も与えられた。それも猫族の四人、ニャントー達は二人部屋だが、私は女という事で一人部屋。

 この地方はとても寒いが、毎晩の入浴が許され、ふかふかの暖かいベットと布団で眠ったら、トイレで目を醒ます以外は朝までぐっすり。


 勿論、服も購入は古着屋だが、二束三文のボロなんかでは決して無い。

 クローゼットの中には着替えも数着が有り、今では下着も当たり前の様に履いている。下着を履くだけでこうも温かさが違うんだと初めて知った。

 そのおかげだろう。この十年間、お腹が慢性的に緩く下っていた悩みはここでの生活を初めてすぐに解消した。


 特に衣服の中でも気に入っているのが、ほぼ毎日の様に着ている襟が高く立った黒いコート。

 これはフード付きの上着ばかりを古着屋で選んでいたら、ニート様が仕立屋まで手を引っ張ってゆき、私の為に誂えてくれた完全な新品。


 但し、新品だから気に入っている訳では無い。

 それを誂えてくれた理由が嬉しかった。人間にもこんなヒトが居るのだと教えてくれた。


『ここの冬は寒いから、家の中でコートを着ていようが不思議じゃない。

 でも、いつもフードを被っていたら? ……誰だって、やっぱり変に思う。

 なら、『どうして?』と聞いてくるのも当然だ。その度にいちいち理由を応えるのも嫌だろ?

 だから、これだよ。これなら、ちょっと襟が高いコートでしかない。

 それにフードと違って、これなら下ばかりを見ている必要は無い。前を真っ直ぐに見て、普通に歩ける。

 だから……。ええっと……。その……。何だ……。

 今まで辛い事も色々と有っただろうけど……。うん、そうやって俯くのは止そう。俯いてばかりいたら、ヒマワリに笑われるぞ?』


 どうして、ヒマワリに笑われるのかは幾ら考えても解らなかったが、これだけは解った。

 今まで誰もが嫌悪して眉を顰めるだけだった私の左頬の傷。それを気づかってくれ、それが原因で半ば諦めていた人生を諦めるなと言ってくれているんだと。


 事実、私達に与えられた好待遇は生活環境だけに止まらない。

 奴隷とは一般的に人間が嫌がる作業を強要されるがそれが無い。寝泊まりをしている兵舎での掃除、洗濯、調理と言った維持管理の家事全てがニート様も含める交代制で行われている。


 例えば、トイレの便壺の中身を桶に汲み、ソレを共同の破棄所に運ぶ作業とて、交代制である。

 ニート様も実際に行っており、それを行っている姿を初めて目の当たりにした時は驚きのあまり茫然としてしまい、すぐさま代わろうとしたら叱られた。


『その気持ちは嬉しいけど、今日の当番は俺だ。

 それとも、ララノアはこういう仕事が好きなの? やりたいの? ……違うだろ?

 だから、交代制にしているんだ。ララノアの今日の当番は、ええっと……。洗濯だったよね?

 だったら、まず洗濯をちゃんと済ませよう。それが済んだ上で余裕が有るなら、他の誰かを手伝えば良い。それで十分だよ』


 ニャントー達も同様に叱られたらしい。

 それに加えて、その言葉の意味を同様に履き違えて、同じ失敗を犯す。


 翌朝、『なら、早起きをして、ニート様の担当を先に済ませてしまえば良い』と考えて、その通りに早起きをしてきたら、ニャントー達が凄い剣幕で怒鳴られていた。

 トーリノ関門の夜勤警備を担っているニャントー達は逆に『なら、寝るのを少し遅らせて、ニート様の担当を先に済ませてしまえば良い』と考えたらしい。


『お前達の仕事は何だ! このトーリノ関門の夜間警備だろうが!

 だったら、早く寝ろ! 夜に備えて、寝るのも仕事の内だ!

 それとも、何か? この一時の無理が居眠りの原因になって、また夜襲を受けた時、便所掃除を手伝っていましたとでも言い訳に使うつもりか!

 この際だから言っておく! お前達のそれは献身じゃない! 只の奴隷根性だ! そんな下らないモノ、さっさと捨てろ!

 俺はブラックが嫌いだ! ブラックは認めない! ブラックを許さない! だから、俺は常にホワイトであろうと心掛けている! それを頭に良く叩き込んでおけ!』


 どうして、そんなに黒が嫌いなのかは幾ら考えても解らなかった。

 その時、ニート様が着ていた服の色は黒であり、私が気に入っている黒いコートもニート様自身が選んだ色。常日頃も黒い系統の服を好んで着ている様な気がするからだ。

 それどころか、そんなに黒が嫌いなら、己の存在を戦場で敵味方に主張する部隊旗が黒いのは何故なのか。


 だが、これだけは明確に解った。ニート様は私達を奴隷としてではなく、ヒトとして見ているのだと。

 ニート様から怒鳴られた後、ニャントー達はしょげて落ち込み、肩を落としてはいたが、その一方で嬉しそうに涙を瞳に溜めていたのを私は知っている。


 その扱いはニート様から与えられた役目『戦奴』でも変わらない。

 部隊の皆と変わらない訓練や作業を大勢の中の一人として行い、私だけに与えられた重労働の類は存在しない。


 むしろ、唯一の女であり、この見た目の幼さのせいか、重い物を持っていたりすると部隊の皆は手を貸してくれる事が多い。

 元から戦奴だったニャントー達に話を聞くと、そんな事は普通なら有り得ないと言う。やはり、これも指揮官であるニート様の影響だろう。


『そもそもだ。俺達は武器が無かろうと人間より強い。

 だから、反抗の道具になるかも知れない武器を与えてくれる指揮官なんて初めてだ。

 剣と槍、どっちが得意なんだって、ニート様から聞かれた時は何を言っているのかがさっぱり解らなかったくらいだぞ?」


 そう言って、ニャントーは手入れでピカピカに輝き磨かれたニート様から頂いた剣を誇らし気に見せてくれた。

 確かにニャントーの言う通り。それに私の弓もそうだが、特に剣や槍は鉄がふんだんに使われた高価な代物である。

 私達の部隊は前回の戦いで敵から分捕った物を自分の物にして、全員が剣や槍で武装しているが、他の部隊の一般的な兵士の殆どは木を削った木刀や棍棒を使っている事を考えたら、私達は随分と贅沢なのではなかろうか。


 そして、奴隷とヒト。その明確な違いとも言える『休日』が私達にはある。

 私は週末の一日か、二日、ニャントー達は交代で四日に一度。月単位で見たら、ニャントー達の方が休日数は多くなるが、一日単位の働いている時間が多い為、ニート様が言うにはこれで公平になるらしい。


 奴隷になってからの十三年間、何もする事が無くて、結果的に休日となった日はあったが、休日と事前に決まっている日なんて無かった。

 それだけに最初は何をして過ごしたら良いのかが解らず、暇を持て余してばかりいた。


 しかし、最近は弓の練習をしたり、実際に狩りを行う事で休日を過ごしている。

 ニート様は『せっかくの休日なのだから、もっと別の事をしたら?』と笑うが、弓の腕前が上達すると、ニート様が喜んでくれるから、私はこれで良いのだ。


 そう、この地に来てからと言うもの。私達は幸せすぎる生活を送っている。

 もう二度と奴隷商人の元で暮らしていた生活には戻れない。それはきっとニャントー達も一緒に違いない。


「ぁぅ~~……。」


 ところが、ところがである。

 その幸せすぎる生活に浸りきって、約半年。今日、更なる信じられない幸せが訪れた。


 蝋燭皿の小さな光りを受けて、影を机の上に伸ばして揺らす革袋。

 今夜、これで何度目になるのだろうか、その口を縛っている紐を解く度、うっとりと感嘆の溜息が漏れてしまう。


 幾人もの手に渡り、手垢が次第に付くと共に当初の輝きは失われている。

 だが、今の私にとって、その革袋の中にびっちりと詰まった銀貨と大銅貨は蝋燭の光りに照らされて、眩いばかりにピカピカと輝いて見えた。


『……っと、そうだった。肝心な事を言い忘れてたよ。

 昨日、王都からの補給が来たのは知っているだろ?

 それで実はさ。ララノアにも給金がちゃんと出ているから、家へ帰る前に司令部へ寄って、それを貰っていってね?』


 今日、部隊総出の狩りを終えて、食事をしている最中、ニート様が意味不明な事を唐突に言い出した。

 茫然となるあまり、思わず後ろを振り返ってみたが、ニート様の馬しか居らず、その言葉が自分に向けられたモノだと知るや否や、こんな大声が自分にも出せたのだと驚くほどの叫び声をあげてしまい、部隊の皆から注目を浴びるという恥ずかしい思いまでした。


 何故ならば、奴隷に給金を支払うなど有り得ない。それ相当のモノを既に奴隷の主人は奴隷商人に対して支払っているのだから。

 奴隷が現金を持つとしたら、奴隷の主人が気まぐれに小遣いをくれた時くらいか。


 ところが、部隊の皆と司令部を恐る恐るの半信半疑に訪ねてみれば、ネーハイム様から目の前にある革袋を実際に渡された。

 それでも、まだ夢でも見ているのだろうと疑ったが、家に帰ってみると、ニャントー達もリビングで革袋を手に茫然と突っ立っており、お互いにソレを見せ合う事によって、ようやく私達は手に持つ重さを現実だと知った。


 その後、ニャントー達は喜び勇んで今夜の仕事に向かい、交代番で休日の一人はジェックス様に誘われて、人生初めての酒場に早速向かった。

 私も誘われたが、お酒は夕飯の分で十分な為、お風呂を済ませて、あとは寝るだけとなったが、給金が貰えた嬉しさと興奮でちっとも眠れず、先ほどからベットに寝転ぶのと机の前に座るのを繰り返して、明かりも点けたり、消したりを繰り返していた。

 幸いにして、明日は休日。寝坊したところで誰も文句を言わない日ではあるが、こうも眠れないのはちょっと苦しさを感じる。


「ふぅぅ~~~……。」


 それ故か、色々と深く考えてしまう。

 果たして、これほどの好待遇を受けていて、私はニート様の期待に応えられているだろうか。


 その答えはお世辞にも『はい』と言えない。今度は自分の情けなさに溜息が漏れる。

 今日だって、ニート様は話題を懸命に探して、何度も話しかけてくれたというにも関わらず、私は首を振るだけ。返事すら返せなかった。


 常に心の中ではたくさん喋っている。明日はニート様とどんな話をしようか、その予行練習を必ず寝る前に行ってさえもいる。

 だが、実際にニート様を前にすると、声がどうしても出てこない。余計な事を喋った途端、殴る、蹴るの仕打ちを受けていた奴隷商人の元での長い生活が災いして、声を出そうとした瞬間に恐怖が先立ってしまう。


 だからこそ、更に色々と深く、深く考えてしまう。

 今日に至るまで駄目だ、駄目だと感じていたが、給金まで頂いた今、このままでは本当に駄目であり、何らかの期待をニート様に応えなくてはならない。


 しかし、どう足掻いても、ニート様が求めているだろう会話は無理だ。

 それを決意して、ニート様の前に出たとしても、また言葉が出てこずに俯いてしまい、要らぬ心配をかけるだけ。その壁はまだ高すぎる。


 結局、良い考えは浮かばない。

 蝋燭の火を溜息混じりに消して、今度こそは寝ようとベットに再び寝転んだその時だった。


「……そうだ!」


 唐突にこれ以上無い名案が閃いた。

 居ても立ってもいられず、すぐさま身体にかけた布団を跳ね除けて、ベットから下りる。


 今でこそ、『戦奴』となり、ニート様の部隊に籍を置く私だが、最初の私の名目は『性奴隷』である。

 だったら、ニート様の期待にすぐ応えられなくても、その名目に従って、私自身を感謝の気持ちとして差し出す事くらいは出来る。


 人間に抱かれるなんて、真っ平御免だった。嫌で嫌で仕方がなかった。

 その思いが天に通じたのか、自分の年齢を考えたら、本来は人間で言うところの年頃の娘くらいに成長している筈が私の身体は成長を止めた。


 それが功を奏して、私は生娘のままで居られた。

 奴隷商人は胸も膨らんでいない子供の身体を抱く趣味は持っておらず、売れ残りの娘達に対して行っていた所謂『味見』をされずに済んだ。


 だが、最初の三年はまだ商品として扱われていた為、別の男から閨での心得や性技を教えられてもいる。

 その男から『君の手は神の手だ。どんな男も君の手の前にひれ伏すしかないだろう』という最上級っぽい褒め言葉を貰った事もあったが、ただ単に私は嫌な時間を早く済ませたかっただけに過ぎず、これっぽっちの嬉しさも湧き起こらなかった。


「うん……。これこれ」


 しかし、それがニート様の役に立つなら話は別だ。ニート様に悦んで貰えるなら私も嬉しい。

 パジャマをベットの上に脱ぎ捨てて、下着も脱ぎ捨てると、クローゼットに小走り、今では何着も服が掛かっている中身の下に置かれた収納箱を開ける。


 網目状に木の板で小さく仕切った中に列んでいる色とりどりの下着。

 恐らく、ニート様が頼んだのだろう。近所の娘達に下着屋へ何度か連れて行かれ、購入したモノはどれもパステル色だが、その中に強烈な自己主張を唯一放っている黒い下着が一番左奥にあった。

 それを履き、次は収納箱の二段目にあるペティコートやスリップの下着が列んでいる中から殆ど透けている白いネグリジェを選んで着る。


 それはニート様に買われた日の夜に着たモノであり、それっきり収容箱の中で無用の長物となっていたもの。

 あの夜の私は入浴前にネーハイム様からコレを渡されて、憂鬱な入浴を過ごした後に嫌々ながらも着たが、今夜は違う。

 コレを着ている途中から身体は火照りを帯び、ニート様とのソレを期待して、女としての反応が既に始まっていた。それも驚くほど加速的に進み、思わず股間に右手を伸ばして、身体をビクッと跳ねさせながら息を飲んだ。


「ぁぅぅっ……。」


 下着の上から触っても解るソレ。恥ずかしさに身体がますます火照ってゆく。

 前述にある閨での心得や性技を教えられた講義の際、そのやる気の無さを咎められて、媚薬の飲用を何度も強要されたが、ここまで明確な身体の反応があった事は過去に一度も無い。


 それが解った途端、胸にストンと落ちるモノがあった。

 この半年間、奴隷の主人らしくないニート様に何度も戸惑い、そんなニート様の期待に応えようと懸命に頑張ってきたが、その日を重ねるほどに大きくなってゆく想いの正体がようやく解った。

 最近、夕食の時、ニート様が二軒右隣のルシル様を良く話題にして、その度に感じていたモヤモヤとした気持ちが嫉妬だったと解る。


 すると今度は別の心配が湧き起こる。

 ソレを自ら選択して進んで行く分、あの日の様にまた拒まれたら、私は立ち直れないかも知れない。 


 だが、少なからずの勝算は有った。

 冬が本格化して、街道が封鎖されてからの約三ヶ月半の間、ニート様はお妾のアリサ様と一度も会っていない。

 その上、ニート様は娼館に通う習慣は持っていない。ジェックス様に誘われて、たまに出かけている様だが、私が知る限り、この一ヶ月の間は夜に出かけた事は一度も無い。


 女の私に理解は出来ない。

 しかし、男性は何やら溜まるモノだと聞くし、それはとても辛いモノだとも聞く。


 実際、財布の中身が尽きてしまい、娼館に通えなくなった部隊の者達がそんな話を良く零している。

 それだけに今夜が絶好のチャンス。ニート様は残念ながら私の様な幼児体型は好みでは無いらしいが、これだけの好条件が揃っていれば、絶対に私でも反応してくれるに違いない。


 まだ完全とは言えないにしろ、街道が再開して、既に一週間半が経っている。

 もしかしたら、明日にでもアリサ様が来てしまうかも知れない。そうなったら、ニート様はすっきりしてしまい、私など眼中に無くなる。


「……良し」


 真っ平らではあるが、これから起こるだろう事に期待して、女を立派に主張している胸。

 その張り裂けそうなくらいにドキドキと高鳴る胸に左手を置きながら決意に頷き、ドアノブに右手を伸ばす。

 文字通り、ニート様との繋がりを確かとする事によって、何かが良い方向に変われそうな予感が漠然とあった。




 ******




「お、俺って奴は……。よ、よりにもよって、命の恩人の娘さんを……。」

「だから、たまには行くべきだって、昨日も誘っただろうが?」

「まあ、お互いの同意が有れば……。見た目はともかく、年齢的には……。」


 余談だが、翌日の朝。頭を抱えて自己嫌悪に落ち込むニートとそれを慰めるジェックスとネーハイムの姿があった。

 ララノアは夜更かしが過ぎたのか、その朝食の場には現れず、珍しくお昼近くまで寝坊した。




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