幕間 その1 サビーネ視点
バルバロスが王都に旅立ち、六ヶ月が過ぎていた。
季節は移ろい、収穫の秋を迎え、サビーネはニートを含む数人の部下を従えて、領内視察の旅を途にあった。
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「海は広いなぁ~~……。大きいなぁ~~……。」
蹄の跡を砂浜に残して、穏やかな波の音を伴奏に先ほどから飽きもせずに前方で繰り返されている歌。
それは不思議と耳に残る歌であり、すっかり覚えてしまった歌詞を釣られて歌いそうになるのを堪え、それを口ずさんでいるニート様の背中をぼんやりと眺めながら考える。
三郡、三都市、一港、二十六村、総人口は約六万人。
常時動員兵数は約六千人。非常動員兵数は約一万五千人。
それが本拠地を『バカルディ』の城と定め、侯爵たるバルバロス様を主とする『オータク』領である。
即ち、バルバロス様の正式な名前は産まれた場所である城名と所有領名を合わせた『バルバロス・デ・バカルディ・オータク』となる。
名前と家名の間にある『デ』は、このインランド王国の直臣貴族たる証である。
領内に海を持ち、主産業は塩業。特産物はサトウキビから作るラム酒。
気候は我が国の南端にある為、王都と比べて、夏は長くて暑い。突然の豪雨が降ったり、ハリケーンが時には何度も発生して、我々を悩ませる。
しかし、その反面で冬は短い。
雪が降るのは十年に一度の珍事。王都では厳しい筈の冬も過ごしやすい故に昔から王族や裕福な者達にとっての避寒地として有名であり、それを理由に栄えた街『ワイハ』で冬を過ごす事は一種のステータスシンボルとなっている。
当然、それを目当てにした商人達がこぞって集まる為、オータク領は一年を通じての税収が見込め、他領では税収が底冷えする冬こそが最盛期を迎える。
また、爵位こそ、侯爵のオータク家だが、国王の直轄領を除けば、その領土の広さはインランド王国貴族が所有する中で最も大きい。
だが、王家からオータク家に許された最大の特権は統治する広大な土地でも無ければ、その土地で得られる莫大な税収でも無い。
我が国は北を『ロンブーツ教国』、南を『アレキサンドリア大王国』、西を『ミルトン王国』の三カ国と国境を接しており、北と西の国境周辺は国王の直轄領となっている。
言い換えると、他国と領土を接しているのはオータク家のみ。アレキサンドリア大王国に対する采配を国王から全権代理として任されている事にこそある。
下手すれば、王家と並ぶほどの権限と資金源。何故、それほど絶大な力が許されているのか。
それはオータク家が建国以来の忠臣であり、強国であるアレキサンドリア大王国の侵入を過去に一度たりとも許さず、歴代の国王の信頼に応えてきたからである。
本来なら、その功績を考えると、王家の血筋を得て、公爵の爵位を得ていても何ら不思議は無い。
しかし、あくまで臣下の血筋として、侯爵位に留まっているのは他貴族とのバランスを考えてなのだろう。
ところが、それが災いして、オータク家に対する他貴族のやっかみは多い。
事実、先の戦いでバルバロス様が行方不明となっている間、これ幸いとオータク家の力を削ぐ為、手に入れる為、あの手、この手の大小様々な謀略が仕掛けられた。
その中にはオータク家の全てを丸ごと手に入れようと、バルバロス様に残された最後の血族であるティラミス様に対する縁談だって有った。
無論、バルバロス様の留守を預かる者として、その悉くを跳ね返してきた。
だが、正直に言うと、それも限界が近かった。あと半年、バルバロス様の帰還が遅かったら、取り返しが効かない困難な事態となっていたに違いない。
そう、既に絶望のカウントダウンは始まっていた。
去年の年末、この国の財務大臣を務める宮廷侯爵家三男の釣書が届き、その本人も追いかけて旅をしているとの報が伴って届いた。
所詮、私はオータク家に仕える陪臣でしかない。
どんなに意気込んだとしても、直臣の大貴族が強引に事を運んでしまえば、ティラミス様の縁談とて、表向きはオータク家の今後を考えた善意。それを断るのはとても難しい。
せいぜい、私に出来た事と言ったら、その宮廷侯爵家三男をワイハの街に招き、連日の派手な歓待をさせて留まらせ、バカルディの街に到着するのを一日でも遅らせる事だけだった。
だから、その宮廷侯爵家三男があと数日で到着する距離まで迫り、バルバロス様が帰還した時は人目も憚らずにわんわんと泣いてしまった。
今でも当時の事を思い出すと、恥ずかしさのあまり頭を抱えながらゴロゴロと転がって悶えたくなるが、それくらい安堵したのだ。
それ故、バルバロス様の命の恩人であり、その帰還に多くの貢献をしたニート様にはとても感謝している。
だが、しかしである。私にはニート様を受け入れがたい理由があった。
『旅の間、ずっと考えていたが、さっぱり良い案が浮かばん。
サビーネ、お前の知恵を貸してくれないか? 小僧を騎士にするとしたら、どうしたら良い?』
その原因はバルバロス様が帰還したその日の事。人払いを行った執務室にて、バルバロス様が真っ先に問いた言葉に有る。
当初、それを問われた時、それほど何を悩む必要があるのかと不思議に思った。
アレキサンドリア大王国という強国に対する備えが常に必要な我が領にとって、頼れる優秀な騎士は一人でも多く欲している。
しかも、それがバルバロス様の命の恩人であり、これと認めた相手なら、我々家臣団で反対する者は一人とて居ない。バルバロス様が思うがまま、ニート様を騎士に叙すれば良い。
幸いにして、騎士一人を追加するくらいの資金は領内運営金から余裕で捻り出せる。
それこそ、その功績を考えたら当代騎士では足りない。新たな家を興して、譜代騎士として取り立てるのを薦めたい。
永き戦乱とこの数十年間に何度もあった流行病によって、オータク家もそうだが、家臣団でも後継者不足が問題となっている。
オータク家を支える重臣の御三家ですら、我が家は先代と当代の私、まだ幼い弟が居るからまだ心配は不要だが、もう一家は当代のみで子宝に恵まれず、残る一家に至っては私の生まれる前に血が途絶えてしまっている。
その為、中央より直臣の騎士を招いて、代官を任せている土地も多く、オータク家の将来を考えたら歓迎するべきもの。
ところが、バルバロス様の考えは私のモノと根本が違った。
バルバロス様の考え、それはティラミス様の婿として、自分の後継者として迎える為、ニート様を直臣の騎士にする何らかの手段は無いかというもの。
ここで直臣と陪臣の違いを説明をすると、直臣とは国王が叙した貴族、騎士である。
一方、陪臣とは直臣が叙した貴族、騎士であり、役職や領地の広さ、資産力などが関係してくる為に必ずしもではないが、その格はやはり直臣の方が陪臣より上になる。
その格というモノが貴族社会においては何かと重要視され、特に家と家が密接に結びつく結婚では大きな要素となる。
つまり、王族や高位の貴族が庶民を見初めた末、二人が結びつくというのはお伽噺の中だけの幻想。
例え、それが叶ったとしても、正式な夫、妻にはなれず、妾となるのが関の山。そう言った例なら幾らでも有り得る。
むしろ、格を重視するあまり家だけが結びつき、結ばれた本人同士の関係は冷え込み、妾を互いに持つ貴族は多い。
それは直臣と陪臣でも同様である。
バルバロス様がいかに国王から信頼され、広大な領土や豊富な資金力などを持っていても侯爵。臣下として自由になる人事権は領内止まるし、叙する騎士も陪臣でしかない。
ティラミス様の婿となる者はバルバロス様の後継者。直臣の後継者は直臣でなければならない。
それも侯爵家という格に見合った者に限り、親が認めていたとしても、当人同士が愛し合っていたとしても、それ以外は家臣団が絶対に許さない。
もし、それを認めてしまったら、オータク家の格が下がる事を意味すると共に家臣団全体の格もまた下がる事に繋がるからである。
ましてや、オータク家に仕えている我々は自分達こそがアレキサンドリア大王国から国を守ってきたという自負が強い。
悪く言えば、余所者を嫌う排他的であり、それが外部との繋がりを薄くさせてしまい、後継者不足の悩みに繋がってもいる。
しかし、それが鉄の団結となって、『インランドの赤備え』と他国にも誉れ高く呼ばれ、精鋭兵として名高いのも事実だった。
私自身、断じて認めない。
詳しく聞いてみれば、その出自は不明な上に住んでいた村を追放された戦奴と言うではないか。
その戦奴となった経緯に義憤と同情を覚えるが、認められないものは認めない。
家臣筆頭の私からして、こうだ。さぞや、バルバロス様は悩んだに違いない。
なにしろ、国が建国して間もない黎明期ならまだしも、国境が隣接する三国との争いに一進一退を繰り返して、領土拡張が長らく停滞している今、爵位の変動すら希であり、新しい家が興ったと言う話は皆無である。
もしかしたら、バルバロス様が国王に頼めば、最下位の当代騎士位くらい叙して貰えるかも知れないが、それでは意味が無い。
はっきりと言ってしまえば、無理無茶な注文。
それでも、バルバロス様の家臣として、知恵を頼られたからには一つの案を出してはみたが、その実現はまず不可能だろう。
提案した私自身、上手くゆく筈が無いと考えている。一つの困難を打ち破ったとしても、その後に控える困難が幾つも有るからだ。
だが、ニート様を見ていると何故だか不安が渦巻く。
もしかしたら、この男は困難を困難とすら感じず、それ等を簡単に打ち破ってしまうのではなかろうか、と。
実際、人見知りが激しく、男性との接触経験が皆無だったティラミス様を瞬く間に手懐けてしまっている。
それがまず最初の困難だった筈なのだが、私とバルバロス様が執務室で一刻ほど話し合っていた僅かな隙を突いてである。
今回の領内視察の旅とて、ニート様を随行させるに辺り、ティラミス様は『自分も一緒に行く』、または『どうして、ニート様が行く必要があるの?』と駄々を随分とこねられて、出発する間際の間際まで苦労した。
結局、そのティラミス様を宥めて説得したのも、ニート様だが。
「行ってみたいなぁ~~……。余所の国ぃ~~……。」
そんな私の悩みを知らずに聞こえてくる暢気な歌。
その歌詞に合わせて、『どうぞ、どうぞ。是非とも他の国に行ってくれ』と心の中でぼやかずにはいられなかった。
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「では、先触れに行って参ります」
「よろしく頼む」
砂浜の向こう、防風林の為に残された林の影に村が見え、部下の一人が私達の到着を知らせに馬を走らせる。
夕方まで時間がまだ十分にある。どうやら、今日は予定より早く到着が出来た様だ。
「んっ!? あれ、何だ?」
そう思っていた矢先、日々の旅程を遅らせる大きな原因となっているニート様の『あれ、何だ?』が始まった。
我々にとったら当たり前だったり、見慣れた風景でも、ミルトン王国の山奥育ちのニート様にとっては海近い我が領内のモノが何もかも珍しいらしい。
何かに疑問を感じる度、『あれ、何だ?』と指をさして、ソレを我々に尋ねてくる。
おかげで、この領内視察の旅を始めて、約一ヶ月の間。その都度、説明をしたり、寄り道をしたりと余計な時間を食っている。
先日、海を実際に目の当たりにした時など、私の制止を振り切り、勝手に泳ぎ始めた結果、部下達まで釣られてしまい、丸一日が無駄になった。
挙げ句の果て、私にも泳ごうとさんざん誘い、何度も何度も断っていると、『ひょっとして、あの日ですか?』とデリカシーの無さ過ぎる発言。
事実、その通りで泳げず、自分だけがと悔しい思いをしていたのだが、部下達の前で余計な恥をかいてしまった。やっぱり、どうしても好きになれない。
「ああ、あれですか。あれは海草ですよ。
ああして、浜辺で濡らしたモノを竿に吊して、海風に当てながら干すと、塩が採れるんです」
「そう言えば、ここに来る村々では見ませんでしたね。あれは漁に出ない時や女達の主な仕事なんですよ」
だが、部下達は違う様だ。旅を始めて、三日もしない内に彼等は打ち解けていた。
最近は夜になると、酒を酌み交わし合いながら談笑しているのを良く見かける。
今とて、私が無視して応えないでいると、その質問に進んで喜々と笑顔で答えている。
彼等だけに限った事では無い。
当初は色々と空回り、皆から厄介者の様な扱いを受けていたニート様だが、この旅に出かける時、城下町の多くの者達がニート様に親しげな声をかけてきた。
子供達など、ニート様の馬の後ろに列を作って歌い、その幼い兵隊の行列は見る者に微笑みを誘った。
もっとも、バルバロス様がティラミス様の婿にと認めた男。その人柄が悪い筈が無い。
しかし、それは表面だけかも知れず、その性根は解らない。偽りの仮面を被っている可能性は否定しきれない。
とかく、ヒトという生き物は楽な方、楽な方に流れ易く、自制を失ってしまったら簡単に堕落する。
だから、ティラミス様の相手として相応しいか、将来の試金石として私は試した。
過分なくらい賓客待遇を与え、平民では見た事が無いだろう大金も与えた。
あまつさえ、使用人達の中から最も器量好しの者を選び、その者を側仕えとして与えると、一生の面倒をみる約束と引き換えにして、ニート様を誘惑させた。
それ等の出費は結構な額となったが、これでボロを出してくれれば、安いもの。
そう、ティラミス様と結婚した後、本性を現して放蕩に走り、オータク家の財産を食い潰してくれるよりは断然に安い。
それに加えて、その本性さえ判明すれば、バルバロス様に喜々と反対も出来るし、バルバロス様自身も考え直してくれると考えた。
ところが、ところがである。
ニート様は賓客待遇で怠惰な毎日を過ごす事を良しとせず、自ら仕事を求めて探した。
与えた大金も使ったのは最初の一回のみで微々たる程度。多少の生活用品や数着の着替えを買った程度に過ぎない。
誘惑させた彼女も『そこまでされる謂われはない』と言って抱かず、更に何度も誘惑を命じたが結果は同じだった。
一方、私の思惑とは裏腹にニート様とティラミス様の仲はどんどん近づいていった。
ティラミス様は私の目を盗んでは遠乗りという名の逢い引きを何度も重ね、その代償に熱を出して寝込む事さえも厭わなくなるに至り、このままではまずいと悟った。
『なに、お前も小僧と接していれば解る。
まずは副官として使ってみろ。どうして、儂が小僧に惚れ込んだのかが解る筈だ』
真に遺憾ではあったが、頑なに拒んでいたバルバロス様の忠告に従い、ニート様を私の副官として配した。
無論、言うまでもないが、その働きを期待してでは無い。これ以上、ニート様とティラミス様の仲を近づけない為の処置である。
逢い引きの口実となっている馬での遠乗り。
なら、その発端となったニート様が自主的に仕事として行っている狩りに代わり、城内での仕事を正式に与えれば、遠乗りにも行けなくなるという寸法。
おまけに私の副官となれば、その所在がはっきりする。もう二度と私の目を盗んでの逢い引きなど出来なくなる。
その目論見は見事に成功した。
常にニート様は私の副官として付き従う様になり、その仕事の多さに追われて、遠乗りにも行けなくなった。
ただ、ティラミス様の不興を買ってしまい、以前より口論が絶えなくなってしまったのは計算外だが。
もう一つの計算外はニート様が意外なくらい『使える』という点だ。
理解力、発想力、発展力、企画力、そのどれもが平民とはとても思えず、ニート様は高度な学問を受けた様な能力を持っていた。
その中でも特筆すべきは計数力。
バルバロス様から文字が読めて、計算が出来るとは聞いていたが、誰もが面倒で嫌がる計算が正確な上に恐ろしく速い。
初めて、その早さを目の当たりにした時、唖然と声を失った。
恐らく、それと尋ねた訳ではないが、かなり高度な計算ですら暗算で行っているフシがある。
王都の大学を主席で卒業した私だが、ニート様ほどの正確さも、早さも持っていない。
だが、驚きはこれだけに留まらない。
計算が得意な者なら、ニート様に及ばないでも他に幾らでも存在する。
言ってみれば、その能力は副官や財務官としてはとても有能だが、それ止まりに過ぎない。
バルバロス様が目に入れても痛くないほど可愛がっているティラミス様の婿にとまで惚れ込むに当たらない。
「ああ、そうか。なるほど……。
女の人だと海から汲んで撒くのは重労働だもんな。だから、こうやって塩を作るのか」
「汲んで撒く? それはどういう意味で?」
「えっ!?」
「えっ!?」
時折、ふとした拍子にニート様の口からポロリと零れる不可解な知識。
これこそ、バルバロス様がニート様を高く買っている何よりの理由に違いない。
なにしろ、それは多分野に渡っており、取るに足らない雑学だったり、理解自体が困難なモノも多いが、このオータク領をより富ます可能性を高く秘めていた。
今の発言は正にそれだ。言い換えるなら、それは我々が行っている塩の製法以外のモノを知っているという意味に他ならない。
さっきまで和気藹々と話していた筈の部下達が戸惑い、言葉を失うのも無理は無い。
其れもその筈、この国の最高学府を卒業した私ですら、ニート様の発言の中にあった『撒く』という方法を使った塩の製法は聞き覚えすらない。
『衣食住足りて、礼節を知る』という言葉があるが、その三つの内でヒトが真っ先に求めるのが『食』だ。
そして、礼節を知った者が次に求めるのが『味』である。より食を豊かに楽しむ為、美食を求める。
それ故、ヒトにとって、美食に欠かせない調味料は不可欠なモノ。それ自体が大きな価値を持っており、通貨にも等しい。
だからこそ、塩と砂糖。その二つを産するオータク領は富み、強国であるアレキサンドリア大王国に対する莫大な軍事費も支える事が出来ている。
なら、通貨にも等しいソレを産む製法は重要な機密である。
我が領内で行っている塩の製法は既に有り触れたモノとなっているが、その製法は村々で微妙に違う。
オータク家に仕えている歴代の担当官によって、より増産が出来ないかと試行錯誤が常に続けられており、そのデータは私ですら閲覧が出来ないものとなっている。
塩の製法として、もう一つ。私は北方の他国で行われている潮の満ち引きを利用したモノを大学で学んだ事がある。
しかし、領内の海岸は何処も潮の満ち引きによる高低差が少ない為、このより塩が採れる製法を使えず、それを行う為の土木工事を行ったら、採算を取るのに何十年もかかると知った時の私の落胆ぶりが解るだろうか。
それだけにニート様が知っていると思しき第三の製法はとても興味深かった。『何故、ミルトン王国の山奥育ちの貴方がそれを知っている』と問いたい欲求を無理矢理に飲み込み、すぐさま会話に割り込む。
「ニート様、ちょっとお待ち下さい。今の話、詳しく聞かせて貰えませんか?」
「い、いや……。そ、それは……。そ、その……。」
悔しいが、認める他は無い。ニート様はオータク領に必要な人材だと。
最早、その平民では知り得ない筈の豊富な知識を何処で学んだかなど二の次。問題にならない。
そのまだまだ秘められているだろう知識が他領どころか、他国に走ったら、オータク領のみならず、我が国の損失となるのは間違いない。
だけど、認めない。私は絶対に認めない。こんな何処とも知れぬ馬の骨に可愛い妹をくれてやるなど絶対に認めるもんか。