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第02話 充実した明日を




「う~~~ん……。」


 必要最低限な物だけが揃った山小屋。そのスペースの半分を取っているベットの縁に座って思い悩む。

 何故、女の子のパンツと言うものは、こうも大きく伸び縮みするのだろうか。それだったら、最初から大きめな採寸で作ったら良いのではなかろうか。

 オレンジ色のソレを手で弄びながら、まじまじと見つめる。


 いや、問題はその点では無い。

 もう確かめる術は無く、完全なうろ憶えの知識ではあるが、前世の中世ヨーロッパの時代の女性はノーパンだった様な気がする。


 ところが、この世界の女の子のパンツは完全に前世風。

 無論、前世の様な精巧さは無い。それは手作りだから仕方が無いだろう。

 だが、これは粉う事無き、パンツ。或いはショーツ、パンティーと呼ばれるもの。


 どう考えても、明らかにおかしい。

 女性用のパンツに欠かせない正面の小さなリボン。それすら飾られている。

 デザインが進化する過程にて、ここまでデザインが一致するものなのだろうか。


 もっとも、それはパンツに限った事ではない。パンツと来たら、ブラジャーである。

 これも手に取り、まじまじと見つめると、デザインが前世風。パンツとお揃いのオレンジ色であり、カップ縁にささやかながらもレースが施されている。

 残念ながら、前世において、実物を見た事は無いが、この両カップのポケットに入っているのは、胸を増量させて見せる為の『パッド』と呼ばれるモノではなかろうか。

 但し、ホックはさすがに存在していないらしい。胸元を紐で結んで着ける様になっている。


 パンツとブラジャー、この二つだけが山小屋の中で異彩を放っていた。

 それこそ、場違いな工芸品『オーパーツ』と呼んでも過言でないくらい。


 その癖、上着は時代相応なのだから、頭が混乱する。

 ワンピースのチェニックであり、袖は手首まで、裾は足首まで露出の要素は皆無。色合いはお洒落だが、デザインが古くさくて野暮ったく、見た瞬間に『中世ヨーロッパ風』の言葉が頭に浮かぶ。


 だからこそ、パンツとブラジャーを初めて見た時の俺の驚きが解るだろうか。

 しかし、よくよく考えてみると、今更ながらに『あれ?』と思う様なモノが他にもあったりする。

 例えば、トイレや風呂と言った衛生観念。前世の観念を持っている俺としては助かっているが、これがしっかりと根付いているのだから不思議と言うしかない。

 もしかしたら、俺という実例があるのだから、他にも転生者が居る、或いは居たのかも知れない。


「な、何してるの!」

「あっ!?」


 そんな事を深く考えていたら、怒鳴り声が飛ぶと共に俺の手からパンツとブラジャーがかっさらわれる。

 驚いて、顔を反射的に上げると、羞恥と怒りに顔を真っ赤に染めた全裸のコゼットが目の前に立っていた。

 どうやら、水を飲みに行くという口実で行った用足しが済んで帰ってきたらしい。

 言うまでもないが、奪われたパンツも、ブラジャーもコゼットのモノ。俺に女装趣味は無い。


 ちなみに、興味は無いかも知れないが、俺も全裸。

 つまり、俺とコゼットは幼馴染みにして、将来を誓い合った仲であり、既にそう言う仲でもある。


「な、何度も言ってるけど! し、下着を嗅ぐのだけは止めて!

 ニ、ニートだって、自分の下着を嗅がれたら嫌でしょ! お、お願いだから!」


 ところが、コゼットときたら、この通り。お互いに全てを知り尽くした仲にも関わらず、この初々しさ。

 恥ずかしそうにパンツとプラジャーを背に隠して激昂する姿は可愛くて堪らない。


 しかし、止められない。止まらないのが、男のサガと言うもの。

 なにしろ、前世の俺は32歳にして、童貞。所謂、魔法使いのジョブ持ち。

 そんな俺にとって、女性の下着とは全て遠き理想郷とも言える追い求めた幻想の品である。


 何度、ネット通販の注文画面の前で悩んだ事か。

 何度、エロDVDの自動販売機の前で悩んだ事か。

 何度、ただの布きれにも関わらず、それを欲した事か。


 だから、コゼットが文句を幾ら言おうが、無駄の一言。

 何故、登るのかと聞かれて、登山家がそこに山が有るからと答えるのと同じ。

 何故、嗅ぐのかと聞かれても、コゼットのパンツがそこに有るからとしか応えられない。


 無論、それを馬鹿正直に答える必要は無い。

 そして、パンツ一枚で世界を深く考察してしまう賢者タイムは終了。

 これからは十四歳に相応しい猿並な性欲を持ち、パンツ一枚で獣と化してしまう時間。


 なにせ、成長途中の控えめな胸と薄い栗色の秘所を露わにしたコゼットが下着を背に隠すが為、やや腰を突き出して立っているのだから興奮しない筈が無い。

 正しく、『頭隠して、尻隠さず』な状態。俺の暴れん坊が辛抱堪らんと吠えまくる。


「いや、コゼットなら構わないよ? 何なら嗅いでみる?」

「えっ!? ……キャっ!?」


 冗談交じりに切り返して、コゼットが戸惑った隙を突き、その腰を掴んで抱き寄せる。

 すぐさまコゼットは拘束から逃れんと身を捩るが、きつく抱き締めて逃さない。


「駄目だってば……。もうすぐ、暗くなっちゃう。

 そうなったら、帰れなくなるから……。ねっ!? もう今日はおしまい」


 しかし、コゼットは抵抗を更に強めて藻掻き、こうなったらと身体を捻り、自分と一緒にベットへ押し倒す。

 但し、ベットの中に詰まっているマット代わりの藁は去年のモノ。弾力性をとっくに失っている為、強引ながらも優しくである。


「お、お願い。ニ、ニート……。か、帰らないと兄さんに叱られちゃうんだってば……。」


 それでも、コゼットは抵抗を続けるが、それは無駄な努力と言うしかない。

 何故ならば、先ほども言ったが、俺とコゼットはお互いに全てを知り尽くした仲。


「こ、こらっ……。だ、駄目! ぁんっ!?」


 即ち、コゼットの何処をどうしたら断れなくなるかなど、とっくの昔に承知済みなのだから。




 ******




「ふっ! はっ! ほっ!」


 まだ朝靄が立つ早朝。山小屋前の小さな広場にて、気合いを入れながら棒を振るう。

 両親が冒険者をしていた幼少の頃から行っている毎朝の鍛錬だが、我ながら良く続いていると思う。


 もちろん、一子相伝の秘術とか、そういう特別なモノではない。

 今だって、棒を外側に返す。棒を内側に巻く。棒を前へ突き出す。この三つの動作しかしておらず、親父はこれしか教えてくれなかった。

 剣も、弓も似た様なもの。基礎動作しか、俺は知らない。


 以前、どんな武術にもある『型』というモノは無いのかと親父に聞いた事がある。

 親父曰く、基礎が出来ていない奴は何をやっても駄目。逆に言えば、基礎さえ出来ていれば、あとはおまけ。自ずと全てが出来る。

 ただ、親父の口振りからすると、十五歳の大人になったら型をと考えていたらしいが、それを教える前に残念ながら親父は逝ってしまった。


「ふぅぅ~~~……。」


 その日課と言える鍛錬を終えて、大きく深呼吸する。

 鍛錬を始めた時は肌寒かったのに、今は暑いくらい。汗を吸った上着から湯気がホカホカと立ち上っている。

 実際、前世の俺が見たら、良くやるよと皮肉でも漏らしそうな熱心ぶりだが、実は他にやる事か無いからだったりする。


 そもそも、この世界は娯楽に乏しいし、それ以前に娯楽を興じている暇など無い。

 子供ですら物心が付けば、何かしらの役割が与えられ、その家庭における必要不可欠な労力となる。

 蛇口を捻ったら簡単に水が出てくる世界とは違う。全てが手作業、村では水を汲むにも井戸へ行き、重い桶を持つ労力が必要とする。


 詰まるところ、『働かぬ者、食うべからず』である。

 この世界で暮らしていると、前世の自分がいかに恵まれた環境で育ち、いかに親へ甘えていたかを思い知る。


 それ故、惰性で行っている鍛錬とて、これが俺の飯の種。決して手は抜かない。

 手を少しでも抜き、腕が鈍ってしまったら、狩りの成果は落ちて、その結果として生きては行けなくなる。

 おかげで、いつの頃からか、どうしても鍛錬が出来ない日は心の収まりが妙に悪い。


「んぐっ、んぐっ、んぐっ……。ぷっはーっ!?」


 それに何と言っても鍛錬後の水は美味い。これに尽きる。

 ここ、山小屋の裏に作った水飲み場は親父の自慢作。近くの沢から水路で引っ張っており、前世の神社で見た様な手水舎に新鮮な水を常に貯えて、朝は特に冷たい。


 ちなみに、水飲み場の排水路は隣のトイレに繋がっており、その先は沢へと戻っている。

 その沢の更に先は村へ流れる川に繋がっているのだが、その点は深く考えてはいけない。村のみんなだって、川沿いのトイレで用を足すのだから、やっぱり深く考えてはいけない。


「むふふっ……。」


 山小屋に戻る途中、隣接している物置に寄る。

 昨日、狩った大熊の毛皮などが鎮座している様に思わず顔がにやけてくる。

 こんな山奥の山小屋。誰が盗みに来る訳でも無いのだが、モノが貴重なモノだけに何度も確認してしまうのは俺が貧乏性故にだろうか。


 事実上、俺とコゼットは夫婦の様なものだが、今はまだ対外的に幼馴染みの関係。

 その理由は俺が十四歳の子供の為、正式な結婚は十五歳の大人になってからと、コゼットの父親の村長がそう決めたからである。


 だが、この大熊を見せさえすれば、村長もきっと一人前と認めてくれ、コゼットとの結婚も認めてくれる筈に違いない。

 しかも、明後日は俺とコゼットの結婚を公表するにはもってこいのイベント。秋の収穫祭が行われる。絶対に認めさせてやる。


 そうすれば、今年の冬はコゼットと『ムフフ』を思う存分に楽しめる。

 なにしろ、この辺りは厳しい豪雪地帯。冬になると、家の一階が埋まってしまうくらいに雪が積もる。

 その為、どの家も冬用の玄関が二階に有る。勿論、街道は行き交いが完全に無くなって、村は陸の孤島となる。

 それ故、雪解けとなる春までの食料を冬前に貯め込み、冬の間は家の中に引き籠もって、冬期間の生業。例えば、猟師の我が家なら、なめし革作りや領主様に献上する剥製作りを行う。

 特に厳しい時は猛吹雪が何日も続き、外に一歩も出られず、恐ろしく暇となる為、『ムフフ』が唯一の娯楽となって、この時ばかりは老いも、若きも村中の夫婦が励む。

 実際、その成果が十月十日である今頃の季節に現れ、村の住人の大半は誕生日が秋だったりする。


「……って、どうしたんだ? そんなに落ち込んで?」

「はぁ……。またやっちゃった。朝帰り……。

 絶対、兄さんに叱られる。約束したのに……。どうして、私ってば……。」


 そんなバラ色の未来を想像して、山小屋にスキップして行くと、コゼットがベット端にしょんぼりと項垂れながら座っていた。

 その呟きに思わず吹き出してしまう。昨日の夕方、最初に誘ったのは俺であるのは間違いない。

 しかし、アレが済んだ後、外はやや暗くなってはいたが、急いで帰りさえすれば、コゼットが気にしている門限はぎりぎり間に合う時間だった。


「ぷっ!? まあ、仕方ないんじゃないか? コゼットはスケベだからなぁ~~」

「な゛っ!?」


 それをもう一回、もう一回と頼んできたのは他ならぬコゼット自身。

 最終的に三回。その前も合わせたら、合計で5回。いかに十四歳が若さを爆発させているとは言え、最後はなかなかキツいものがあった。

 その事実をニヤニヤと笑いながら告げると、コゼットは目を大きく見開きながら絶句。口も大きく開け放つ。


「一度、火が点いちゃうと、びっくりするくらい積極的になるしなぁ~~……。

 それに昨日のアレ。あんなの何処で憶えてくるんだ? さすがの俺も驚いたと言うか、何と言うか……。」


 だが、俺のターンはまだ終わらない。

 お題はコゼットがシテくれた昨夜のアレ。恐らく、コゼットは勇気を総動員させたに違いないが、正直なところ、俺はちょっと引いた。

 今後、再び繰り返されても困る為、その系統に興味を持っていない事をソフトに告げる。

 ちなみに、昨夜のアレとは何か。それは言えない。俺とコゼットの二人だけの秘密に決まっている。


「わ、私だって、恥ずかしかったんだよ? だ、だけど、義姉さんが絶対にニートも悦ぶ筈だって!」

「そうか、そうか。お前の知識の仕入れ先はイルマさんだったのか」

「あっ!?」


 コゼットは怒鳴る様に弁解するが、その言葉に最近の謎がようやく解けた。慌てて口を両手で塞いでも遅い。

 実を言うと、最近のアノ時のコゼットは妙に積極的というか、実に大胆であり、不思議で仕方が無かった。


 その変化した時期を考えてみると、親父が逝ってしまった後くらいか。

 そこから推測するに、俺を元気付けようとしてのものなのだろうが、ここはネットどころか、エロ本すら無い世界である。

 いや、もしかしたら、エロ本は都会に行ったら有るのかも知れない。俺自身もそうだが、人間という生き物はエロ方面にかける情熱は相当なもの。

 とにかく、何事も知識を欲したら、本は非常に高額な為、この世界では口伝が基本である。


 しかし、コゼットのアレな知識の仕入れ先がまさか、まさかイルマさんだとは考えもしなかった。

 何故ならば、イルマさんはコゼットの兄『ケビン』さんの奥さん。四年前、隣村から嫁いできた人であり、その人柄を一言で言ったら清楚で大人しい人。

 そのイルマさんが昨夜のアレやコゼットがシテくれた最近のアレやらを知っているとは村の誰一人とて思うまい。


 今、ふと重要な可能性に気付いた。

 ひょっとして、コゼットが俺達のアノ生活をイルマさんに相談しているなら、イルマさんを介して、ケビンさんも俺達のアノ生活がどの様なモノかを知っているのではないだろうか。

 非常にまずい。決して、俺から頼んだ訳では無いが、昨夜のアレが知られたら、さすがにケビンさんも『妹に何て事をさせるんだ』と怒るかも知れない。


 こうなったら、先手を打つしかない。どの道、そのつもりだったのだから、これは良いきっかけかも知れないと決意する。

 そう、プロポーズである。夫婦という関係なら、昨夜のアレも単なる苦笑で済まされる筈。


「まあ、その……。だから、あれだ……。」

「な、何よぉ~~……。」


 だが、その言葉をいざ口にしようとすると、なかなか言葉が出てこない。

 するとコゼットがまた何か責められると思ってか、ちょっぴり瞳を潤ませながら唇を尖らす。

 その可愛らしさに俺のハートはドッキューンと高鳴った。


 元ニートのって、今もニートだが、その俺が本当にコゼットを幸せに出来るのか。

 その心配が言葉を詰まらせたが、自分に言い訳ばかりをして誤魔化したり、濁したりするのは前世からの悪い癖だ。

 本当に生まれ変わった人生。今度は悔いを残さない為、もっと前向きに考えて、何事も挑戦するべきだと決意して頷き、コゼットの肩に両手を乗せて掴む。

 ただ、コゼットの目を真っ直ぐに見つめるのが恥ずかしくて、ちょっと視線が彷徨うのは許して欲しい。


「あ、あんな事までさせちゃったら、これはもう責任を取るしかないよな!」

「えっ!? それって……。」


 幸せに出来るのかではなく、コゼットを必ず幸せにする。それが両親を失った俺の新たな目標なのだから。

 その決意が伝わったのか、コゼットが目を丸くしながらも輝かす。


「お、お前は俺が貰ってやるよ! コ、コゼット、俺の奥さんになってくれ!」

「ニート!」


 そして、はっきりとした言葉を待って、俺の胸に飛び込んでくるコゼット。

 それに応えて、コゼットの背中に両手を回す。もう離さないと言わんばかりにきつく抱き締める。

 頭の中で教会の鐘がリーンゴーンと鳴り響き、前世の『エンダーの人』が声高らかに歌い、俺とコゼットを祝福する。


 俺は幸せ者だ。村一番の美人を奥さんに出来るなんて。

 取りあえず、朝食後に村へ向かう予定だったが、それは延期にして、昼食後とする。

 何故、延期かは秘密である。強いて言うなら、俺とコゼットは十四歳と十五歳の新婚夫婦。若さ故にとだけ言っておく。


「去年、やられた森の主も狩った。

 あれを見せれば、村長も、ケビンさんも納得してくれる筈だ。今日、正式に挨拶へ行くよ」

「うん……。うん!」


 まさか、この俺が『リア充』になれるなんて、不便も、苦労も色々と多いけど『異世界、万歳! 異世界、最高!』と叫びたい気分だった。




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